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自転車事故の根本解決に挑む…スマートフォンGPS技術と段階的成長戦略

2025.09.06 2025.09.06 00:25 ユニコーンアイ

自転車事故の根本解決に挑む…スマートフォンGPS技術と段階的成長戦略の画像1

●この記事のポイント
・wakabar株式会社が事故を根本的に無くす走行サポートアプリで自転車事故ゼロ社会を目指す
・スマートフォンアプリで危険箇所警告と安全教育を両立するシステム構築
・自治体連携による実証実験から全国展開へ、交通事故根本解決に挑戦

 自転車事故の根本的解決を目指すスタートアップ、wakabar株式会社(代表取締役:杉山誠一郎氏)が注目を集めている。同社は「自転車の乗り方意識を変え、自転車事故ゼロの社会にする」をビジョンに掲げ、GPS技術を活用した自転車用安全アプリとデバイスの開発を進めている。従来の事後対策ではなく、事故の事前予防に焦点を当てた逆転の発想で、交通安全分野に新たな風を吹き込もうとしている。

●目次

 

スマートフォンGPSで危険予測する技術基盤

 wakabar株式会社の技術的な核心は、スマートフォンに内蔵されたGPSと危険箇所を収集した マップを活用した危険感知システムにある。

「基本的にスマートフォンの GPS などを使って、スマートフォンアプリで実装している。自転車の安全業界でGPSを使って危険を感知するという分野は、今ちょうど研究が始まっているところで、私たちは多くの人に使ってもらって属性データを集め、独自の仕組みを作ろうと取り組んでいる」と杉山氏は説明する。

 同社では専用デバイスの開発も進めているが、現段階ではスマートフォンで完結させることを優先している。

「デバイスも作っているが、一度出してしまうとロットの関係で修正が難しい。修正期間中はスマートフォンで全て完結させ、いずれはデバイス化、さらには自転車への内蔵まで発展させたい」と将来展望を語る。技術開発を担うのは、東京大学大学院でテクノロジーと人間の未来を研究する南田桂吾氏(CTO)だ。杉山氏と南田氏は近畿大学のスタートアッププログラムで出会い、4~5年にわたって協働している。

「彼の研究テーマであるテクノロジーと人間の未来という観点から、wakabarは人間のライフスタイルを助ける仕組みとして彼の興味を引いている」と、杉山氏は技術陣への信頼を示す。

ヒューマンエラー削減への独自アプローチ

 自転車事故の多くが運転者の不注意や危険予測不足に起因することを踏まえ、wakabarは独特のアプローチでヒューマンエラー削減に取り組んでいる。

「システムは危険な運転をしていたら警告音を鳴らす仕組みと、帰宅後に警告された理由を学習するという二段構えで対応している。今の社会では事故があると車が悪いという風潮だが、自転車に乗る人もより安全意識を持って乗るべきだ。最終的な事故削減には自転車に乗る人たちの意識改革が不可欠」と、杉山氏は問題意識を語る。

 特に基本的な交通ルールの徹底に重点を置いている。「自転車に乗る際に左側通行・右側通行といった本当に基礎的なところを理解するだけで、事故が半分以上減っていく。ヘルメットだけでは、結局事故があった際の抑止にしかならない。根本的に事故をなくすためには、自転車の乗り方意識を変えるためのアプローチが必要。また、来年の青切符に備えてルールもしっかり分かってもらう」と説明する。

 事故データの収集・分析については、警察の公開データ、自治体との実証実験で得られる地域 のヒヤリマップ、法的規制エリアの情報を総合的に活用している。「これらのデータは製品開発と啓発活動の 両方に活かしている」と実用性を強調する。

自治体・警察との連携で実証実験を推進

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 wakabarの社会実装に向けて、行政機関との連携が重要な役割を果たしている。

「正式に連携していたのは滋賀県守山市で、実証実験の募集で採択をいただいた。また公表は できないが、大阪の自治体や保険会社、警察とも何度も意見交換を重ね、連携を強化している」と杉山氏は関係 構築の進捗を報告する。

 一方で、株式会社として収益性も追求しなければならない現実もある。「自転車というだけでVCの反応率が圧倒的に悪くなるのは承知している。市場としてはまだ小さい部分だが、最終的には全国の皆さんが一人1台持つ自転車に500円の付加価値がつけば大きな市場が生まれる。意識改革することが市場改革につながる一歩だと信じている」と市場創出への確信を示す。

段階的成長戦略で市場創出を目指す

 wakabar の企業成長シナリオは、段階的なアプローチで構築されている。

「まず楽しく自転車に触れるライト層を巻き込むため、自転車セルフツアーガイドというサービスを展開している。ヨーロッパでは一般的なアクティビティで、ガイドさんの同行なしで自転車ツアーを行う仕組みだ。このアクティビティをデジタル化した上で、日本に普及させようと、滋賀県からスタートした。ここは売上につながりやすいので基盤作りに活用している」と短期戦略を説明する。

 中長期的には本格的な安全システムへの展開を計画している。「次はルールを理解したい層、一般の大人にwakabarの安全システムを使ってもらい、いずれ子供へと踏み込んでいく。最終的には自転車への内蔵まで段階的に進めたい」と展望を語る。

 収益の柱としてはBtoCサービスを基盤とし、競合については「現状では見当たらない。安全システム分野への参入企業がないのは、そもそもこの分野が研究中で、一年単位では到底できるものではないため、企業が参入したいと思えない領域だから」と分析する。競合優位性については「ネットワーク力と、東京大学で研究するエンジニアによる最先端技術の活用、そして早期スタートによるデータ蓄積とブランド構築が強み」と自信を示している。

 wakabarが目指すのは、単なる事故防止を超えた社会変革だ。「パーソナルモビリティがより活躍する社会が望ましい。日本では自転車が歩行者の延長として認識されているが、一つの乗り物としての立ち位置を確立したい。4人乗り、6人乗りの車に1人しか乗らないもったいない状況から、1人でもふらっと動けるモビリティが安全に走行できる環境を整えていく」と、交通事故ゼロの先にある未来社会への構想を描いている。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)