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アップル栄えて電子部品メーカーは疲弊

アップルに突然取引切られ、日本の部品メーカーが経営破綻

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post_626.jpgいかにも実直そうなサイト。「シコー株式会社」HPより
 米アップルの膨張がとまらない。8月27日の米国株式市場でアップル株は、一時、過去最高となる680.87ドルまで買われた。時価総額は20日につけた6231億ドル(約49兆円)の史上最高記録をあっさり更新し、6382億ドル(約50兆2580億円)にまで拡大した。米カリフォルニア州連邦地裁で争われていた韓国サムスン電子との特許訴訟でアップルが勝利したことが好感された。陪審団はサムスン電子の特許侵害を認定し、10億5100万ドル(830億円)の賠償を命じた。

 今回の全面勝訴により、月に1000万台規模で売れるスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)「iPhone(アイフォーン)」を武器に快走を続けるアップルに弾みがついた。年末商戦に向けた新製品「アイフォーン5」の発売を前にモバイル市場でリードをさらに広げるとの見方が出ている。

 米グーグルの携帯電話向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したモバイル機器は、世界市場全体の3分の2を占めている。サムスン電子をはじめとするアンドロイド勢がデザインの変更を余儀なくされれば、モバイル市場の勢力図が大きく塗り変わる可能性がある。

 ところでアップル膨張の影で、振るい落とされた電子部品メーカーが出た。東証マザーズ上場のシコー(神奈川県大和市)である。8月10日、東京地裁に民事再生法を申請した。負債総額は85億945万円。

 シコーは携帯電話やスマホに搭載する小型カメラの自動焦点用モーターを手掛ける。同社の製品がアイフォーンに採用されたことで、2010年12月期には過去最高の売上高140億9000万円、営業利益16億6600万円を計上した。

 シコーはアップルからの大量受注に備えて、小型モーターを製造する中国・上海工場で大量の労働者を確保した。しかし11年9月にアップルがスマホをモデルチェンジして仕様を変更した際に、シコーは切られてしまった。労務費が重くのしかかり上海工場での大規模なリストラを迫られた。その結果、11年12月期の売上高は104億5700万円にダウン、最終損益は31億6900万円の赤字に転落。経営破綻に追い込まれた。

 シコーの創業者の白木学社長(64)は、開発一筋の人だ。岐阜県のミシン屋の息子である彼は、ラジオを作ったり、壊したりするのが大好きな機械マニアの少年だった。東京理科大学に進むと特許研究部を設立。早稲田、慶應、武蔵工大、明治大学の特許研究部で構成する日本学生アイデア連盟を結成した。

 その後69年、大学を卒業すると、伴五紀教授の私設研究所に入り、小型モーターの研究に従事する。74年6月に4人で起業、76年7月にシコー技研(現シコー)を設立した。シコー技研の社名は、思考に思考を重ねて独創的な製品を開発するという志からきている。このシコー技研という言葉がいたく気にいり、大学3年の時、商標登録したほどだ。

 白木氏は、携帯電話のマナーモードの生みの親である。携帯電話で着信音が鳴らないように設定できるのがマナーモード、バイブレーション(振動)で着信を知らせる。白木氏は直径4ミリという超小型振動モーターを1分間に1万回転させることによって、世界で初めて携帯電話のマナーモード機能を実現させた。

 携帯電話のバイブレーター用の小型振動モーターのメーカーとして業容を拡大したシコーは、04年8月に東証マザーズに上場した。05年に携帯電話のカメラに搭載し、焦点合わせに使うAFLモーターの低価格化に成功。アップルなどスマホ大手に販売を伸ばした。だが、最近では量産技術やコストで中国・韓国勢に激しく追い上げられていた。

 多くの日本国内の電子部品メーカーが、アップルのスマホ向けに部品を供給している。アップルに採用されたことで高成長を誇ったシコーの経営破綻は、チャンスとリスクが紙一重であることを示している。

 シコーの事業再生に名乗り挙げたのは、極小ベアリングで世界シェアの6割を占めるミネベアである。M&A(合併・買収)はミネベアのお家芸だ。ミネベアの“中興の祖”と評される故・高橋高見氏がM&Aの先駆けとなった。70年代から80年代にかけて次々とM&Aを仕掛けて「買収王」と謳われた。

 高橋氏の死後、鳴りを潜めていた大型のM&Aを復活させたのが、高見氏の娘婿で09年に社長に就任した貝沼由久氏(56)。日本政策投資銀行の協力を得て、大型M&Aに取り組む方針を打ち出した。第1弾が今年5月、韓国の小型精密モーターメーカー、モアテックの買収。第2弾がスマホ向けAFLモーターのシコーだ。シコーは開発と営業に集中し、ミネベアが生産を引き受ける。

 ミネベアが再び、“M&Aの風雲児”と呼ばれる日が来るのだろうか。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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