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今大注目、企業の命運を左右する“あるもの”とは?人材獲得や資金調達に多大な影響

文=寺尾淳/ジャーナリスト
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今大注目、企業の命運を左右する“あるもの”とは?人材獲得や資金調達に多大な影響の画像1「写真素材 足成」より
 企業経営の世界では、21世紀に入ってから次々と新語が現れてはメディアをにぎわせてきた。CSR(企業の社会的責任)、SRI(社会的責任投資)、サスティナビリティ(持続可能性)、エシカル(倫理的、道徳的)、ダイバーシティ(多様性)、コーポレート・ガバナンス(企業統治)……。そして最近、彗星のように現れた新語がESGである。

 ESGとはEnvironmental(環境)、Social(社会)、Governance(統治)のそれぞれの頭文字を取ったもので、一般的に投資家が投資先企業を選ぶ際の目安とするEPS(1株当たり利益)、ROE(自己資本利益率)、配当や自社株買いなどの株主還元策以外で重視される非財務的要素を指す。2012年7月に東京証券取引所(東証)が「ESG銘柄」を選定し、新たな株価指標として「ESG銘柄インデックス」の試算を始めているが、その後のアベノミクス相場による株価上昇局面の中、ESGはマーケットではあまりスポットライトが当たらない言葉だった。

 ところが、ESGに注目を集める出来事が起きた。国民年金、厚生年金など年金資金の運用を行い、東京株式市場で大きな存在感を持つGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が4月2日、今後5年間の中期計画を発表した。その中に、ESGを考慮した投資を新たに検討するという文言が盛り込まれていたのだ。今後、GPIFの運用委員会で導入の是非を議論するというが、総資産137兆円を有する国内最大の機関投資家がESG投資を始めるということで、各メディアでにわかにESGという言葉が取り上げられるようになった。

 実は、冒頭に挙げた企業経営関連のキーワードは、すべてESGにつながりがある。

 株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会など企業の利害関係者(ステークホルダー)に対し、CSRをどれだけ果たしているかを基準に加えて投資を行うのがSRI。それは長期的な視点でサスティナビリティに着目した投資と密接な関連がある。エシカル投資とは、いわゆるブラック企業のように道徳、倫理、平和、人権、環境などの点で問題を抱える企業を避けて投資先を選ぶというSRIの一環。欧米では「エシカルファンド」は「エコファンド」と並ぶほどの存在になっている。また、経済産業省は毎年、女性を中心に多様な人材を活用した経営を行っている企業を選んで「ダイバーシティ経営企業100選」として公表している。

 コーポレート・ガバナンスは「会社は誰のものか?」という根源的な問いを突きつけ、日本企業にとって今、非常に重要なトピックになっている。政府からも東証からも促され、行動規範、倫理規範の制定、不正がないかを外部からチェックする社外取締役や社外監査役の起用、執行役員制度、委員会設置会社への移行など、さまざまなかたちで改革が行われている。東証は06年から上場企業に「コーポレート・ガバナンス報告書」の提出を義務づけ、昨年から算出が始まった新しい株価指数、「JPX日経インデックス400」の400銘柄を選定するに当たって、財務指標のROEなどと並んで、社外取締役の設置のようなコーポレート・ガバナンスの面も考慮されている。

 ESG投資とはSRI+コーポレート・ガバナンス重視、すなわち次のような視点を投資先選びの基準に加えることといえる。環境に配慮し、倫理的に問題がなく、社会的な責任を十分果たし、持続可能性があり、女性活用にも企業統治にも積極的な姿勢を見せる企業か否かである。

独自集計したESG投資の有力候補企業

 このように、ESGには環境、社会、企業統治に関連したさまざまな要素が流れ込んでいるが、日本にはすでに、それぞれについて優れた企業の表彰制度が存在している。ESG自体も東証が3年前に「ESG銘柄」を選んでおり、環境については環境省の「エコ・ファースト制度」、ダイバーシティについては経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」や、東証も企業の選定に関与している「なでしこ銘柄」がある。エシカルは世界の大企業から選定される「エシカル企業ランキング」(エシスフィア・インスティテュート)があり、日本企業も毎年3~4社がランクインしている。コーポレート・ガバナンスの表彰制度は12年度から始まった東証の「企業価値向上表彰」がある。

 それぞれに重複して表彰されている企業がある。業種ごとの表彰枠が決まっているものもあり、表彰回数が多ければ「ESG投資先にふさわしい企業」と見なすのは少々単純すぎるかもしれないが、とりあえず目安にはなる。そこで、最近の表彰回数を独自に集計した上位10社を掲載する。もっとも、順位で企業の優劣をつけるつもりはなく、ここに挙がれば「ESGに特に熱心で、よく表彰されている企業」「ESG投資の有力候補企業群」程度に思ってほしい。

【ESGの表彰回数が多い企業10社】

1 資生堂(5回)
1 花王(5回)
3 損害保険ジャパン(4回)
3 日産自動車(4回)
5 大阪ガス(3回)
5 キリンホールディングス(3回)
5 TOTO(3回)
5 丸紅(3回)
5 LIXILグループ(3回)
5 リコー(3回)
(同順位は五十音順)

 1位の資生堂と花王は「エシカル企業ランキング」に3年連続で選ばれており、「世界が認めたESG企業」ともいえる。3位の損害保険ジャパンは昨年9月に日本興亜損害保険と経営統合して損害保険ジャパン日本興亜ホールディングスとなったので、日本興亜損害保険の1回を合わせると1位に並ぶ。3位の日産自動車は環境でも社会でも表彰にまんべんなく顔を出していて、企業統治も評価されればバランスのとれたESG企業といえる。5位の丸紅は「企業価値向上表彰」の大賞に過去3回のうち2回ノミネートされており、大賞も1回受賞。企業統治への評価が高い。

 ちなみに、この10社のうち株価指数「JPX日経400」の銘柄に選定されていないのは、経営統合からまだ半年しか経過していない損害保険ジャパン日本興亜ホールディングス1社だけである。

 ここに挙げた10社は、もしGPIFの運用委員会に認められてESGを考慮した投資が新たに開始されれば、年金資金が流入して株価が堅調に推移する「ESG関連銘柄」としてマーケットで注目されるようになるだろう。また、環境、社会、企業統治の3要素で構成されるESGに優れているということは、環境にとっても地域社会にとっても取引先にとっても、そこで働く人にとっても「いい会社」を意味するので、その企業の大学生の就職人気ランキングが上がり、優れた人材を採用でき、それが成長の原動力になるだろう。そのように、業績に直結する資金調達でも人材獲得競争でも有利になることがわかれば、日本企業の間でESG経営がますます広まっていくはずだ。

 ESGは、日本の企業社会を良い方向に導いてくれる力を秘めている。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)

【表彰のデータ】

・「ESG銘柄」(東証:2012年)

アサヒGHD、出光興産、東レ、ツムラ、日産自動車、アサヒHD(貴金属リサイクル)、小松製作所(コマツ)、日本電産、KDDI、大阪ガス、東京急行電鉄、伊藤忠商事、ファーストリテイリング、三菱UFJフィナンシャル・グループ、リコーリース

・「エコ・ファースト企業」(環境省)

ビックカメラ、ユニー、積水ハウス、ライオン、キリンビール、NECパーソナルコンピュータ、滋賀銀行、日産自動車、日本興亜損害保険、東京海上日動火災保険、電通、タケエイ、ダイキン工業、損害保険ジャパン、全日本空輸、住友化学、三洋商事、リマテックホールディングス、日本ミシュランタイヤ、ノーリツ、資生堂、住友ゴム工業、日本航空、ワタミ、ニッポンレンタカーサービス、戸田建設、熊谷組、クボタ、川島織物セルコン、富士通、辻・本郷税理士法人、リクルートホールディングス、ブリヂストン、スーパーホテル、エフピコ、一条工務店、ブラザー工業、大成建設、アジア航測、LIXILグループ

・「ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省:12~14年度の従業員数301人以上の企業<促進事業表彰を除く>)

花王、キリンホールディングス、サトーホールディングス、サントリーホールディングス、資生堂、東芝、日立製作所、富士電機、リコー、日産自動車、コクヨ、サラヤ、TOTO、アイエスエフネットグループ、NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、NTTデータ、スタートトゥディ、第一生命保険、りそな銀行、沖縄ツーリスト、凸版印刷、富士通、大塚製薬、帝人、エステー、アステラス製薬、アサヒビール、トッパン・フォームズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン、積水化学工業、MSD、リクルートホールディングス、日本マイクロソフト、日本ヒューレット・パッカード、SCSK、大垣共立銀行、損害保険ジャパン、東京海上日動、住友生命、三菱東京UFJ銀行、大和証券、あいおいニッセイ同和損害保険、高島屋、イケア・ジャパン、楽天、大成建設、ポーラ、LIXILグループ、カルビー、大日本印刷、バクスター、富士特殊紙業、川村義肢、山陽特殊製鋼、エフピコ、中部電力、大阪ガス、日立ソリューションズ、日立物流、東日本旅客鉄道、イオン、三越伊勢丹、ローソン、千葉銀行、アメリカンファミリー生命保険(アフラック)、三井住友銀行、日本GE、三井住友海上火災保険、明治安田生命保険、日本生命保険、リゾートトラスト、ジェイティービー、パソナグループ、六花亭製菓

・「なでしこ銘柄」(経済産業省、東証:14年度)

大和ハウス工業、積水ハウス、カルビー、サントリー食品インターナショナル、東レ、大王製紙、花王、メック、中外製薬、JXホールディングス、ブリヂストン、TOTO、ジェイエフイーホールディングス(JFE)、住友金属鉱山、LIXILグループ、コマツホールディングス、ダイキン工業、日立製作所、東芝、川崎重工業、日産自動車、ニコン、トッパン・フォームズ、大阪ガス、東京急行電鉄、日本郵船、日本航空、KDDI、SCSK、丸紅、三井物産、ローソン、ユナイテッドアローズ、りそなホールディングス、三井住友フィナンシャルグループ、大和証券グループ本社、第一生命保険、エヌ・ティ・ティ都市開発、ノバレーゼ、JPホールディングス

・「エシカル企業ランキング」(エシスフィア・インスティテュート)に選ばれた日本企業 (13~15年)

リコー2回、資生堂3回、花王3回、損害保険ジャパン2回、日本郵船1回

・「企業価値向上表彰」(東証:12~14年度) 大賞、優秀賞

ユナイテッドアローズ、エーザイ、HOYA、丸紅(2回)、三菱商事、キリンホールディングス、バンダイナムコホールディングス、伊藤忠商事、アンリツ、オムロン、TOTO、ピジョン、東京ガス

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