
●この記事のポイント
- 厚労省、未届けの有料老人ホームが584件あると発表、有料老人ホームに占める割合は3.3%
- 特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約25万人
- 未届けの有料老人ホーム、第三者の監視の目が入らないという問題も
厚生労働省は7月、未届けの有料老人ホームが584件(2024年6月末時点)あると発表した。有料老人ホームに占める割合は3.3%であり、前年より20件減っているが横ばいといえる推移だ。特別養護老人ホームへの入居を待つ人は全国で約27万人もおり(22年4月時点)、また経済的な理由で特養に入れない人もいる。未届けの有料老人ホームが、そうした人々の受け皿になっている可能性がある。なぜ未届けの老人ホームは減らないのか。また、どのような対策が必要なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
未届けの有料老人ホームに入居するリスク
未届けの有料老人ホームとは、高齢者向け施設としては、どのような位置づけとなるのか。星槎道都大学准教授の大島康雄氏はいう。
「老人福祉法では、有料老人ホームの設置・運営には届け出が必要となっています。高齢者の方々にお食事を提供するような施設や、ある程度介護度が高い方のケアをする施設の場合は、ご高齢の方のなかには足腰が悪い方もいるので、配慮をする設備が必要ということで、届け出が必要となってきます。届け出は法律で定められていることですので、未届けの施設は法律上認められていない施設ということになり、老人福祉法には罰則規定もあるます」
なぜ未届けの有料老人ホームが存在するのか。
「法律で定められた設備基準を満たすためには、投資、つまりお金がかかるので、それを回避するために届け出をせずに運営をしている老人ホームが少なからず存在する結果となっています。立派な施設を建てて行政から指摘を受けたりしないように運営したほうが、経営者としても従業員としても安心なのは間違いありませんが、物価高騰もありますし、そうした初期投資をできるだけの資金的な体力がないと、未届けのまま運営することになります。ですので、未届けの老人ホームを運営している法人は、資本力が低くて比較的小規模なケースが多いでしょう。そもそも、どのような施設や手続きが必要なのかという知識がなかったり、資本力がなかったり、基準を満たす数の職員を確保できないということが背景にあると思います。
利用者としては、きちんと届け出をしている施設に入居するほうがよいですが、おそらく未届けの施設でも通常時には何か大きなトラブルが頻繁に起こるというような状況ではないと思います。ですが、災害が起きた際などは、施設の運営・管理能力が低いと問題が生じる懸念があります。その点が正規の老人ホームとの大きな違いといえるでしょう」
そのほかにも、未届けの有料老人ホームに入居するリスクはあるという。
「第三者の監視の目が入らないという恐ろしさもあります。届け出をしている施設は定期的に行政による運営指導を受けているため、常日頃から行政の目を意識した運営を行っています。未届けの施設の場合は、それがないというのは、大きな差だと思います。
行政と事業者のコミュニケーションが重要
では、なぜ未届けの有料老人ホームは減らないのか。
「先ほどもお話ししたとおり、未届けの有料老人ホームは基本的には行政による指導の対象にならず、結構難しい位置づけなんです。さまざまな事業者や人の利害も関係してきます。不動産事業者は空室が多い状況になると困るので、空き物件を借りてくれるという法人があれば、非常にありがたく、未届けの有料老人ホームを運営する法人は商売がしやすいという土壌が、まずあります。一方、生活保護を受ける方は老人ホームに入りにくいという現状があるので、そうした方や身寄りのない方が、保証人がいなくても受け入れてくれる未届けの老人ホームに入るというかたちで、ニーズがマッチングしやすいことも背景にあると思います。
もしかしたら、『未届けのホームだから好きに生活できる』『自分の面倒を見てくれる人に出会った』という考え方をする方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、たとえば何か信念や思いがあって未届けのホームを運営している事業者があったとしても、結局は未届けですから、設備の基準や人員の基準、事務能力も含めてしっかりしていない可能性が考えられます。そして、何かトラブルがあった時に誰かが助けてくれたり、間に入ってくれるということが期待しにくいです」
特別養護老人ホームの数が足りてないという問題も、未届けの有料老人ホームが減らない要因としてはあるのか。
「特養に入居するのは基本的には要介護3以上の方ですので、要介護1~2の方は入れないという問題はあると感じます。また、保証人になってくれる身寄りがいない方も入りにくいでしょう。成年後見制度を使うにしても、この制度の利用者は判断能力がない方に限定されており、要介護度が重くて認知症はない方が施設に入りたいという場合には、受けてくれるところが限定されてしまいます。こうした状況から、未届けの施設のお世話にならざるを得ない人が生まれる面もあるでしょう」
何か有効な対策はないのか。
「今後、日本では高齢者が増えると推計されており、特養などが増えればよいですが、設備やコスト面の課題、さらには介護職員が集まらないという状況があるので、未届けの老人ホームは今後も増えてくると予想されます。それを抑制するためには、届け出の基準を低くするということも、一つの選択肢として考えるべきかもしれません。例えば、天井にスプリンクラーがない未届けのホームがあったとして、火災が起きた時に危険であることは確かですが、今後さらに未届けの施設が増えていく可能性がるという問題を前にしたときに、悠長なことを言っている場合ではないという現実もあります。『すぐにスプリンクラーをつけて届け出をしてください』というよりも、行政と事業者が相談しながら運営がしやすいようなかたちに持っていくという考えも必要かもしれません。現実的に未届けの施設が受け皿となって救われている高齢者の方々が存在するわけですから、高齢者を支えていくためにも、行政と事業者がコミュニケーションを取れるような関係性を築いていくことが重要だと思います」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授)





