本田圭佑も注目の新鋭家具ブランド…おしゃれで高品質なのにリーズナブルな価格を実現

●この記事のポイント
・SHEINから着想を得たビジネスモデルを用い、家具業界に新しい風を吹かせようとしているCAGUUU。同社社長の中村氏は、「ニトリ並みの価格で高級家具レベルの品質・デザインを提供する」と豪語する。
日本の家具市場は、長らくニトリとIKEAという二大巨頭が支配してきた。手頃な価格で生活を彩る家具を提供する一方で、デザイン性や品質にこだわる層、あるいは高額なデザイナーズ家具には手を出しにくい層のニーズは、十分に満たされてきたとはいいがたい。この“空白地帯”に、D2C(Direct to Consumer)とODM(Original Design Manufacturing)を駆使した革新的なビジネスモデルで挑戦状を叩きつけるのが、新星スタートアップ、株式会社CAGUUU(カグー)だ。彼らが目指すのは、「ニトリ並みの価格で高級家具レベルの品質・デザインを提供する」という、まさに家具業界の“高級家具の民主化”であり、その先には既存の市場構造を根底から揺るがす革命児としての存在感が予感される。今年3月には本田圭佑氏が率いるベンチャーキャピタル「X&KSK」や、DiDi・REDBOOKにも投資している「GSR Ventures」から総額6.5億円の資金調達を行った。
目次
「6カ月待ち」が突き動かした、異色の起業家の挑戦

CAGUUUの創業者で代表取締役社長の中村勇輝氏は、その経歴からして異色中の異色だ。東京大学で情報工学を修め、新卒で戦略コンサルティングファームに身を置いた後、インフルエンサーブランド事業、スマート家電事業と、連続して起業を経験してきた。そのすべてで異なる業界に切り込んできた彼が、次に選んだのが「家具」という、一見デジタルとは縁遠いアナログな市場だった。この転身のきっかけは、実に個人的な体験だったという。
「2021年にマンションを購入した際、某北欧ブランドの家具の購入に6カ月も待たされるという経験をしました。欲しいものがすぐ手に入らない、この日本の家具業界の非効率性と課題を、身をもって痛感したのです」
この、多くの消費者も経験したであろう「待つ」という不満が、中村氏のビジネスを嗅ぎ分ける鋭い嗅覚を刺激した。既存の家具市場を分析すると、ニトリやIKEAは手軽で安価だがデザインの多様性に限界があり、一方の高級家具はソファ1台で50万円〜100万円という高額な価格帯で、選択肢も限定的だ。この大きなギャップ――「欲しいデザインはあるが高すぎる」「安くてもデザインに妥協したくない」という、日本の消費者が抱える潜在的な不満の層こそが、CAGUUUが狙う市場の“黄金地帯”だった。
ODMを極限まで活用:「格破壊力とDX革命」
CAGUUUが、この巨大な市場の空白を埋めるために採用した戦略は、中国発のグローバルアパレルD2C「SHEIN」のビジネスモデルから着想を得たものだ。核となるのは、ODMの徹底活用と、それを支えるD2Cモデルである。
「私たちは、中国の優れた製造パートナーと直接連携することで、中間業者を排除し、高品質な家具を驚くほどの低価格で提供することを可能にしました。例えば、他社では数十万円で販売されているようなデザイン性の高いソファが、私たちはニトリやIKEAなどの大手家具メーカーと大きく変わらない価格帯で提供できます。これは、アパレルD2Cで成功した方程式を家具業界に持ち込んだもので、その破壊力は計り知れません」
中村氏はそのビジネスモデルの核心を語るが、通常、家具が消費者の手に届くまでの道のりは長い。企画、デザイン、製造、輸入、卸売、小売と多くのプロセスと中間業者が介在し、それぞれの段階で手数料が上乗せされる。これが最終的な価格を押し上げる要因となる。しかし、CAGUUUは自社で企画・デザインした商品を、選定した中国の協力工場に直接発注。製造された商品はそのまま消費者に届けられる。この徹底した垂直統合とサプライチェーンの最適化こそが、「高品質・低価格」を両立させる秘訣なのだ。
さらに、このモデルは、市場のトレンドや消費者のニーズに迅速に対応できるという強みも持つ。通常、家具の企画・製造には長いリードタイムを要するが、ODM工場との密接な連携により、デザインの変更や新商品の投入サイクルを短縮できる。これにより、常に最新のトレンドを反映したデザイン性の高い家具を、タイムリーかつ手頃な価格で提供することが可能になる。“家具業界の革命児”という表現は、まさにこの「品質」「デザイン」「価格」の三位一体を指し示しているといえるだろう。これは、まさに物流テック企業がサプライチェーンの非効率を解消しようと挑むのと同様の、デジタル技術を駆使したサプライチェーン改革の一環ともいえる。
このビジネスモデルは、従来の家具業界の常識を覆す。既存の家具メーカーが抱える、複雑なサプライチェーン、大量の在庫リスク、そして高コスト体質といった課題を、CAGUUUは根本から解消する。これにより、消費者はこれまで高嶺の花だったデザイン性の高い家具を、より気軽に、そして迅速に手に入れられるようになる。これは、単なる価格競争ではなく、家具の「買い方」そのものを変える、破壊的なイノベーションなのだ。
「ニトリ・IKEAに並ぶ」CAGUUUの野望
CAGUUUの野望は、個人消費者向け市場(BtoC)にとどまらない。彼らの描く未来は、日本の家具市場全体、さらにはグローバル市場の再編にまで及ぶ。
「将来的に、世の中の家具ニーズはニトリとIKEA、そして我々CAGUUUだけで十分になると考えています。個人向けのニーズは全てカバーできる。さらに、日本中のデザイナーやプロ向けにもサービスを普及させ、BtoB市場も全面的に開拓したい」
特に注目すべきは、彼らがBtoB領域への挑戦だ。大手デベロッパーの新築マンションモデルルームにお手頃な価格でおしゃれで高品質な家具を提供し、購入者がそのモデルルームと同じ家具を一括購入できるようにするサービスは、不動産業界における家具調達の常識を覆すものだ。たとえば、従来おしゃれな高級家具だと500万円かかっていたコーディネートが、CAGUUUと組めば80万円に収まる可能性があり、BtoB市場における価格破壊と効率化を同時に実現する、圧倒的な競争優位性を示す。これは、パートナー企業への「負担ゼロ」に近い価値提供といえるだろう。
このアプローチは、新築だけでなく中古マンションのリフォーム市場にも適用可能だ。リフォームと家具の一括提案により、消費者は手間なく理想の住空間を実現できる。また、ホテル、レストラン、オフィスといった法人向け領域への展開も視野に入れる。これらのBtoB市場では、複雑な中間業者を排したD2Cモデルにより、コストパフォーマンスの高い家具を直接提供できる。これは、特に初期投資を抑えたいスタートアップ企業や、デザイン性とコスト効率を両立させたい中小企業にとって、非常に魅力的な選択肢となるだろう。
またCAGUUUは3Dプランニングサービスを提供しており、プロのインテリアコーディネーターが、お客の要望に基づき3Dシミュレーションで理想の空間を提案する。家具の配置イメージを具体的に再現し、インテリア選びをサポートできるのが特長だ。自宅から無料で相談可能なMyCoordiも今後建築デザイナーやインテリアデザイナーへ提供開始する予定。
中村氏は、さらに幅広いスタイリングを自社でカバーできると自信を見せる。
「ほとんどのスタイルを我々でカバーできる。これは既存の家具メーカーにはない強みです。我々は、家具を『機能性』だけでなく、『デザイン性』『コスト』の三軸でバランス良く提供できる、唯一無二の存在になれると信じています」
この「全方位戦略」は、CAGUUUが単なるD2Cブランドに留まらず、家具市場全体のインフラとなることを目指していることを示唆している。ニトリやIKEAがカバーする大衆市場、そして高価格帯のデザイナーズ市場、さらには法人市場まで、あらゆるセグメントにCAGUUUの波が押し寄せ、既存のプレイヤーを“駆逐しかねない”ほどの潜在力を秘めているのだ。これは、CAGUUUも家具市場全体を包括的に変革しようとしているといえる。
グローバル展開と「価格の透明性」が変える家具市場の未来
CAGUUUの視線は、既に日本市場のその先を見据えている。韓国、イギリス、中東といった主要市場への展開を計画しており、グローバル市場での勝機を見いだす。
「海外でも日本と同じようなことができると考えています」と、中村氏は海外市場への自信を覗かせる。これは、CAGUUUのODMを核としたビジネスモデルが、国境を越えて通用する普遍的な価値を持つことを示唆している。つまり、高品質な家具を適正価格で提供するというニーズは、日本だけでなく世界中の消費者が抱える共通の課題であるという認識だ。
同社が特に重視するのは、「価格の透明性」だ。中村氏は、一部の高級家具市場ではデザインが似ていても価格が数倍異なるケースが散見されることを指摘し、自社が消費税や関税を全て支払い、適正な価格で提供していることを強調する。この透明性は、消費者の信頼を獲得し、従来の不透明な価格設定がまかり通っていた業界に一石を投じることになるだろう。これは、特に若い世代や、情報リテラシーの高い層にとって、企業を選ぶ上での重要な要素となる。
家具は「簡単に買い替えられるものではない」と考える消費者は多い。しかし、CAGUUUの登場は、その常識を覆す可能性を秘めている。「もっと気軽に、気分やタイミングで選べる身近な存在」へと家具の概念を変える。これは、消費者のライフスタイルに合わせた柔軟な家具選びを可能にし、家具市場全体の活性化にも繋がるだろう。CAGUUUは、消費者の「価値観」に寄り添った家具選びの新たなスタンダードを築こうとしている。
CAGUUUが仕掛ける「高級家具の民主化」の成功は、単なるD2Cビジネスの成功を意味するだけではない。それは、情報工学と連続起業の経験を持つ異色の起業家が、非効率が蔓延する巨大な家具市場にメスを入れ、消費者には選択の自由と経済性を、企業には新たな調達の選択肢と効率性をもたらす、真のイノベーションとなるだろう。既存の家具店では満たされなかった、高品質でデザイン性の高い家具を誰もが手に入れられる未来は、そう遠くないかもしれない。そして、その先にはCAGUUUが世界の家庭を彩る、新たな家具市場の覇権争いが待ち受けている。CAGUUUの挑戦は、まさに家具業界の“ゲームチェンジ”を告げる狼煙となるだろう。
(構成=UNICORN JOURNAL編集部)