「地域交通の“断絶”を、広告がつなぐ」スポサポレンタカーが描く新モビリティ経済圏

●この記事のポイント
・レンタカー価格が高騰するなか、MOVINの「スポサポレンタカー」は広告収入とDX化によって従来の半額を実現。地域交通とスポーツ支援を同時に満たす新しいモビリティモデルだ。
・中古車の“長期在庫”を活用した車両調達、無人運営、LINEでの予約自動化などにより、初期投資ゼロで地域展開を可能に。行政・企業・スポーツチームを巻き込む設計が強み。
・1時間100円の世界、移動データと観光広告を連動させる構想など、将来展望は大きい。既存構造を読み替えたスポサポレンタカーのモデルは、地方交通の再設計に新たな選択肢を示す。
コロナ後、中古車価格の高騰や人件費の上昇により、レンタカー料金は全国的に上昇している。観光地では「車が借りられない」「1日1万円以上は当たり前」という声も多い。地方都市では路線バスが減便し、タクシーも不足。「移動の断絶」が顕在化している。
こうした中、レンタカー料金を“従来の半額以下”に抑えつつ、地域スポーツと連携し、広告費を原資にするという 全く新しいモビリティモデルが生まれている。MOVINが手がける「スポサポレンタカー」だ。
代表の荒巻光生氏はまだ20代の起業家。しかし彼が描くビジョンは、単なる「安いレンタカー」ではない。地域交通、スポーツビジネス、広告、データ、そして人材まで巻き込んだ新たな“地域モビリティ経済圏”である。
本記事では、同氏の発想の源泉とビジネスモデル、そして全国展開を見据えた構想までを紐解く。
●目次
- スポーツ×広告×モビリティという“逆転の発想”
- レンタカー価格を“従来の半額”にできる理由
- ビジネスモデルのキモ:「車は“買わない”」
- 地域スポーツと組むことで、自治体を動かす
- 利用者の8割が20〜30代…「若者の移動」を取り戻す
- スタートアップ経営者が学ぶべきポイント
- 将来の姿:1時間100円、データと観光を連動させる世界
- 多角化の布石:留学生の就職支援も並行展開
- “地域交通 × スポーツ × 広告”は新たな産業になり得る
スポーツ×広告×モビリティという“逆転の発想”

荒巻氏の原点は、学生時代にプロサッカークラブ・アビスパ福岡で行ったインターンシップだった。スポンサー企業の社長と接する中で、スポーツが地域にもたらす価値を体感したという。
「スポーツチームのスポンサーは“地域貢献” という意識でお金を出している。広告効果だけでは語れない価値がある」(荒巻氏)
一方、創業時のBtoBマッチング事業の関係で飛び込んだレンタカー業界では、まったく別の現実を目にする。固定費の高さ、リセール前提の車両調達、人手頼みのオペレーション……。
新規参入が難しい構造だからこそ、価格は高止まりし、新しいプレイヤーも生まれない。
「ここに、スポーツと広告を組み合わせれば構造が変えられる」。
こうして生まれたのが広告ラッピングレンタカー×スポーツチームの組み合わせだった。
レンタカー価格を“従来の半額”にできる理由
スポサポレンタカーが“安さ”を実現できるのには、二つの理由がある。
① 徹底的なDX化によるコスト削減
・店舗なし(コインパーキング・月極で管理)
・公式LINEで予約・決済・免許証確認・出発案内まで自動化
・清掃は地域のパートナー・タイミーなどを活用
・メンテナンスは中古車販売会社などと連携
これにより、従来型に比べて人件費・店舗費が劇的に圧縮される。
② 広告収入による“第二の収益源”
レンタカー事業に広告枠を持ち込むことで、利用料以外に月2〜6万円の広告収益が入ってくる。
スポーツチームのラッピング車の場合、さらに“応援”という情緒的価値が加わり、広告枠が売れやすいという。
「広告効果より、地域貢献の“見える化”が大きい。1500円で車を借りられるのはこの企業のおかげ、と利用者のボリュームゾーンである若者に伝わる。企業にとっては採用ブランディングにもなる」(荒巻氏)
結果として、利用者に1500〜2500円という低価格を提供しても事業は十分に成立する。
ビジネスモデルのキモ:「車は“買わない”」
レンタカー業界におけるスタートアップにとって最も重い費用は車両購入費だ。1台70万円なら100台で7000万円。これは重すぎる。
しかしスポサポレンタカーは車を買わない。その代わりに、以下の複数ルートで“調達”する。
・中古車店の長期在庫を預かる(売上の15%を還元)
・自治体の広告予算を用いて車両導入
・企業の節税・利益繰り延べスキーム
・地場中古車業者との連携
この複線化されたスキームにより、新規地域でも初期投資ゼロで立ち上げ可能という強みを持つ。
これはスタートアップ経営者にとって重要な示唆だ。「資産を持たずに、資産運用の“ハブ”になる」という発想は、モビリティ以外にも応用できる。
地域スポーツと組むことで、自治体を動かす
スポサポレンタカーが大きな注目を集めている理由の一つは、「地域スポーツとの連携」が行政にとって強い説得力を持つ点だ。
例えば福岡県うきは市の事例では、地元ラグビーチーム「ルリーロ福岡」のラッピング車を主要駅に配置。行政も“地域スポーツ支援×二次交通の確保”という文脈で高い関心を示した。
「ただの広告車なら行政予算は落ちない。スポーツ支援という文脈があるからこそ、交通・観光政策と結びつく」(荒巻氏)
自治体の交通課題は次の3つに集約される。
・路線バスの減便(ドライバー不足)
・タクシー不足
・観光地の二次交通不足
スポサポレンタカーは、このすべてに小さくフィットする。
利用者の8割が20〜30代…「若者の移動」を取り戻す
利用者のボリュームゾーンは20〜30代が8割。大学付近に設置した地域では、12時間1500円の手軽さもあって学生利用が急増している。
平均利用は24時間程度。土日は1000円値上げしても稼働量は落ちない。
若者の移動手段を回復させることで、地域の商圏が広がり、消費が動く。ここにも社会的意義がある。
スタートアップ経営者が学ぶべきポイント
取材を通じて明らかになった、MOVINの強みは以下の3点だ。
① “構造をずらす”ことで既存市場を突破
・既存レンタカーは「車両購入→固定費回収の価格設定」
・MOVINは「車両調達を外部化し、広告で収益補完」
構造を変えることで、新参企業でも参入できる余地をつくった。
② 地域ごとに最適な“事業成立ライン”を柔軟に設計
・最小1台からスタート可能
・3〜5台で最適化
・車両調達は地域の資産を活用
“標準化しすぎない”設計が地方展開向きだ。
③ 行政・スポーツ・企業を巻き込む三方良しのストーリー
モビリティ事業は行政との関係が必須だが、スポーツ支援が入ることで自治体の関心が一気に高まる。
スタートアップが“社会課題領域”で戦う際のモデルケースともいえる。
将来の姿:1時間100円、データと観光を連動させる世界
荒巻氏は、5〜10年先に以下のビジョンを描いている。
・1時間100〜150円で車が借りられる
・どの拠点で返してもよい“フリー返却型”へ
・リアルタイム走行データとAIを活用した観光・飲食広告
たとえば、福岡に来た女子大生のグループがどの方向へ向かっているかをリアルタイムで把握し、その動線に合った観光情報を提供する──そんな新たな広告市場をつくる構想だ。
多角化の布石:留学生の就職支援も並行展開
意外にも、MOVINは人材領域にも踏み込んでいる。英語トラック(英語のみで卒業可能)の外国人留学生の就職率はわずか10%。
この「ミスマッチ市場」を解決するため、スキルの高い学生と企業をつなぐプラットフォームを構築中だ。
モビリティとは離れているように見えるが、“既存構造のズレを埋める”という点で共通する事業哲学がある。
“地域交通 × スポーツ × 広告”は新たな産業になり得る
スポサポレンタカーは、単なる安価レンタカーではない。地域交通の課題解決、スポーツチームの財源確保、地域企業のブランディング、若者の移動の回復──。これらを一つに束ねることで、まったく新しい地域インフラの姿を提示している。スタートアップ経営者にとっては、「業界構造を読み替えることで、既存市場の外側に巨大な余白が生まれる」という最良のケーススタディだ。
そして、一般のビジネスパーソンにとっても、地域交通とスポーツという身近なテーマが、ここまで革新的なビジネスになるという点が非常に興味深い。
荒巻氏が描く未来が現実になれば、“移動の選択肢”は確実に増え、地方の観光・雇用・スポーツ文化にまで波及していく。
次の成長ステージは「全国展開」。スポサポレンタカーが、地域モビリティの新しいスタンダードになる日も、遠くないのかもしれない。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)


