単身世帯4割時代へ…おひとりさまの老後資金と生活費はいくら?の画像1

日本では、家族のあり方が大きく変わりつつあります。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、単独世帯が全世帯に占める割合は2025年に40.1%、2050年には44.3%に達する見込みです。もはや一人で老後を迎えることは、一部の人だけの問題ではありません。
出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』

では、おひとりさまの老後資金と生活費はいくら必要なのでしょうか。
総務省の2025年家計調査では、65歳以上の単身無職世帯は、可処分所得に対して消費支出が月平均2万9,980円上回っています。この状態が25年間続くと仮定した場合、単純計算による不足額は約899万円です。
ただし、実際に必要な金額は、年金見込額、住居費、現在の貯蓄、医療・介護費などによって変わります。大切なのは「老後は2,000万円必要」といった一律の数字を信じるのではなく、自分の収支から不足額を計算することです。

この記事のポイント

• 単独世帯は2025年に全世帯の4割を超える見込み
• 高齢単身無職世帯の平均的な収支差は月2万9,980円
• 65歳から90歳までの25年間では、単純計算で約899万円不足する
• 賃貸住宅に住む人は平均以上の住居費がかかる可能性がある
• 老後資金とともに、身元保証や財産整理などの終活も必要になる

単身世帯4割時代に広がる老後資金の不安

単独世帯の増加は、単に「一人暮らしをする人が増える」という話ではありません。
配偶者や同居家族がいない場合、生活費、家賃、医療費などを一人の収入と資産で負担する必要があります。病気や介護が必要になったときも、手続きや日常生活の支援を誰に頼むのか、あらかじめ考えておかなければなりません。
特に老後は、現役時代より収入が減る一方で、次のような支出が発生する可能性があります。

• 自宅の修繕や住み替え
• 医療・介護サービス
• 高齢者住宅や介護施設への入居
• 家財やデジタル資産の整理
• 身元保証や死後事務
• 葬儀や納骨

おひとりさまの老後対策では、日々の生活費だけでなく、突然発生する一時費用まで含めて備えることが重要です。
一方で、一人で暮らすこと自体がリスクなのではありません。必要なお金と支援先を早めに整理しておけば、自分の意思を尊重した生活を続けやすくなります。

老後の一人暮らしにかかる生活費の平均

総務省の2025年家計調査によると、65歳以上の単身無職世帯における月平均の家計収支は、次のとおりです。

項目 月平均額
実収入 13万1,456円
非消費支出 1万2,990円
可処分所得 11万8,465円
消費支出 14万8,445円
収支差 マイナス2万9,980円

出典:総務省統計局『家計調査報告 2025年平均結果』

実収入のうち、社会保障給付は月平均12万212円です。収入の大部分を年金などの社会保障給付が占めています。
一方、主な消費支出の内訳は次のとおりです。

項目 月平均額
食費 4万2,545円
住居費 1万1,416円
光熱・水道費 1万5,565円
保健医療費 8,388円
交通・通信費 1万3,601円
教養娯楽費 1万6,132円
その他の消費支出 3万1,681円

これらは、あくまで調査対象世帯の平均です。実際の生活費は、居住地域、健康状態、住居形態、車の有無などによって大きく変わります。

消費支出と非消費支出の違い

消費支出とは、食費、住居費、光熱費、医療費など、日常生活のために支払う費用です。

非消費支出は、税金や社会保険料など、商品やサービスの購入を目的としない支出を指します。

老後資金を計算するときは、生活費だけでなく、税金や社会保険料を差し引いた後の「手取り年金額」で考える必要があります。

おひとりさまの老後資金はいくら必要?

必要な老後資金は、次の式で考えます。

老後資金の計算式
必要な老後資金=毎月の生活費と手取り収入の差×12カ月×老後年数+一時費用-退職金・現在の金融資産


総務省の調査における月2万9,980円の収支差が続くと仮定すると、不足額は次のようになります。

老後年数 想定期間 単純計算による不足額
20年間 65~85歳 約720万円
25年間 65~90歳 約899万円
30年間 65~95歳 約1,079万円

ただし、この計算には、物価上昇や資産運用による損益は含まれていません。また、介護施設への入居や自宅の大規模修繕など、まとまった支出も別に考える必要があります。
そのため、約899万円を「老後資金の正解」や「最低必要額」と捉えるのは適切ではありません。自分の生活条件を当てはめるための出発点として活用しましょう。

年金見込額は人によって異なる

2026年度の老齢基礎年金は、一定の要件を満たした場合の満額で月7万608円です。ただし、実際の受給額は、保険料の納付期間や厚生年金への加入状況などによって異なります。
出典:厚生労働省『令和8年度の制度変更』

自分の年金見込額は、日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できます。
ねんきんネットでは、現在と同じ条件で働いた場合だけでなく、働き方や年金の受給開始年齢を変更した場合の試算も可能です。
出典:日本年金機構『ねんきんネットによる年金見込額試算』

賃貸と持ち家では老後の必要資金が変わる

おひとりさまの老後資金を左右する大きな要素が住居費です。
家計調査における高齢単身無職世帯の住居費は月平均1万1,416円ですが、この金額を賃貸住宅に住む人へそのまま当てはめることはできません。
例えば、老後も月7万円の家賃を支払い続ける場合、平均住居費との差額は月約5万9,000円になります。これが25年間続くと、差額だけで約1,770万円です。
賃貸住宅に住む人は、次の費用も考慮する必要があります。

• 家賃
• 更新料
• 保証会社の利用料
• 引っ越し費用
• 高齢者住宅への住み替え費用

一方、持ち家でも住居費がゼロになるわけではありません。

• 固定資産税
• 火災・地震保険料
• マンションの管理費・修繕積立金
• 戸建て住宅の修繕費
• バリアフリー改修費

老後資金を計算するときは、統計上の平均住居費ではなく、自分が実際に支払う家賃や維持費を使いましょう。

独身女性の老後資金は3,000万円必要?

「独身女性の老後資金は3,000万円必要」といわれることがありますが、すべての人に当てはまる金額ではありません。
年金額は、性別だけでなく、加入期間、働き方、賃金、国民年金保険料の納付状況などによって変わります。男女別の平均年金額だけで必要資金を決めるのは適切ではありません。
例えば、毎月の不足額を25年間で計算すると、次のようになります。

毎月の不足額 25年間の不足額
3万円 900万円
6万円 1,800万円
10万円 3,000万円

3,000万円が必要になるのは、年金などの手取り収入を差し引いても、毎月10万円不足する状態が25年間続くケースです。
家賃負担が大きい場合や、受け取れる年金が少ない場合には、不足額が3,000万円前後になる可能性があります。一方、持ち家があり、厚生年金を受け取れる人などは、必要額を抑えられる場合もあります。
「女性だから3,000万円」と考えるのではなく、自分の年金と支出から計算することが重要です。

おひとりさまの老後資金を準備する5つの方法

老後資金は、支出の見直しと資産形成、働き方を組み合わせて準備します。

1.生活費と固定費を見直す
まず取り組みやすいのは、毎月の固定費を見直すことです。

• 通信費
• 保険料
• 電気・ガス料金
• 自動車の維持費
• 利用していないサブスクリプション
• 住宅ローンや家賃

毎月1万円の支出を減らせれば、20年間では240万円の差になります。見直しで生まれた余裕資金は、急な医療費などに備える預貯金と、長期の資産形成に分けるとよいでしょう。

2.NISAで長期・積立・分散投資を検討する
NISAは、対象となる金融商品から得た運用益が非課税になる制度です。2024年からの制度では、非課税保有期間が無期限となり、生涯の非課税保有限度額は合計1,800万円です。
老後資金づくりでは、少額から長期・積立・分散投資を続ける方法が考えられます。ただし、NISAは元本を保証する制度ではありません。数年以内に使う生活費や医療費まで投資に回さないようにしましょう。
出典:金融庁『NISAを知る』

3.iDeCoの税制優遇を活用する
iDeCoは、自分で掛金を拠出して運用する私的年金です。掛金は全額所得控除の対象となるため、所得税や住民税を負担している人には税制上のメリットがあります。
一方、iDeCoの資産は原則として一定年齢まで受け取れません。急な支出に備える預貯金を確保したうえで利用することが大切です。
出典:iDeCo公式サイト『よくあるご質問』

4.定年後も働ける環境を整える
働く期間を延ばすことは、収入を確保しながら、貯蓄の取り崩しを遅らせる方法です。短時間勤務や再雇用、専門知識を生かした仕事など、自分の体力に合う働き方を検討しましょう。
仕事を続けることは、収入面だけでなく、社会とのつながりを保つ助けにもなります。ただし、健康を損なう働き方は避ける必要があります。

5.年金の繰下げ受給を検討する
老齢年金は、原則65歳から受け取れますが、66歳以降75歳まで繰り下げることができます。繰下げによる増額率は1カ月につき0.7%で、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%増額されます。
ただし、受給開始までの生活費を別に確保する必要があります。税金や社会保険料への影響も含め、自分の健康状態や資産額に合わせて判断しましょう。
出典:日本年金機構『年金の繰下げ受給』

金融商品は「おすすめ」だけで選ばない

老後資金の準備方法として、個人年金保険、投資信託、外貨預金などが紹介されることがあります。しかし、特定の商品がすべての人に適しているわけではありません。
投資信託や外貨預金には元本割れの可能性があり、外貨建て商品には為替変動の影響があります。個人年金保険も、途中解約の時期によっては受取額が払込額を下回る場合があります。
金融商品を選ぶときは、次の点を比較しましょう。

• 元本割れの可能性
• 手数料
• 途中で引き出せるか
• 税制上の扱い
• いつ使うお金なのか
• どの程度の損失まで許容できるか

老後資金は、一つの商品に集中させず、預貯金、年金、投資を目的に応じて分けることが基本です。

おひとりさまはお金以外の老後リスクにも備える

おひとりさまの終活では、お金の準備に加えて、病気や死亡後の手続きを誰に託すかを整理する必要があります。

エンディングノートを作成する

エンディングノートには、次の情報をまとめておくと役立ちます。

• 緊急連絡先
• 預貯金や証券口座
• 保険契約
• 医療・介護に関する希望
• 葬儀やお墓の希望
• ペットの預け先
• スマートフォンやデジタル資産の情報

エンディングノートには、遺言書と同じ法的効力はありません。財産の分け方など、法的な効力が必要な内容は遺言書で準備します。

緊急時の連絡先と支援者を決める

親族だけでなく、友人や地域の支援機関など、緊急時に連絡できる相手を決めておきます。連絡先は一人に限定せず、複数用意すると安心です。
身元保証人がいないことだけを理由に、医療機関が入院を拒否することは認められていません。ただし、入退院の手続き、支払い、荷物の受け取り、死亡時の連絡などを誰が担うのかは、事前に整理しておく必要があります。
出典:厚生労働省『身寄りがない人への対応について』

終身サポート事業者は契約内容を確認する

身元保証、日常生活支援、死後事務などを提供する終身サポート事業者を利用する方法もあります。家族に頼れない人にとって選択肢になりますが、サービス内容や料金は事業者によって異なります。
契約前には、次の点を確認しましょう。

• 提供されるサービスの範囲
• 基本料金と追加料金
• 預託金の管理方法
• 解約条件と返金方法
• 事業者が廃業した場合の対応
• 死後事務を実行する人
• 契約内容を第三者に確認してもらえるか

不安がある場合は、地域包括支援センター、消費生活センター、弁護士、司法書士などへ相談しましょう。
出典:消費者庁『高齢者等終身サポート事業の利用に関する注意点』

財産と持ち物を整理する

財産や契約の情報は、本人以外にも所在が分かる状態にしておきます。

• 銀行・証券口座
• クレジットカード
• 保険契約
• 不動産
• 借入金や保証契約
• 定期購入やサブスクリプション
• SNS・メール・クラウドサービス
• 葬儀や死後事務に使う資金

すべてを一つにまとめる必要はありませんが、信頼できる人が必要な情報へたどり着けるようにしておきましょう。

単身世帯4割時代の老後資金についてのまとめ

単独世帯が全世帯の4割を超える時代を迎え、おひとりさまの老後は、個人だけでなく社会全体で考えるべき課題になっています。
総務省の2025年家計調査を使った単純計算では、高齢単身無職世帯の平均的な収支差は月2万9,980円、25年間では約899万円です。
しかし、これは老後資金の最低ラインでも、全員に共通する正解でもありません。賃貸住宅に住み続ける場合や、年金額が平均より少ない場合、医療・介護費が増えた場合には、必要額が大きくなる可能性があります。
まずは次の順番で準備を進めましょう。

1. ねんきんネットで年金見込額を確認する
2. 老後の生活費と住居費を見積もる
3. 毎月の不足額を20~30年分で計算する
4. 医療・介護・住宅・葬儀などの一時費用を加える
5. 預貯金、NISA、iDeCo、就労などを組み合わせる
6. 緊急連絡先や死後事務について整理する

終活は、人生の終わりだけを考えるものではありません。
お金や希望、支援先を早めに整理しておくことは、人生後半を自分らしく、安心して過ごすための準備になります。

 

参照した一次情報
• 国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』
• 総務省統計局『家計調査報告 2025年平均結果』
• 厚生労働省『令和8年度の制度変更』
• 日本年金機構『ねんきんネットによる年金見込額試算』
• 日本年金機構『年金の繰下げ受給』
• 金融庁『NISAを知る』
• iDeCo公式サイト『よくあるご質問』
• 厚生労働省『身寄りがない人への対応について』
• 消費者庁『高齢者等終身サポート事業の利用に関する注意点』