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10人に1人が課税対象の時代に突入…不動産高騰で“相続税地獄”が一般家庭を直撃

2026.03.05 06:00 2026.03.04 23:14 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田中真一/相続コンサルタント、ファイナンシャルプランナー

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●この記事のポイント
東京23区の不動産価格高騰により、相続税が一般家庭にも広がり始めている。2024年の相続税課税割合は全国で約10.4%に達し、都心では「普通の実家」が評価額1億円近くになるケースも増加。相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人数」にすぎず、都内のマンションや戸建ては容易に超える水準だ。小規模宅地等の特例や生前贈与などの制度を知らなければ、納税資金不足による“キャッシュレス相続”や実家売却に追い込まれる可能性もある。東京不動産バブルの裏で進む「相続税の大衆化」の実態を解説する。

「相続税は資産家の税金」。そんな認識は、もはや過去のものになりつつある。国税庁の統計によれば、2024年に発生した相続のうち、相続税の課税対象となった割合は約10.4%と、ついに1割を突破した。これは制度改正の影響に加え、都市部の不動産価格が急騰したことが大きな要因とされる。

 とりわけ影響が大きいのが東京だ。東京23区では、いまや「普通の実家」が評価額1億円近くになるケースも珍しくない。かつては一部の富裕層だけの問題だった相続税が、都心に実家を持つ一般的な会社員家庭にも降りかかる時代に入りつつある。

●目次

「うちは普通」という思い込みが最大の落とし穴

 多くの人は「親は普通の会社員で預金もそれほど多くない。だから相続税なんて関係ない」と考えている。

 しかし、税務署が見るのは現預金だけではない。相続財産の約4割は不動産とされており、都市部ではその比率はさらに高くなる。

 例えば、親が30年前に購入した都内のマンション。購入価格は5000万円程度だったとしても、現在の市場ではそれが1億円近くの価値になっていることも珍しくない。この「不動産の値上がり」が、相続税の課税対象を一気に広げている。

 都内で実家を持つというだけで、知らないうちに“潜在的な納税義務者”になっている可能性があるのだ。

東京で進む「中古マンション1億円時代」

 背景にあるのは、首都圏不動産市場の異常ともいえる価格高騰だ。不動産経済研究所などのデータによれば、2025年の東京23区では、70平米換算の中古マンション平均価格が1億円を超える水準に達したとされる。

 新築マンションはすでに1億5000万円前後が珍しくなく、価格上昇により新築が買えない層が中古市場へ流入。結果として、築20年や30年の物件であっても値下がりしないどころか、購入時より高く売れる「逆転現象」が起きている。

 この市場価格の上昇は、時間差を置いて相続税評価額にも反映される。相続税の評価の基準となる路線価は、一般的に市場価格の約8割が目安とされる。つまり、実勢価格が上昇すれば、税務上の評価額も必然的に押し上げられる。

 その結果、
・購入価格:5000万円
・現在の市場価格:1億円
・相続税評価額:約8000万円
というケースも十分にあり得る。

 つまり「実家が1億円」という状況は、決して誇張ではないのである。

「3000万円+600万円×人数」という低すぎる壁

 相続税には「基礎控除」という非課税枠がある。計算式は次の通りだ。

 基礎控除額= 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

 例えば、相続人が子ども1人だけの場合、基礎控除は3600万円にすぎない。仮に、評価額8000万円の実家があれば、それだけで課税対象になり得る。さらに都市部では、土地だけでこの水準を超えるケースも多い。

 相続コンサルタントでファイナンシャルプランナーの田中真一氏はこう指摘する。

「東京では、現預金が少なくても“自宅だけで課税対象になる”ケースが増えています。特に一人っ子の場合、基礎控除が小さいため、思った以上に税額が発生することがあります」

 つまり、「資産家ではないから大丈夫」という常識は、もはや通用しない。

相続税を難しくする「不動産評価」というブラックボックス

 相続問題をさらに複雑にしているのが、不動産評価の仕組みだ。評価額は主に次の2つで算出される。

 土地 路線価 × 面積
 建物 固定資産税評価額

 一見シンプルに見えるが、実際にはここから数多くの補正が加わる。例えば、土地の形状、奥行き、接道状況、マンションの階数、共用部分の持分などによって評価額は大きく変動する。

「不動産の相続評価は専門家でも難しい分野です。同じ面積でも評価額が数千万円違うこともあります。自己判断で『うちは大丈夫』と考えるのは危険です」(田中氏)

 相続税対策として知られるのが小規模宅地等の特例だ。被相続人が住んでいた自宅の土地について、最大80%の評価減が認められる制度である。例えば、評価額1億円の土地が特例適用を受ければ、評価額2000万円まで圧縮できる。

 しかし、この制度には厳しい条件がある。「同居していた親族」「家を持っていない親族(いわゆる「家なき子」)」などでなければ適用できない。都市部では、「親は実家に一人暮らし」「子どもは都内にマイホーム」というケースが多く、この特例が使えない家庭も少なくない。

最大の悲劇「キャッシュレス相続」

 不動産相続の最大の問題は、納税資金不足だ。相続税は、原則として相続開始から10か月以内に現金一括納付しなければならない。

 もし、実家の評価額が1億2000万円、現預金ほぼゼロ、というケースなら、数百万円〜1000万円規模の納税が必要になる可能性がある。現役世代にとって、これは決して小さな金額ではない。

「相続税を払うために実家を売る家庭は珍しくありません。問題は、納税期限があるため“急いで売却”になりやすいことです。本来の市場価格より安く手放してしまうケースも多くあります」(同)

 さらに、不動産は現金のように分割できないため、兄弟間のトラブル、売却か保有かの対立など、いわゆる“争族”に発展することもある。

今すぐできる「資産防衛」3つのステップ

 では、どうすればよいのか。専門家は、早期の準備を強く勧める。

① 路線価で実家の評価を確認
国税庁の路線価図を見れば、土地評価の目安を知ることができる。固定資産税の通知書と合わせれば、概算評価は把握できる。

② 生前贈与制度の活用
2024年の税制改正で、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設された。これにより、生前贈与を活用した資産移転が以前より使いやすくなっている。

③ 親との情報共有
もっとも重要なのは、親が元気なうちに資産状況を共有することだ。実家を残すのか、売却するのか、介護費用はどうするのか……。こうした問題は、突然の相続後では決められない。

不動産は「資産」から「リスク」へ

 かつて日本では、不動産は「持っていれば安心な資産」と考えられてきた。しかし、人口減少や税制、都市部の価格高騰を背景に、その意味は変わりつつある。東京23区の住宅は、資産価値が上がるほど相続税リスクも増大するという構造を抱えている。

「うちは普通の家庭だから関係ない」と思っている人ほど、突然の納税に直面する可能性が高い。現在の日本では、相続問題はもはや富裕層だけの話ではない。まずは、自分の実家の価値を知ることが、将来のトラブルを防ぐ第一歩となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田中真一/相続コンサルタント、ファイナンシャルプランナー)

公開:2026.03.05 06:00