SusHi Tech Tokyo2025開幕!出展社数600超、多様な都市課題への解決を模索

東京都などが主催するSusHi Tech Tokyo 2025が5月8日、東京ビッグサイト東4〜6ホールにて開幕した。会期は5月8日から10日までで、初日のビジネスデイではスタートアップ、ベンチャーキャピタル(VC)、地方自治体、大学、インフラ企業などが参加。会場内では技術展示とセッションが同時進行で展開されている。
本イベントは、都市が抱える環境・エネルギー・防災・モビリティなどの課題に対し、スタートアップによる解決策を提示することを目的としており、展示・商談・政策議論が一体化している点が特徴。特に「Focus on AI」「Focus on Quantum」「Focus on Food Tech」などの特設パビリオンには、多国籍のスタートアップや支援機関が出展し、都市生活の高度化に資する技術のプレゼンテーションが行われている。出展社数は国内外600超で、2024年比で約40%の増加。来場者数はビジネスデイ2日間で3万人以上が見込まれている。

会場内でのセッションは、社会実装に向けたテーマ設定が中心となって様々なテーマが扱われている。
8日に行われたセッション「日本発のオープンイノベーション〜変わりゆく世界の未来を切り拓く力〜」では、三菱UFJフィナンシャル・グループCEOの亀澤宏規氏らが登壇した。

亀澤氏は「AIやブロックチェーンの技術進歩により、今や大企業がすべてを自前で担う時代ではなくなった。特にAI分野では、技術開発から業務オペレーションに至るまで協業が不可欠であり、オープンイノベーションはもはや選択肢ではなく必然だ」と述べ、金融機関としての立場からもスタートアップ連携の重要性を強調した。
また、自身の体験を語る中で「協業の過程で、大企業側もスピード感や思考様式を変える必要がある。今は、大企業がスタートアップを選ぶ時代ではなく、選ばれる側になる意識が重要だ」とも述べ、組織文化の変革を内在させたオープンイノベーションの意義に言及した。
このセッションでは、アフリカの投資先企業による事例紹介も行われ、スタートアップ連携の現状と展望も明らかになった。
同日開催されたセッション「東京からアカデミアのリーダーが語る、未来社会の変革を担う人材育成」では、東京大学総長の藤井輝夫氏と東京藝術大学学長の日比野克彦氏が対談。生成AIの進展やグローバルな研究拠点構想を踏まえつつ、藤井氏は「大学が育てて社会に渡すという線引きには違和感がある。大学の外の人々も、もっと中に入ってきてほしい」と述べ、境界を越える知の往還が都市における創造の起点になるとした。

日比野氏もまた「芸術と科学は同じ人間を見つめている。地域には、大学の授業では得られない身体性がある」と語り、制度の外にある学びの価値に触れた。両者はともに、都市と大学が混ざり合うプロセスそのものにこそ新しい価値が宿るという点で共鳴していた。
さて、アカデミアと都市との接続を具体化する取り組みとして、展示エリアでは、東京大学発スタートアップ「ソティステクノロジーズ」が、医療・食品分野の迅速検査技術を出展。従来24時間以上を要していた微生物培養試験の大幅短縮など、都市生活の中での健康・安全確保に直結する技術を提示。

同社は「大学の研究者出身であること、エビデンスが確実に取れていることが強み」と語り、現在は企業と共同で製品化プロセスを進行中だという。今後は食品企業などとの連携によって、制度接続と実用化のスケールを目指す予定だ。
こうした事例に象徴されるように、アカデミアから生まれる技術の社会実装と実用化は、都市課題への対応力として今後さらに重要性を増すとみられる。
さらに、都市課題の解決に対する関心は、中央だけでなく地方自治体にも広がっていることが感じられた。
出展していたある地方自治体の産業振興担当者の一人は、「都市課題の解決というテーマに沿ったスタートアップが多く、商談に発展しやすい。ブースでの担当者説明も的確で、行政向けに整理されている」と語ったうえで、次のように続けた。
「私たちのまちも現在は一定の発展はあるものの、人口は徐々に大都市圏へと流出している。このままでは地域経済の停滞が避けられないという危機感がある。ユニコーン企業を複数生み出すようなスタートアップの集積が、都市としての持続的成長につながると考えている」
その上で、「今回は、新たに地方拠点を探している企業や、すでに進出実績のある企業への投資を行うベンチャーキャピタルとの出会いを重視して参加した」と語った。都市の成長を“誘致と投資”の両面から支えようとする姿勢がにじむ発言だ。
初日は開場時間前から、国内外の来場者が集まり、展示ブースやセッションの周辺では商談が絶えなかった。官民連携、社会課題解決、技術実装──これらのテーマに対する関心の高さは、都市政策にとってスタートアップが“余白”ではなく“中核”に移行しつつある現状を示している。
SusHi Tech Tokyo 2025は、技術開発を行うスタートアップにとっては展示会以上の意味を持ち、行政・投資家にとっては都市の未来を測る実験場ともいえる。今後、都市という構造の中で、どれだけのプレイヤーがこの場を起点に再配置されていくかが問われている。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)