
2026年7月、京都で国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2026」が開催される。テーマは「Japan is Back」。京都市勧業館「みやこめっせ」やロームシアター京都を中心とするIVSエリアに加え、ホテルオークラ京都では招待制エリア「IVS CORE」も新設される。
その中で、IVS2026の会場に日替わりで立ち上がるのが「IVS Startup Market」だ。3日間の会期中、延べ340社、1日あたり100社のスタートアップが総入れ替えで出展する展示交流企画である。だが、上中氏が繰り返し語ったのは、展示会ではなく『市場』という捉え方だった。
なぜIVSにStartup Marketが必要なのか。IVS2025で得た手応えを、IVS2026ではどう進化させようとしているのか。IVS Startup Marketの企画に携わる上中氏に、その構想を聞いた。
目次
- 「赤字を切ってでも」場所をつくる
- 採用に閉じず、事業が動く場所へ
- 展示会ではなく、「市場」である
- 「Japan is Back」と出展社の質
- 日替わり100社が生む熱量
- 意思決定者と出会う導線
- 気構えずに入れる、次の起点
「赤字を切ってでも」場所をつくる
IVS Startup Marketは、IVS2025から始まった展示交流企画だ。出展できるのは、IVSからの推薦、国内有数のベンチャーキャピタル(VC)や著名起業家からの推薦、または自薦審査を通過したスタートアップに限られる。出展社数を増やすだけではなく、誰が推薦し、どのような文脈で会場に立つのかまで設計する点に特徴がある。
その構想は、上中氏の中では以前から温められていたものだった。
「もともと『Startup Market』という構想は、2年くらい前からずっと持っていました。カンファレンスは、大きな会社さんがお金を出すことで支えてもらっている構造がある。それはもちろんあるんですけど、本当にスタートアップのためのカンファレンスと銘打つのであれば、赤字を切ってでも場所を確保して、大量のスタートアップを出展させたほうがいいんじゃないか、と話していたんです」
IVSは、2007年の初開催以来、起業家、投資家、事業会社、行政、学生など、立場の異なる人たちが集まる場として続いてきた。2023年からは京都開催となり、2025年には来場者1万3000名以上、海外比率20%、世界70以上の国と地域からの参加を記録した。規模の拡大とともに、会場で生まれる接点も多様になっている。
だからこそ、スタートアップそのものが主役として立つ場所が必要だった。カンファレンスの舞台上で語られるスタートアップだけではなく、会場を歩けば多くの挑戦者に出会える状態をつくること。それが、Startup Marketの原点にある。
採用に閉じず、事業が動く場所へ
上中氏が重視するのは、会場に来る人の目的と、そこで実際に起こる行動のズレである。過去の企画では、自身の経験から採用を目的に企業を集めた場もあったという。しかし、京都のIVSに集まる人たちは、必ずしも採用や就職だけを目的に来ているわけではない。
「京都という場所で、スタートアップ、大企業、それを支えるステークホルダーの皆さんにお集まりいただく。偶発的に採用につながることはあるかもしれないけれど、基本的に『採用されたい』『採用したい』という目的を持っている人たちが多いわけではない。この2年間を見て、そこはすごく感じています」
IVS Startup Marketが担うのは、採用に閉じない接点だ。資金調達、事業提携、顧客開拓、協業、投資家との対話。前回IVS2025では、出展満足度が5点満点中4.40、VCがブースを案内するマーケットツアーの満足度も3.94を記録した。1ブースあたりの平均来場者数は110名、最大で500〜800名。投資家平均22名、取引先候補者平均23名との接触も生まれた。
これは、展示会としてのにぎわいだけを示す数字ではない。スタートアップにとって、自社を説明し、相手の反応を受け取り、次の商談や協業に進むための実利があったということだ。
展示会ではなく、「市場」である

それでも、上中氏はStartup Marketを単なる展示会として捉えていない。インタビューの中で、何度も繰り返されたのが「市場」という言葉だった。
「市場って、いろんな人たちがいるじゃないですか。ただ眺める人もいれば、買いに来る人もいるし、味見しに来る人もいる。いろいろなニーズに対して、誰でも寄っていいし、誰でも自由に話していい場所なんです」
カンファレンスのセッションは、登壇者と聴講者という構造になりやすい。目的意識の高い参加者ほど、聞くべきセッション、会うべき人、行くべきサイドイベントを事前に決めて動く。一方で、市場には目的を持たない人も入ってくる。ふらりと歩き、目に留まったものを見て、隣の人と話し、そこで初めて関心が生まれる。
Startup Marketが目指すのは、その偶発性である。
「ネットワーキング企画ももちろん偶発性を生むんですけど、それ以外の場所でどこが一番偶発的な出会いを生むかというと、Startup Marketが近いのかなと思っています。思ってもみないこととか、思ってもみない出会いが人生を変えることにつながる」
展示会は、出展社が説明し、来場者が比較する場として見られがちだ。Startup Marketは、一般的な展示会の枠には収まりきらない。出展社にとっては商談の場であり、投資家にとっては発掘の場であり、事業会社にとっては協業の入口であり、まだ明確な目的を持たない参加者にとっては、次の関心を見つける場所でもある。
「Japan is Back」と出展社の質
IVS2026のテーマは「Japan is Back」。このテーマを掲げる年に、Startup Marketはどのような企業を集めるべきなのか。上中氏は、そこに2026年版のアップデートがあると見る。
「今回は『Japan is Back』というテーマで、日本を体現することを掲げています。改めて、日本のスタートアップ企業ってこれだけ素晴らしい企業があるんだということを示していくことが重要だと思っています」
IVS2026のStartup Marketでは、IVSからの推薦、VCや著名起業家からの推薦、自薦審査に加え、時価総額上位のスタートアップへの声がけも進める。シード、シリーズAの企業だけではなく、よりレイターステージの企業も含め、日本のスタートアップの厚みを見せる構成を目指す。
日替わり100社が生む熱量
IVS2026では、3日間で延べ340社、1日あたり100社以上が日替わりで出展する予定だ。この総入れ替えの仕組みは、運営側にとっては簡単ではない。出展社の募集、選考、配置、連絡、当日の導線設計まで、膨大な調整が必要になる。
それでも、上中氏は日替わりであることに価値を見いだしている。
「300社が1日ごとに入れ替わっていく企画は、なかなかない。毎回来るごとに違う出会いが待っているという観点で、IVSの中では必ず立ち寄ってもらいたい場所の一つです」
参加者にとって、会場を訪れる日が違えば出会う企業も変わる。Day 1に見た企業とDay 2に見た企業、Day 3にLAUNCHPADへ向かう前に出会う企業は、それぞれ異なる。そこには、予定された商談だけではなく、会場を歩いたからこそ起こる接点がある。
偶発性は、ただ放っておけば生まれるものではない。どの企業を集め、どの順番で並べ、どんな人がそこを歩くのか。自由に行き交える場が用意されているからこそ、偶然の出会いが生まれる。Startup Marketの実利は、その構造にある。
気構えずに入れる、次の起点
上中氏は、Startup Marketを「気構えずに来てもらいたい場所」と表現する。
「ふらっと来てもらって、『あの会社面白そうだな、話してみよう』でもいい。眺めていたら、スタートアップ企業が声をかけてくれるかもしれない。そういう場所にしたいんです。」
スタートアップカンファレンスは、ときに目的意識の強い人たちのための場に見える。誰と会うか、どのセッションを聞くか、何を持ち帰るか。だが、事業の転機は、必ずしも事前に決めた予定の中だけで起こるわけではない。歩いていたら目に入ったプロダクト、数分だけ交わした会話、隣に立っていた人からの紹介。そうした小さな接点が、後から意味を持つことがある。
IVS2026のStartup Marketは、340社の展示交流企画であると同時に、参加者がまだ知らない問いに出会うための市場でもある。そこでは、買い手も、売り手も、投資家も、起業家も、漠然とした興味や関心を持って訪れた人も、同じ通路を歩く。
上中氏が語る「市場」の比喩は、IVS2026が掲げる「誰でも歓迎する」という姿勢そのものだ。何かを探しにいく人だけでなく、まだ何を探しているのか分からない人にも、Startup Marketの入口は開かれている。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)