グーグルがLLMで競合するOpenAIに自社半導体を提供する戦略的理由…エヌビディア一強は崩れるのか?

●この記事のタイトル
・OpenAIがLLMで競合関係にある米グーグル製のAI向け半導体「TPU」を採用
・これまでOpenAIは提携関係にあるマイクロソフトのデータセンターと米エヌビディア製の半導体を使っていた
・クラウドサービスや半導体を選択する事業者側に、グーグルのTPUも選択肢の一つとするという動きは出てくる
米OpenAIがLLM(大規模言語モデル)で競合関係にある米グーグル製のAI向け半導体「TPU」を採用したと伝えられている。これまでOpenAIは提携関係にあるマイクロソフトのデータセンターと米エヌビディア製の半導体を使っていたが、グーグルのクラウドサービス「Google Cloud」とTPUも一部で使っていく計画だという。なぜOpenAIは、蜜月関係にあるとみられていたマイクロソフトと距離を置くような動きをみせているのか。そして、なぜグーグルは競合相手であるOpenAIに自社の重要な技術を提供するのか。識者への取材を交えて追ってみたい。
●目次
リスク管理の観点
もともと生成AIの一スタートアップだったOpenAIが大きく成長して世界的に注目されるきっかけとなったのは、2019年以降マイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことであった。マイクロソフトが初めてOpenAIに投資をしたのは19年。その金額は10億ドルにも上ったことでOpenAIは世界的に注目の的となり、マイクロソフトはOpenAIが開発するChatGPTに使用される言語モデル「GPT-3」の独占ライセンスを取得。23年にはマイクロソフトはChatGPTの技術を活用したAIアシスタントツール「Microsoft Copilot」をリリースするに至った。
両社の戦略的パートナーシップは今後も継続される。2030年までの契約期間中、OpenAIの知的財産へのアクセス、収益配分の取り決め、OpenAIのAPIに対するマイクロソフトの独占権が継続されることが決まっている。
そんな両者の間には隙間風が生じていると伝えられている。報道によれば、OpenAIが買収を予定している米ウインドサーフのIP(知的財産)をマイクロソフトが利用することに、OpenAIが反対していることが対立を生んでいるという。マイクロソフトはOpenAIに多額の出資をする見返りに、OpenAIの所有するIPを使用する権利を持つ。また、OpenAIが5月に発表した組織再編をマイクロソフトが承認していないことも影響しているといわれている。
そうしたなかでOpenAIがグーグルの半導体を採用した背景は何か。ITジャーナリストの神崎洋治氏はいう。
「OpenAIは説明していないので明確な理由はわかりませんが、OpenAIは現在、マイクロソフトのクラウドサービス・AzureとエヌビディアのGPUに依存してしまっている状態なので、例えばAzureに大きな問題が発生した場合には事業が止まってしまうという脆弱性を抱えているわけです。リスク管理の観点からいっても、別の選択肢を持っておいたほうが良いというのは当然です。また、OpenAIはマイクロソフトとの強固な連携が少しずつ崩れているともみられており、Google Cloud(グーグルクラウド)+TPUを一部で利用していく、つまり両建てでいくという考えなのでしょう」
グーグルのTPU部門としてはメリットが大きい
グーグルはLLMをめぐって競合関係にもあるOpenAIに、なぜ自社の半導体を供給するのか。
「グーグルのTPUはグーグルクラウド向けに特化するかたちで開発されたものですが、AI向け半導体という市場全体を俯瞰すると、エヌビディアのGPUが一強といえる状況であり、そのイメージを少しずつでも覆していきたいという考えがあるのだと思われます。グーグルのGeminiとOpenAIのGPTシリーズは競合関係にあるとはいえ、生成AIの領域で中心的な存在であるOpenAIがグーグルのTPUを採用したとなれば、グーグルのTPU部門からしてみればメリットが大きいです。『AI半導体の選択肢としてはエヌビディアだけではなく、TPUもありますよね』『OpenAIが採用しているんですよ』というイメージを顧客に持たせてシェア拡大につなげたいという思惑があるのでしょう」(神崎氏)
では、今回のOpenAIの動きが、エヌビディア一強といわれるAI向け半導体市場に大きな影響をもたらす可能性はあるのか。
「エヌビディアのGPUのイメージが低下して売上が落ち込むというような直接的な影響は生じないと考えられますが、これからクラウドサービスや半導体を選択する事業者側に、グーグルのTPUにも目を向けて選択肢の一つとするという動きは出てくるというのは、中長期的にみれば大きな影響をもたらすかもしれません。ただ、繰り返しにはなりますが、TPUという選択肢が開発者にとってイメージ的には大きくなっていくかもしれませんが、すぐにTPUのほうに市場全体が傾いていくということは起こらないでしょう」(神崎氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=神崎洋治/ITジャーナリスト)


