
2026年7月、国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2026」が、4年連続となる京都の地で開かれる。テーマは「Japan is Back」。
京都市勧業館「みやこめっせ」、ロームシアター京都を中心に、1万人以上の来場が見込まれるIVSエリア。その中で、セッションやピッチと同じくらい重要なものとして設計されているのが、参加者同士の出会いだ。
ネットワーキングは、名刺交換や偶然の雑談で終わるものなのか。それとも、参加者が次の行動に移るための接点になり得るのか。
株式会社ゼロワンブースター(01Booster)シニアアソシエイトで、「IVS2026」ネットワーキングのディレクターを務める下地雄貴氏に、IVS2026で設計する「偶然と必然の出会い」について聞いた。
目次
- 行動が起こる場所から、個人・組織・世界は動き出す
- 「会いたい人」を、本当はまだ誰も知らない
- “シャイ”を剥がす、細部の設計
- 5次のつながりを追うための、最初の一歩
- “時間軸”の機会損失をなくすMatching Wall
- “怪しい”から“気になる”へ、闇市がつくる入口
- 行動からの出会いで、今の自分がある
行動が起こる場所から、個人・組織・世界は動き出す
下地氏はIVS2026での自身の役割を「全ての人に、実利のある出会いを持ち帰ってもらうこと」「偶然と必然の出会いを最大化すること」としており、ネットワーキングをIVSの体験価値そのものを支える機能として捉えている。
下地氏の言葉でいえば、来場者が「次につながる何か」を必ず持ち帰るための設計である。
その根底には、成長に対する明確な考えがある。
「出会いこそが、成長に一番クリティカルだと思っています。個人の成長も、組織の成長も、世界の成長も、原点は個人の行動力でしかない。その行動をしたときに得られるリワードが、出会いなんです」
人が動く。誰かと話す。そこから考え方が変わり、事業や組織の次の打ち手が生まれる。下地氏にとって、ネットワーキングはイベントの付属機能ではなく、行動を誘発するための装置である。
「ネットワーキングは、いまの見られ方としてはセーフティーネットかもしれない。でも、そうではないと思っています。考えがある人も、時にはぼーっとしたいときがある。そのときに来てもらえれば、次がある」
集中してセッションを聞く時間もあれば、頭を空にして歩きながら、偶然見つけた掲示や会話に引っかかる時間もある。むしろ、考えていないときにこそ、次の関心が生まれることがある。下地氏は、ネットワーキングエリアをそうした「余白」であり「潤滑油」として位置づける。
IVS2026のテーマである「Japan is Back」を、登壇者やセッションだけで伝えるのではない。参加者一人ひとりが、自分の次の行動を見つける。その積み重ねが、個人、組織、そしてスタートアップエコシステム全体の高さにつながっていく。
「会いたい人」を、本当はまだ誰も知らない
下地氏がネットワーキングにこだわる背景には、自身のIVS体験がある。最初はボランティアスタッフ・企画スタッフとして関わり、起業家や支援者と話す中で視座を上げ、偶然の株式会社ゼロワンブースターとの出会いもIVSを通じて生まれた。
だからこそ、下地氏は「会いたい人に会う」という言葉を、少し疑っている。
「会いたい人が具体化できている時点で、その人は本当に会うべき人ではないパターンも多いと思っています。自分にとって本当に必要な人なんて、最初から分かっているはずがないんです」
検索して会える相手は、すでに自分の関心の内側にいる。だが、事業やキャリアを動かす出会いは、まだ自分でも気づいていない「思いがけないところ」にあることも多い。下地氏が増やそうとしているのは、そうした未知の接触面である。
「だから、接触面を最大化したかったんです」
会いたい人を探すのではなく、会う前には価値が分からない相手と話せるようにする。IVS2026のネットワーキングは、その前提から組み立てられている。
“シャイ”を剥がす、細部の設計

初対面の相手に話しかけるには、意外なほど小さな心理的摩擦がある。相手の名札を正面から凝視できない。情報を見ているうちに目が合い、話しかけなければいけないような圧を感じる。興味はあるのに、最初の一言が出ない。
下地氏は、そうした場面をかなり細かく観察している。
「刹那のすれ違いの中で、人は、人に話しかけるかどうかを、相手の正面に立ってみて判断することは少ないと思っています。目が合いそうってだけで緊張するので。よって、他の手段で見える情報をとってもらい “おっ!”と直感的にひらめき、話しかけるかどうかを決められるようにしたいという考えがありました」
参加者の情報を背中側にも掲示できるようにする。参加者同士のマッチング企画であるIVS AMAの掲示ポップを、テーブルの高さではなく180センチ程度の高さに上げる。視線が正面でぶつからないようにすることで、相手の情報を自分のタイミングで拾えるようにする。
「お互いが緊張を感じず、好きなタイミングで情報を拾えることが、すごく重要なんです」
これは、ネットワーキングを得意な人だけの場にしないための工夫でもある。最初から積極的に話しかけられる人だけが成果を持ち帰るのではなく、少し迷っている人、様子を見たい人、まずは相手の情報を知りたい人にも、会話の入り口を用意する。下地氏の設計は、そうした小さな心理的摩擦を減らす方向にも向いている。
それは、あらゆる人の“シャイな気持ち”を気合いで乗り越えさせる設計ではない。話しかける前の緊張を減らし、自然に一歩を踏み出せるようにする設計である。
5次のつながりを追うための、最初の一歩
下地氏は、出会いを一回で完結するものとして見ていない。ある相手との会話が、その先の誰かを紹介してくれる。さらにその先で、思いがけない協業や投資、採用、学びにつながることがある。
「出会うだけじゃなくて、出会い続ける。そこを諦めないで楽しめる体験設計を、ちょうどよく盛り込みたいです」
そのためには、最初の接点が重すぎてはいけない。いきなり事業提携や資金調達の話をする必要はない。好きなもの、差し出せるもの、今話したいテーマ。小さな入口から会話が始まり、その先に2次、3次、5次のつながりが広がっていく。
IVS2026のネットワーキングは、成果を一度で取りに行く場所ではない。出会いを連鎖させるための最初の一歩を、どれだけ多く生み出せるかに焦点がある。目の前の一人と話すことが、まだ見えていない誰かにたどり着くための入口になる。
“時間軸”の機会損失をなくすMatching Wall

会場にいるのに、同じ時間に同じ場所にいなかったために出会えない。カンファレンスでは、こうした機会損失が日常的に起こる。セッションを聞いている間に、会いたかった相手は別の場所へ移動している。話しかけたいと思ったときには、もう見つからない。
下地氏は、IVS Matching Wallを、その時間軸の機会損失を埋める仕組みとして捉えている。
「出会いの機会損失って、ある空間にいるときに一緒にいなかった、という物理的なものが多いと思っています。でも、自分の好きなタイミングで見て、気になる人に連絡できる。そこがMatching Wallの機能です」
目の前にいる人と話すだけではなく、会場にいた誰かの目的や関心を、後からでも見つけられるようにする。IVS2026のネットワーキングは、偶然を放置するのではなく、偶然が起きる面積を増やす設計になっている。
“怪しい”から“気になる”へ、闇市がつくる入口
IVS AMAの中で、下地氏が新たに仕込んでいる企画が「闇市」だ。参加者が「私が提供できるもの」と「私が提供してほしいもの」を掲げ、そこから会話を始める。
通常のネットワーキングでは、所属や肩書、事業テーマが入口になることが多い。闇市では、もう少し曖昧で、少し引っかかる情報が入口になる。
「『怖いもの見たさ』という感覚をデザインしたかったんです。『怪しいからこそ気になる』くらいの小さなきっかけがあれば話しにいける。そういう小さな感情を使って、接触面を増やしたいと思いました」
“怪しい”は、ここではネガティブな意味だけではない。よく分からないから、少し見てみたい。何をくれるのか分からないから、話しかけてみたい。その微細な好奇心が、最初の一言を生む。
まだ目的が明確ではない人は、闇市から入ればいい。すでに話したいテーマがある人は、IVS AMAやIVS Meetupに向かえばいい。参加者の関心の深さに合わせて、出会い方そのものを選べるようにするのが、下地氏の設計である。
行動からの出会いで、今の自分がある

下地氏は、スタートアップの内側と支援側の両方を経験してきた。新卒でベルフェイス株式会社に入り、スタートアップの成長と難しさを見た。その後、株式会社ポテンシャライトで採用支援に携わり、2024年からは株式会社ゼロワンブースターで大企業とスタートアップをつなぐオープンイノベーションの領域に立っている。
その歩みの中で、IVSは重要な転機になった。
「IVSは、僕にとっての通知表だと思っています」
スタッフとして関わり、視座が上がり、次の役割が生まれた。行動したから出会いがあり、出会いが次の行動を連れてきた。下地氏は、その体験を自分だけのものにせず、参加者に返そうとしている。
「人生の中で、運が良かったと思えることはあります。でも、運を引き寄せるために行動していた、という自負はあったりして、これは自分の勇気だと振り返っています。なかなかそれを持てなかったり、価値に感じられなかったりする人に、とにかく未知に出合うことの良さを伝えたい、これは味わった側の責任だと思っています」
IVS2026のネットワーキングエリアは、誰に会うべきかを決めてくれる場所ではない。思いがけない出会いを楽しみ、自分でも気づかなかった興味に触れ、次の行動を生むための場所である。
出会いは、高さになる。下地氏の設計は、その言葉を会場の中で実装しようとしている。
大きな仕掛けを用意するだけでは、人は動かない。少しだけ見やすくする、少しだけ話しかけやすくする、少しだけ後から探しやすくする。その積み重ねが、IVSの会場で生まれる出会いの密度を変えていく。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)