
前編では、農業と再生可能エネルギーを切り離さず、現場の当事者として向き合う千葉エコ・エネルギーの取り組みを紹介しました。
農業とエネルギーを地域の中で循環させる——。営農型太陽光は、その実践例として確かに可能性を示しています。しかし、その可能性が広く農家の事業として根付いているかといえば、現実はそう簡単ではありません。
前編でも触れたように、営農型太陽光は農業と発電を両立できる仕組みです。しかし実際の現場では、農業法人が主体となって発電まで担うケースは少なく、多くの場合、農地の貸し手にとどまっています。なぜ、農業と再生可能エネルギーを両立させるはずの仕組みが、農家自身の手に委ねられていないのでしょうか。
千葉エコ・エネルギー株式会社 専務取締役の蘒𠩤(はぎわら)領氏に、営農型太陽光が抱える制度的な壁と、その背景にある構造について伺いました。
農業法人が営農型太陽光に踏み出せない“壁”

安藤:海外においては、営農法人が営農型太陽光の発電所を所有して発電を行う方法もありますよね。
蘒𠩤:そうですね。実際、農業法人が営農型太陽光を運用し、農業用の灌水ポンプの動力として活用するなどの事例もあります。
安藤:一方、日本国内においては、農業法人は営農型太陽光のために農地やその地上権を貸し出すのみで、発電者は別法人のケースが一般的です。
農業法人等が発電所を所有し、当社のような小売電気事業者に対して電力を販売するスキームがあれば、アセットを持たない小売電気事業者にとってはメリットが出てきますし、農業法人も営農と合わせた設備のO&M等とも親和性があるのではないでしょうか。
蘒𠩤:農業法人が営農型太陽光を行うにあたってはいくつか障壁があるのです。
おもなものとして、
- 発電設備の初期投資が大きく、資金調達のハードルが高いこと
- 需給管理や計画提出など、電力事業特有の対応が求められること
- 関係省庁が複数にまたがり、制度の整理が十分でないこと
- 発電収入の比率によって、農地適格法人から外れる可能性があること
- 太陽光発電に対する心理的な抵抗感が残っていること
などが挙げられます。
莫大な初期投資というハードル
蘒𠩤:まず、発電事業に参入するには、設備投資に莫大なコストがかかります。しかし、一農業法人が個人で負える投資規模はそう大きくありません。発電事業のための投資を、自分たちの与信だけで調達するとなると、かなり厳しいのが現実です。
海外では、政府や地方自治体が補助を出したり負担したりすることで、設備投資のリスクを分散させるなどの仕組みをつくっているケースもあります。日本でも同じような座組ができれば、コスト面のハードルはかなり低くなるのではと思います。
需給管理という、もう一つの専門性
蘒𠩤:FITを活用した売電であれば、発電した電気を電力会社が固定価格ですべて買い取るため、需給管理の必要はありません。発電事業に知見のない農業法人でも参入障壁は低いはずです。
安藤:確かに、FIPや非FITの場合は、発電量の予測や、計画提出を発電者である農業法人が行うとなるとハードルが高そうです。
蘒𠩤:そもそも、地方の農業法人が、電気の売り先を検討してくれるレジル社のような小売電気事業者とつながりを持つこと自体が困難です。知見がなく頼る相手もいない中で、仕組みが複雑な新領域に参入するくらいなら、本業を成長させるべきだという考えに落ち着いてしまうのでしょうね。
三省庁にまたがる制度が、現場を迷わせる
蘒𠩤:営農型太陽光を農業法人が行う場合、複数の官公庁が関与することになります。たとえば、脱炭素分野は環境省、エネルギー分野は経済産業省の資源エネルギー庁、農業分野は農林水産省です。この三省庁はいずれも、営農型太陽光を地域共生型の電源として位置付けていますが、実際の制度設計や判断基準はそれぞれ異なります。
環境省の場合、脱炭素と同時に生物多様性への配慮を求めますし、経済産業省の場合は電力の安定供給や安全性を重視します。農林水産省は、農家や農地の保護です。現在の制度下では、どの省庁に基準を合わせればよいのかが不明確なまま、営農型太陽光をスタートさせることになってしまいます。
営農型太陽光と「農地適格法人」の壁
蘒𠩤:営農型太陽光を行うことで、農地適格法人から外れ、農地の購入ができなくなる可能性があることも、大きな障壁です。農業法人には、売上の過半を農業によるものとするなど、一定の要件が課されています。そのため、発電事業など農業以外の事業の売上が農業の売上を上回ってしまうと、農地を買えなくなったり、是正を求められたりする可能性があるのです。
ただ現状では、発電事業で得た収入を農業収入と認めるケースもあれば認めないケースもあります。営農型太陽光は比較的新しい取り組みのため、制度がまだ追いついていないのです。
農林水産省で今年、「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」が開催されるなど、営農型太陽光に関しては、どのような形で運用していくのがよいのか、まだまだ整理・議論の段階にあるといえます。
制度だけではない、現場の心理的な障壁
蘒𠩤:これに関しては太陽光そのものに対する抵抗感というよりも、「先祖代々守ってきた農地を自分の代で変化させてしまってよいのか」という心理的な障壁ですね。
村田:おそらく、農業従事者に高齢者が多いことも原因なのでしょうね。比較的若い方だと、発電事業者と組んで営農型太陽光のために地上権を貸し出すことに抵抗がない方もいるのではないかと思います。
蘒𠩤:そうですね。地域のつながりという部分もあるかと思います。周囲が農業だけで事業を成り立たせることに苦労していたり、耕作放棄地を持て余していたりしている一方で、営農型太陽光などを行うことが“抜け駆け”のように感じられるのかもしれません。
安藤:発電所を設置することで、今後十数年にわたって管理が必要になることも、高齢者が産業の中心である農業では足踏みしてしまう一因になるでしょうね。
国土の制約から考える、土地利用の再設計

安藤:実際に営農型太陽光を行うことになっても、農機の動線や発電量などを考慮して太陽光パネルをレイアウトすることになりますよね。そう考えると、ただ農地に太陽光パネルを設置すればよいわけではなく、農業を行う上での効率性も含めて設計しなければなりません。
蘒𠩤:ヨーロッパでは、「土地の総合利用効率」という考え方が研究されています。ひとつの土地を複数の用途で活用する場合、単体で活用するよりもそれぞれの生産率は20〜30%減少するとしても、総合的な生産率は150%になる、といった考え方です。日本は国土が狭いですし、平野部も限られています。エネルギーも食料も自給率を高めていく必要がある中で、こうした複合利用の考え方にシフトしていくことは避けて通れないと感じています。
営農型太陽光を行うにおいては、農地としても発電設備としても扱われる特性を踏まえ、どのような考え方で管理・運用するのかを整理すべき段階にきているといえます。
時代の変化に合わせて、制度を点検し直す

村田:営農型太陽光の運用方法や位置付けを整理したり、農業法人でも実施できるように制度を整えたりするにあたって、千葉エコ・エネルギーができるアプローチを教えてください。
蘒𠩤:千葉エコ・エネルギーは、自分たちを政策系スタートアップであると定義しています。現在の制度や仕組みに対して、現場で農業の当事者として動いている我々からのフィードバックや提言が大切だと考えています。
現在、農業法人が自分たちで営農型太陽光を運用しづらい仕組みになっているのは、どこかの省庁や農業従事者に原因があるということではありません。これまで適用に違和感が生まれなかった制度や法律が時代に合わなくなってきた部分があるのです。 たとえば、農地法により、農地は他用途への転用が難しくなっています。現在はこのルールに頭を悩ませている農業法人が多いですが、当初は「農地を守る」ためのルールとして機能していました。こういった時代と齟齬が出ているものに対して、感情論ではなく、現場を見ているからこそのエビデンスをもって制度をどう変えていくべきかを提案していく。そういった“点検作業”こそが、我々千葉エコ・エネルギーの持つ役割だと考えています。
営農型太陽光が農家の事業として根付かない背景には、個々の農業法人の意思や努力だけでは越えられない制度的な壁があります。
農業とエネルギーを対立させるのではなく、両立させる前提で仕組みを見直す。現場からのエビデンスをもとに、その“点検”を続ける千葉エコ・エネルギーの取り組みは、営農型太陽光を次のフェーズへ進めるための重要な一歩といえるでしょう。