「ただのシェアオフィス」ではない──CIC Tokyoが描く、日本発ユニコーンを生むエコシステム

●この記事のポイント
・イノベーション創出拠点「CIC Tokyo」は、単なるシェアオフィスではなく、「スタートアップエコシステムそのものをデザインする存在」として注目を集めている。約330社のスタートアップや関連企業が入居しており、大企業、行政、投資家など多様なプレイヤーとの接点を生み出す年間400件以上のイベントを開催。
・柔軟なマンスリー契約制度やグローバル展開支援の「ジャパンデスク」など、ハード・ソフト両面からスタートアップを支援している。
「ただのシェアオフィス」とはもう呼ばせない。CIC Tokyoが目指すのは、日本のスタートアップが“世界と勝負するための土台づくり”だ。
2025年7月、京都で開催された国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」。未来のユニコーン候補たちが集い、VCや大企業、行政関係者が入り乱れるこの熱狂の中に、存在感を放っていたブースがあった。
それが、イノベーション創出拠点「CIC Tokyo」だ。
ボストン発のグローバルイノベーション施設として、2020年に日本上陸したCIC Tokyoは今や、ただのシェアオフィスの枠を超え、「スタートアップエコシステムそのものをデザインする存在」として国内外の注目を集めている。
本稿では、CIC TokyoがIVSに出展した背景から、彼らの活動が描き出す「スタートアップ支援の未来像」までを掘り下げる。
目次
- 「世界とつながる拠点」CIC Tokyoの全貌
- 見出し2なぜ今、IVSに出展したのか?「信頼の交渉市場」で描いた戦略
- 「日本最速ユニコーン」も育った、柔軟かつ強固な成長支援
- エコシステムを「動かす」存在へ──他社と何が違うのか?
- スタートアップに“孤独”はもういらない──CICのコミュニティ文化
- 次に目指すのは「グローバル×ディープテック×ダイバーシティ」
- 日本のスタートアップ支援の「核」になれるか
「世界とつながる拠点」CIC Tokyoの全貌
東京都港区・虎ノ門ヒルズ内に位置するCIC Tokyoは、約330社のスタートアップや関連プレイヤーが入居する、日本最大級のイノベーションキャンパス。特徴は「物理的なスペース」ではなく、「関係性を紡ぐ仕組み」にある。
たとえば、年間400件を超えるイベントを開催し、大企業、行政、大学、投資家、海外スタートアップなど多様なプレイヤーとの接点を生み出している。また、事業成長に合わせて柔軟にスペースを拡張できるマンスリー契約制度や、グローバル展開支援の「ジャパンデスク」、実務支援プログラム「CIC Institute」など、ハードとソフトの両面からスタートアップを支えているのが特徴だ。
「CICが目指すのは、起業家が孤立せず、成長の壁を一人で乗り越えずに済む“エコシステム”を形にすることなんです」(CIC Tokyo・コミュニティオペレーションズマネージャー 小林尚生ケイ氏)
なぜ今、IVSに出展したのか?「信頼の交渉市場」で描いた戦略
CIC TokyoがIVSに出展したのは、自社のPRだけが目的ではない。むしろ、“スタートアップエコシステムを加速させるための拠点”としての存在を、スタートアップと支援者双方に実感してもらう機会だった。
「京都で開催されたIVSは、私たちにとって“同窓会”のような場所にもなっていました。入居企業の方々にたくさんお会いできて、そこで新たなネットワークも広がったんです」(小林氏)
IVSは、出展には審査や推薦が必要な「信頼されたマーケット」。その場でスタートアップ支援機関として顔を出すことは、CIC自身のプレゼンスを高めるだけでなく、入居企業への信頼性を補完する意味合いもある。
また、京都・大阪など今後の展開エリアに向けた地ならしとしても意義深い。2025年4月には福岡拠点が始動、今後は大阪・京都への展開も視野に入っている。
「日本最速ユニコーン」も育った、柔軟かつ強固な成長支援
CICの実力を象徴する事例の一つが、日本で最速でユニコーン企業となったAI企業「SakanaAI」だ。
創業間もない時期からCICに入居し、成長フェーズに合わせてフロアを増床し続け、現在も拠点として活用している。
「最初はたった3人でしたが、今では大きなチームに成長。CICのマンスリー契約制度を活用して、部屋を段階的に広げていきました。スタッフも彼らの相談役として支援してきました」(小林氏)
このような柔軟性は、固定契約型オフィスではなかなか実現しない。加えて、CICは定期的な登壇機会やビジネスマッチングの場も提供しており、SakanaAIのようなスタートアップが資金調達や事業提携の機会を得やすい環境を整えている。
IPOを視野に入れる段階で卒業した企業も多く、アスエネ、TERASS、Unerryなどが代表的な「CIC発」スタートアップとして知られている。
エコシステムを「動かす」存在へ──他社と何が違うのか?
CIC Tokyoの支援は、単にスタートアップを“育てる”だけにとどまらない。
彼らが目指しているのは、スタートアップと社会実装の担い手(行政・大企業)をつなぐ“触媒”の役割だ。たとえば東京都が推進する「Be Smart Tokyo Project」では、スタートアップと大企業が共同で実証実験を実施。CICがその運営を担っている。
さらに、世界有数のラグジュアリーブランド「ケリング」や、韓国スタートアップセンターなどとの連携も進む。ボストン拠点に設けた「ジャパンデスク」では、グローバルに挑戦する日本企業を現地のネットワークで支援する。
「ただ中だけで完結するのではなく、外とつながる“ハブ”としての価値が、これからの時代は問われると思います」(小林氏)
スタートアップに“孤独”はもういらない──CICのコミュニティ文化
CICでは、起業家の“孤独”に向き合う仕組みも徹底されている。
代表的なものが、入居者主導のコミュニティイベントだ。テーマ別の「お悩み相談会」や、「自販機の空きスペースをどう活用するか?」といったアイデアソンが実際に事業化につながったケースもある。
また、法律・ガバナンス・採用などの課題に対しては、専門家による「オフィスアワー」を設置。必要に応じて契約に進む形で、負担なく相談できる仕組みを整えている。
「みんなで悩みを共有して、アイデアを出し合って、時にチームが生まれる。それが日常的に起きているのがCICの文化です」(小林氏)
次に目指すのは「グローバル×ディープテック×ダイバーシティ」
CICが次に見据えるのは、3つのキーワード──グローバル、ディープテック、そしてダイバーシティ。
現在、入居企業の約20%が海外企業。スタッフもバイリンガル対応で、海外から日本に進出する企業、日本から海外に挑戦する企業、双方にとって「ゲートウェイ」として機能している。
大阪・関西万博では、各国の視察団がCICを訪問し、日本のイノベーションハブとしての注目度も高まっているという。
「日本のスタートアップは、最初からグローバルを前提に事業・チーム設計をすることが成長のカギ。SakanaAIのように、多国籍の研究者と日本の行政出身者が組むことで、両方の視点を持ったチームが生まれます」(小林氏)
加えて、ジェンダーや年齢の多様性を受け入れた支援体制も強化中。ダイバーシティを重視したイベントやネットワーク構築も積極的に展開している。
日本のスタートアップ支援の「核」になれるか
日本各地にインキュベーション施設や支援拠点が次々と立ち上がる中で、CICが担おうとしているのは、それらをつなぐ“マーケットリーダー”としての役割だ。
「それぞれが一生懸命やっていても、連携しなければ相乗効果は生まれない。エコシステムを一緒に盛り上げるために、私たちがそのハブになっていきたい」(小林氏)
いま、日本のスタートアップ支援は「分断から共創へ」という新たなフェーズに入ろうとしている。
CIC Tokyoは、その流れを牽引するリーダーとして、次の時代のスタートアップエコシステムを支える存在となるだろう。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)


