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全企業に必要な「LTV最大化」とは…従来とは異なる顧客データの溜め方と使い方

2025.04.29 2025.05.01 13:56 ユニコーンアイ
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UnsplashのSteve Johnsonが撮影した写真

 昨年の日本の出生数(日本で生まれた外国人を含む)は前年比5.0%減の72万988人。9年連続で過去最少を更新し、日本人だけに限れば70万人を割ることが報道されました
(参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1846E0Y5A210C2000000/)。

 少子高齢化が進む人口減少社会の現在、新規顧客獲得を目的としてきた従来のマーケティング手法ではなく、リピート顧客の確保とLTV(ライフタイムバリュー/顧客の生涯価値)の最大化に重きを置いたマーケティング手法が注目されています。

 継続顧客の獲得や、顧客満足から生まれるLTVの重要性に対する企業側の意識が高まる一方で、商品・サービスの利用顧客の住所・氏名・性別・年齢・家族構成・趣味嗜好などの顧客情報はGAFAに代表されるプラットフォーマーに掌握されているのが実情です。

 企業側が実際に所有する情報は限定的で、CRM(顧客関係管理)施策やコールセンターなどで大量に集めた顧客との対話記録も、データとして有効にマーケティング活用されていないことが課題とされています。

 こうした課題解決に生成AIを活用する新しい顧客データの溜め方と活用術について、『顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部抜粋・編集してお届けします。

コミュニケーションの垣根が下がれば「顧客の本音」が引き出せる

 消費者の大多数は、「商品を買ってもレビューを書いたことがない」「アンケートにも答えたことがない」「とくに用事がなければ企業とはコンタクトをとらない」という人たちです。

 よほどの悪徳企業でなければ、顧客の8割ほどは「自社の企業活動にとくに不満はない」人たちで構成されています。そしてその8割の人たちは、まさに「自社の企業活動にとくに不満はない」がために、わざわざ自社に対して声を届けることはしないのです。

 声を上げるのは、2割の少数派。その少数派の中のさらに少数であるネガティブな意見に右往左往しているのが多くの企業の現実で、「これは本当に正しいことなのだろうか」という議論は、マーケティングの現場ではよく起きています。

「自社に届いた声に応えようと、商品やサービスに変更を加えた結果、自社の企業活動に満足してくれていた8割の人の中から『なんで変えちゃったんだ。前のほうがよかったのに』という声が届くようになった」という例も、実際にあります。これが今までのマーケティングの限界だったのです。

 だからこそ、マーケティング担当者の中には「1to1マーケティングなんて、しょせんは絵に描いた餅」と、あきらめてしまっている人もいます。

 しかし、AIを活用したコンタクトセンターを構築すると、「今までのマーケティングの限界」はいとも簡単に突破できます。今までは声を届けてくれなかった「自社の企業活動にとくに不満はない」8割の人の声も、吸い上げられるようになるからです。人は誰でも、よく知らない人に本音を話すのは抵抗があるものです。でも、たくさんのコミュニケーションを重ねて親しくなった相手には、本音をさらけ出すことができます。

 同じように、単なる「企業アカウント」から送られてくるメッセージに、わざわざ返信して本音を伝える人は稀ですが、親しみの持てるAI相手ならば、コミュニケーションを重ねるうちに、人は本音をさらけ出してくれるようになると私たちは考えます。

AIだからこそ、「隠れた本音」が届きやすい

「売れるものをつくる」という目的のもとに議論を始めると、どうしても「売れなそうなものを提案したくない」という意識が働きますから、自然と「提案の分母」は小さくなります。

 しかし顧客は、「売れるものをつくる」という目的の外にいる、ある意味無責任な存在ですから、遊び心や本音で合理的でない声をどんどん届けてくれます。「こんなこと、会議の場で言ったら恥ずかしいな」と思うような提案が、雑談の中で次々に生まれるのです。

 そのような声に、人間がその都度対応するとなるとコミュニケーションの垣根が上がりますが、AIならば顧客も企業も、お互い気軽にやりとりできます。結果、有益な声も届きやすくなるのです。

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「過去の対話履歴」や「商品購入履歴」を活かす

顧客に「自分のことをわかってくれている」と感じてもらう

 たとえばあなたが、3カ月前に淡いグレーのスーツを買った同じ店で、またスーツを買うとします。このとき、店員さんから「いらっしゃいませ。当店は初めてですか? 淡いグレーのスーツはいかがでしょう」と言われるより、「また来てくださったのですね。3カ月前はご購入ありがとうございました。前回は淡いグレーのスーツをご購入でしたね。今日はどのようなご用命ですか?」と言ってもらったほうが、満足度は高まるでしょう。

 一度会話を交わしたり、商品を購入したりしたら、人はお店に対し、「自分のことをわかっていてほしい」と思うのです。

 逆に考えたらそれは当然のことで、会話したり、商品を購入したりしたのに相手がそれを覚えていなかったとしたら、「しょせんはその場しのぎの上辺だけの営業トークだったのか」「自分はそんなに大事な客じゃないのか」と感じることでしょう。

「相手は自分のことをわかってくれている」と感じると、企業に対する顧客のロイヤリティは高まっていきます。膨大な量の顧客データや、顧客との対話履歴、商品購入履歴を忘れることなく、次回の商品提案に活かせるのが、AIの強みです。

 具体的には、すでにかなり普及しているChatGPT を使います。そのうえで、ChatGPTに企業情報や商品の情報、ブランド人格(次項で説明します)、顧客一人ひとりの情報を提供します。

 すると、「その企業」に特化した、常に顧客と1to1でつながることのできる「スーパー営業マン」ができあがります。一見の顧客を「2回目の購買」、さらには「継続的な購買」へとつなげ、長期的な優良顧客へと育てる「スーパー営業マン」の誕生です。

顧客との「深い対話」を実現する

 初めて自社商品を購入した一見の顧客に気に入ってもらい、「2回目の購買」をしてもらうのは、とても大切なことです。

 1回買っただけの顧客が2回目も買ってくれるとは限りませんが、2回買った顧客は3回、4回と買ってくれ、長期優良顧客となる可能性が高まるからです。

 そのためには、「豊富な商品知識を持つ」「顧客からの質問に的確に答える」ことも重要ですが、その前にまず「一度購入してもらえたことや、その際に交わした会話を覚えていて、それを踏まえた会話ができる」ことが何よりも重要となります。

 自動で返答するチャットボットを活用したコンタクトセンターを使っている企業もすでにありますが、その多くが、「顧客から質問が来たら回答する」「また次の質問が来たら回答する」というような、一問一答形式に終始しています。

 しかしこれでは、会話のラリーにはなりません。人間同士でも、こちらが質問したことに相手が答えるだけでは、会話は盛り上がりませんし、話していても張り合いがないでしょう。大切なのは、今までのやりとりを踏まえ、顧客に「自分のことをわかってくれている」と感じてもらう会話をすることです。

 そのためには、自社や自社商品の状況だけでなく、顧客の商品購入情報やウェブサイトへのアクセス情報、これまでの対話履歴といった「顧客の行動情報」もAIに学ばせる必要があります。そうすることで「一問一答」で終わらない、顧客との「深い対話」が実現できます。

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「企業ブランド」を考慮した回答を作成する

「ブランド人格」をAIに込める

 顧客のロイヤリティが高まると、自社の商品を継続して買ってもらえるようになります。ロイヤリティを高めるためには、自社の商品を気に入ってもらうのも有効ですが、それよりも効果が高いのが「自社そのものを好きになってもらう」方法です。

 自社のことを好きになってもらうためには、自社のことをわかってもらう必要があります。

 ただ、むやみやたらと一方的に自社情報を顧客に発信し、「さぁ、ウチの会社のことをもっと知ってくれ、好きになってくれ」と押しつけるばかりでは、かえって顧客は離れていってしまうでしょう。

「自社らしさ」は、AIによる対話の仕方やふるまい、回答の内容によって表現していきます。といっても、決して奇をてらったものをつくるわけではなく、「この企業ブランドだったら、こういうふるまいをするよな」「こういう回答をするよな」といったものをAIに込めていくことになります。

 これを私たちは、「ブランド人格」と呼んでいます。「ブランド人格」とは、言い換えれば「企業を人間に置き換えると、どんな人なのか」ということです。人格の定義の仕方はいろいろあるのですが、その内容は多岐にわたります。

 たとえば、企業は顧客にとってどのような存在でありたいのか、何を大切に考え、何を顧客に提供するのか、というような企業の主義・価値観。これに基づき、一人称は「ぼく」なのか「わたし」なのか「わたくし」なのか。真面目なのかくだけているのか、というようなAIのペルソナ。最後に、顧客の悩みや要望をできるだけ聞き出し、適切なアドバイスをすることで企業への信頼を高めるのか、あるいはできるだけ早く自社製品をすすめるのか、というようなAIの行動指針──こういった「ブランド人格」をあらかじめ定義しておくことで、ほかの企業とは異なる「その企業らしいAI」をつくることができます。

「ブランド人格」と「顧客情報」を踏まえた会話はどうつくられるか

「ブランド人格」をどうAIに搭載するかをご理解いただくため、実例として、大広・大広WEDOの商品である「Brand Dialogue AI®」を使って説明します。

「Brand Dialogue AI®」は、ChatGPT をベースとした対話AIです。ChatGPT に、自社のブランド人格や商品知識、顧客情報を教え込むことにより、顧客との対話を重ねながら、日々勉強を重ね、回答を生成していくことができます。

「ブランド人格」を教え込んでいますから、顧客からの質問に対し、A社はA社らしく、B社はB社らしく、C社はC社らしい回答をすることができるのです。自社の企業知識や商品知識、顧客情報をAIの回答に反映させる仕組みを、私たちは「ダイナミックプロンプト」と呼んでいます。

 プロンプトというのは、AIに対する「指示文」のことを指します。ダイナミックプロンプトは、AIの世界でRAGと呼ばれるものを活用した技術のひとつです。

 顧客から質問が投げかけられるたびに、その質問の意味を解釈し、回答するために必要な知識を企業知識や商品知識の中から探し、そのうえでこれまでの顧客との対話履歴や顧客情報を踏まえながら、最適な回答を生成する仕組みです。その都度指示の内容をダイナミックに変えていくことから、「ダイナミックプロンプト」と呼んでいます。これは、高速でカンニングペーパーを見て回答するようなものだとお考えください。

 カンニングペーパーといっても、膨大な企業知識・商品知識があるだけでなく、顧客との対話も次第に増えていくので、それはそれで膨大な枚数になります。これがあるからこそ、どんどん「企業のことをわかったうえで、顧客のこともよくわかっている会話」ができるようになります。

 下の図を参照しながら、実際の動きを、より詳しく見ていきましょう。 顧客が「Brand Dialogue AI®」に「××について教えて」と質問を投げかけます。するとこの質問の内容を、「Brand Dialogue AI®」は数字に置き換えます(「ベクトル化」という作業です)。

 続いて、投げかけられた質問に答えるうえでいちばん近い知識を企業知識や商品知識の入ったデータベースから探し出し、用意します。そのうえで、過去の顧客との対話データや顧客自身のデータを踏まえ、その顧客からの質問に最適な回答をつくり出します。

 結果として、自社ブランドをしっかりと理解しつつ、顧客のことも理解している回答がつくられ、対話となっていくのです。

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「誤った回答の自動作成」を防ぐ

AIは堂々と噓をつく

 企業として、AIを活用したコンタクトセンターを運営するとき、事前に対策しておきたいのが「ハルシネーション」です。ハルシネーション(hallucination)とは、「幻覚、幻影」という意味です。AIの世界では、「いかにも事実のような、しかし実際にはまったく事実ではない回答が、生成AIによってなされてしまうこと」を指します。

 みなさんもChatGPT をはじめとした生成AIを使う中で、「コイツ、質問に対して、荒唐無稽な噓を堂々と答えてくるな……」と呆れたことがあるでしょう。それがハルシネーションです。

 知らないなら「知らない」と言ってくれればそれですむのですが、生成AIは、なんとか知識を寄せ集めて「それっぽい回答」をつくったり、いい回答をつくろうと、話を盛ってしまったりするようなところがあります。ここが生成AIの恐ろしいところです。

 ハルシネーションを防ぐためには、いくつかの方法があります。

 たとえば、AIに対する指示(プロンプト)を工夫して、「わからない場合はわからないと答えてください」と指示します。あるいは用意した知識が不足しているケースもあるので、正しい知識を加えてみるという方法もあります。

「どこまで踏み外していいか」のバランスが大事

 ハルシネーション対策をすることはできます。知っている情報以外に関する質問すべてに対して「知らない」と言うようにプロンプトをつくればよいのですから。ただし、それでは、本章の前半で伝えてきたような、「顧客が自由に話しやすい対話」にはなりづらくなってしまいます。

 たとえば、「新宿に店舗はありますか?」という質問に対し、「はい、あります」とだけ答えるようでは、ただの「一問一答AI」であり、AIのよさを活かしきれているとはいえません。

「新宿の店舗はどんな品ぞろえで、客層はどんな感じで、近くにはどんなお店があって……」と教えてくれたほうが、顧客としても「じゃあ、行ってみようかな」となります。

 同じように、たとえば大広WEDOのような広告会社が運用しているAIに、「広告の未来についてどう思う?」と質問を投げかけたとき、「データがないのでお答えできません」「未来は何が起こるかわからないので回答は差し控えさせていただきます」なんて返ってきたら、「つまらないな」「ノリが悪いな」と感じることでしょう。

 ハルシネーションは確かに困る問題ですが、ハルシネーションを恐れて「四角四面のことしか答えないAI」をつくっても、それはそれで、顧客のロイヤリティ向上にはつながらないのです。いかにAIに間違った回答をさせず、同時に自由を持たせるか。顧客のロイヤリティを高める対話を実現するには、このバランス感覚が大事になってきます。

 具体的には、
「これだけは絶対にNGというワードを決めておく」
「このワードが顧客から投げかけられたら、みな一律の回答をする」
「それ以外は、多少踏み外してもお咎めなし」
といった明確な基準を決めておくことで、バランスを保ちつつ、一定のハルシネーション対策ができるようになります。

<著者プロフィール>
【大広WEDOテクノロジーチーム】
顧客との1to1マーケティングにAIを始めとした最先端のテクノロジーを導入して成果を挙げるプロ集団。ダイレクトマーケティングに強みをもつ大広のグループ企業としての実績をベースに、顧客とAIの対話を通じたマーケティングプラットフォーム「DDDAI」など、生成AIを活用した新たなマーケティング手法を開発しています。また、AIをクリエイティブ・プロモーションの実働に活かすため、画像・動画生成領域にも取り組むなど新たなチャレンジを進めている。
https://www.daiko-wedo.co.jp/

『顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング』 生成AIを活用した、まったく新しい顧客の声の溜め方と使い方を紹介する。顧客との自由な対話をもとに関係性を強化すると同時にその「本音」を拾い、データの「ベクトル化」という手法で顧客属性を行列データとして蓄積することで、効果的にマーケティングのPDCAをまわす。OpenAIによって公開されているエンジン(プログラム)とLLM(大規模言語モデル)を活用することで、誰にでもそれが実現できるようになった。その具体的な手順と、実際のビジネスの場面での活用方法について、詳しく解説していく。 amazon_associate_logo.jpg

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