「THREE」、なぜポーラから独立?地方創生に取り組むワケは?

化粧品メーカー大手のポーラ・オルビスグループにあって、独自のライフスタイルを提案するブランド「THREE」を展開する株式会社ACRO。THREEは、「心・からだ・肌」のすべてに、ホリスティック(全体的に、バランスよく)にアプローチすることをコンセプトとし、天然の植物成分を使ったスキンケア・ヘアケア・ボディケア商品やメイク用品などを開発・販売している。
そのなかで、商品の原料となる植物の生産者との連携を通し、地方創生にも取り組んでいる。UNICORN JOURNAL編集部は、同社代表取締役社長・宮﨑稔章氏に、同社のブランド戦略と共に地方創生の具体策などについて話を聞いた。
地方創生の具体的な取り組み
宮﨑氏は地方創生について、「もともと地方創生が最初の目的ではない」としつつも、ブランドのコンセプトである「自然体をエンパワーメントする」という考え方が、地方創生と深く結びついていると説明する。この場合の「自然体」は、ナチュラルという意味と、自然体で生きるという2つの意味を含むという。商品開発においても、自然の恵みを原料として採用することが重視されています。
THREEでは、全国各地の自然物を原料として商品開発を行っており、その原料は手拾いや手刈り、手摘みといった、人の手による採取方法が用いられており、地域の方々との連携が不可欠だという。また、オーガニック原料の使用を基本とするなど、原料の純度にもこだわっていることから、地球環境に配慮した農法や、持続可能な生産方法を追求することにつながり、「それがないと製品化できないというところがあるので、人の手を借りないと、成立しない事業といえる」とも分析する。
さらに、もともと「自然の確かなるものを原料にしてお届けする」というコンセプトがあることから、サステナブルな取り組みをすることで、地域経済の活性化や、伝統的な技術の継承に貢献しているという。
地方創生の課題と展望
ひとくちに地方創生と語っても、地方の生産者と協業する際に、信頼関係を築くのは容易ではないだろう。地域によっては「よそ者」に対する壁が立ちはだかることもある。ACROは、どのようにして信頼関係を築いているのだろうか。
「1回取り組んだところには、かなりコミットをするっていうことがやっぱり重要なのかなと思います。連携協定とかで市長さんや町長さんとお話すると、いつも言われるのは、『すぐ辞めないでね』ということです。私たちは最初からリスクについても、十分に説明します。自然物なので供給が止まっても困りますし、大量に製造しても需要と合わなければ在庫が余ることになります。
そんななかで我々は15年、ずっと同じことをやっているので、お互いの中で認識して、信頼関係を築いてきています。最初だけ盛り上がる、みたいなのは違うかなと。精神論的なところになりますが、シビアに認識合わせをしてからスタートするということが、とても重要だと思います。私たちは補助金をいただく場合もありますし、本当に“作る責任”を負うことも含め、バランス感覚を持って誠実に取り組むことを意識しています」
こう語り、地域との信頼関係を築くために、長期的な視点での取り組みや、リスクを共有することの重要性を強調する。同時に、自然災害などのリスクに備えるためにも、全国各地に原料の生産地を拡大していくなどの必要性があるとの考えも明かす。
ブランド戦略
そもそもACRO社はポーラから独立するかたちで設立されたが、なぜ独立する必要があったのだろうか。社内で研究を続ける道はなかったのだろうか。
「もともとグループ全体で“マルチブランド戦略”をとっていまして、価格帯やポジション、売り方、展開の仕方などが違うといった、ブランドの個性を最も重要視して広げていくという考え方があるんです。同じブランドの中で事業を分けていくというよりも、そういった価値みたいなものの源泉があれば、それをベースに独立してブランドを育てていくっていう考え方の中で立ち上がりました。いわば社内ベンチャーみたいな形です」
マルチブランド戦略により、ブランドの個性を際立たせ、ある程度ブランドが成長すると、独り立ちするわけだが、国家国立機関や大学などとも連携して研究している。THREEは、ブランドが立ち上がった早い段階から国と連携してきたのだろうか。
「もともとではなく、私たちのコンセプトを具現化していく上で、専門的な知見が必要になってきて、地方自治体との連携もそうですが、今からの時代に生きる人たちに最も必要なものを作り上げていく過程で、必要な連携の仕方なのかなと思っています」
同社はTHREEについて、「日本発の世界展開」を見据えているとも明かす。具体的には、国内・海外の販売比率をどの程度まで高めていきたいと考えているのか。
「今現在は、だいたい20%ぐらいが海外の売上の比率です。おそらく小売り、お客様ベースでいくと、3分の1強が海外のお客様になります。コロナ前には半分以上が、実は海外のお客様にお使いいただいていたこともあります。今のブランドのコンセプトが起点になるのですが、私たちが提案している商材自体が年齢とか性別とかを区分けするものではなくて、自然物を、自然の一部である人間に、という考え方なので、おそらく国籍も民族も関係ないところで貢献できるのではないかと考えています。
そういった意味では、海外には積極的に広げていくという方針です。このコンセプトやブランド世界観に共感いただけるところには、どんどん広げていっています」
実際の展開の仕方については、それぞれの国に実店舗を構えるスタンスで、日本国内での展開とほぼ同様の手法だという。それは、実体験を通じてブランドの世界観を伝えることを重視しているためで、フラッグシップショップの展開や、発表会への海外顧客の招待など、積極的なプロモーション活動を行っている。
今後の展開について、別ブランドの立ち上げなどを考えているかとの問いについては消極的な立場で、THREEで地方創生とブランド戦略を両輪として、事業を展開していく考えを示す。同社は、地域との連携をさらに深め、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、ブランドの価値を高め、世界に向けて発信していくことを目指すという。
(構成=UNICORN JOURNAL編集部)