トヨタが独法などで官僚流「利権温存」の隠れ蓑に利用される?
7月1日、経済産業省管轄の独立行政法人・中小企業基盤整備機構の理事長に、元トヨタ専務の高田坦史氏が就任した。同機構では初の民間人トップ。トヨタで宣伝部長などを歴任した高田氏は、理事長就任前まで子会社・トヨタマーケティングジャパンの社長だった。高田氏は公募に応じ、26人の中から選ばれた。
トップ以外の役員は現役官僚だらけ
筆者はナンバー2である副理事長人事に注目していた。おそらく経済産業省から「事実上の理事長」が送り込まれると予想していたからだ。案の定、経産省からの現役出向の塩田誠氏が副理事長に就いた。役員12人のうち、塩田氏を含めて5人が経産省からの現役出向だ。新理事長の高田氏が、トヨタ流の合理的な経営手法を入れようとしても、おそらく出向組の官僚に換骨奪胎にされてしまうのが透けて見える。そして、何か問題が起これば、責任は理事長が取らされるという構図だ。「トップは民間人、ナンバー2は官僚」という人事は、背後から操りやすく、官僚にとっては好都合なのだ。
高田氏の前任理事長である前田正博氏は、元経産省通商政策局次長。経産省を退官後、民間企業に転身してから古巣の外郭団体に戻った。ナンバー2は学識経験者として選ばれた一橋大学名誉教授だった。これだと、責任は前田氏が負う構図がはっきりしている。
大切なのは民間人か官僚かではない
民間企業の経営ノウハウを活用して独法経営の効率化を図ることは、納税者の観点からすれば良いことだ。しかし、トップは民間人、部下は官僚だらけでは、おそらく何も変わらない。公立の小中学校に民間人校長を受け入れようとしても、生え抜きの教員たちが面従腹背で抵抗し、学校の運営スタイルを本質的に何も変えさせようとしないケースが多いのと同じだ。肝心なことは、「トップが民間人か、官僚か?」ではない。その人が国民のために何をやるかだ。納税者はそこを注視する必要がある。
中小企業基盤整備機構は、補助金無駄遣いを象徴する独法として知られ、あまり評判がよろしくない。「肩書だけで仕事をしてきた役に立たない大企業のOBを受け入れ、補助金で創業・ベンチャー支援などを展開しているが、本当にこうした支援が有効なのか疑問がある」といった声も、民間のベンチャーキャピタルなどからは出ている。
官僚の批判回避のために利用される
事実、同機構が行っていた伝統工芸への事業計画作成支援事業は、「仕分け」の対象となった。伝統工芸への支援では、同じく経産省管轄の伝統的工芸品産業振興協会があり、まさに「二重行政」を象徴している。
同じような人事が今年4月にもあった。政府系金融機関・国際協力銀行の総裁に、同じく元トヨタ会長で日本経団連会長も務めた奥田碩氏が、ナンバー2の副総裁には、元財務官の渡辺博史氏がそれぞれ就任した。奥田氏がいかに優れた経営者であっても、門外漢の金融機関トップとしては、官僚の「操縦術」にはまってしまうリスクが大きい。
今、政局の火種となっている消費増税は、野田佳彦首相の背後に財務省が潜んでいることは間違いない。消費増税に失敗すれば野田内閣の退陣は必至であり、野田氏は政治生命も失いかねないが、絵を描いた財務官僚が、白日の下、大きな批判にさらされることはない。
(文=井上久男/ジャーナリスト)