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「医療費抑制」「尊厳死」ブームの大きすぎる代償

医師会、国会議員が“自殺推進”法案成立にご熱心!?

文=永山りお
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医師会、国会議員が“自殺推進”法案成立にご熱心!?の画像1「Thinkstock」より
『大往生したけりゃ医療とかかわるな』(幻冬舎新書/中村仁一)50万部、『「平穏死」のすすめ』(講談社/石飛幸三)4万5000部など、ここ最近の出版界は「自然死」「尊厳死」ブーム花盛りだ。死が間近に迫った終末期には、体にチューブや人工呼吸器をつける延命措置はしたくない。誰にも迷惑をかけずに、静かに死ぬことこそ自分らしい死、などと頷きながら読んだ人は多いかもしれない。

 しかし、このブームに便乗するように、恐ろしい法律がつくられようとしていることをご存じだろうか?

 超党派議員からなる「尊厳死法制化を考える議員連盟」(会長・増子輝彦参議院議員)は、今年6月に「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)第2案」(以下、尊厳死法案)をまとめた。事前に「延命措置はしない」と書面に残した患者は終末期に延命措置を中止してもよいという内容で、要は

「患者本人が希望していたら、途中で医療行為を打ち切って自殺してもよい、それに関わった医師は責任を問われない」

とする法案である。

 現状では、患者の治療を中断すると、医師が殺人罪や自殺ほう助罪に問われかねず、患者の意思が尊重されない可能性があるために必要な法律としている。

病気になったら自殺せよ?

 一見すると、患者個人の自己決定を担保するための法律のようだ。しかし、法案をよく読むと、それとは真逆の趣旨であることに驚かされる。「病気になったら自殺せよ」という国民教育を推進するようにもとれる条文があるからだ。

 8月28日に行われた「尊厳死の法制化を認めない市民の会」の発足会で、呼びかけ人の一人・川口有美子氏はこう指摘した。

「第11条には、都道府県レベルで住民に法律を広めることを責務としています。学校教育で広めることになるでしょう。また、運転免許証や医療保険証にも記載するとも条文にあります。法律になるということは、その法律で決めたことが“道徳”になり、それをしない人は“変わった人”になるのです」

 川口氏は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う母親を13年介護し、看取った経験を持つ。ALSとは、徐々に体の筋力が失われて動けなくなっていく原因不明の難病だが、人工呼吸器をつけることで長く生存できることがある。

 しかし、実際には周囲に気兼ねして呼吸器をつけず、自ら死を選ぶ患者が85%にも上る。そこには、家族や周囲の人たちに長期にわたる介護負担をかけなくないから、という心理が働いているといわれる。仮に法案が通って延命拒否を“道徳”とする教育がなされれば、本当は生きたくても死に追い込まれる患者がますます増えることを川口氏は危惧している。

死を選ぶのは潔いという日本文化

 尊厳死法案では、法律の対象を15歳以上と規定している。だが、中高学生に尊厳死の可否を判断できるのか? コラムニストの小田嶋隆氏は、日本文化に潜む“欠陥”を理由に、疑問視している。

「白虎隊、忠臣蔵、葉隠、切腹、神風。日本の大衆文化は、簡単に死を選ぶ人間を潔いと称揚する気持ちが江戸期からずっとあります。『少年ジャンプ』でも高潔な人間は簡単に死を選び、悪役はいつまでも生きたいと言い張る。ツイッターでも二言目には死にたいという人がいますが、それくらい死ぬことを簡単に、美しく、何かをチャラにするリセットボタンみたいに考えている子どもがたくさんいる。15歳の子に『お前、管差してまで生きたいか?』と聞くと『いらねーに決まってんじゃん』となるのは当然だと思う。そんな判断を求める法律を通すのは、あってはならない」

 では、尊厳死法案が通って誰が得するのだろうか?

 法案の目玉は終末期医療を中止した医師の免責で、日本医師会はこれに賛同している。実は、同法案第2案の前に発表された第1案では、延命措置の「不開始」は定められてるものの、「中止」は認められていなかった。例えば人工呼吸器を「延命になるから」とあえて装着しないのはOKでも、途中で取り外すのは認めないということだ。

 これについて日本医師会は、「中止が法律上どう免責できるかを考えてほしい」と要望した経緯がある。06年の射水市民病院事件や、02年の川崎協同病院事件など、これまで終末期と見られる患者の人工呼吸器を外した医師がたびたび殺人容疑で書類送検されたり、起訴されたりしている。

終末期医療の難しさ

 患者や家族との信頼関係のもと、延命措置を中止したほうがよいと思える場合も、現在の法体系では“犯罪者”になりかねないことで頭を悩ませる医師は少なくない。日本医師会の要望は、医師の刑事免責を求める医療界の声を反映してのことだ。

 だが、医師の意見は個人差が大きく、法案成立を懸念する声も上がっている。内科医の新城拓也氏は、これまで2000人の患者を看取った経験を踏まえ、医師の終末期判定を“占いみたいなもの”と断言する。

「法律を制定するなら終末期を科学的に定義するものが必要ですが、最先端の研究の知見ではがん患者の死亡1カ月前と1週間前が予測できるだけです。ALS含めほかの病気は感覚的に『終末期』といっているだけで、科学的な根拠はありません。占いみたいなもので、医師の最近診た患者や、強く記憶に残った患者の傾向から予後を予測するバイアスがかかるのです」

「自然死」「尊厳死」という言葉は、テレビドラマのように静かで安らかな死をイメージさせる。だが、現実には死期の予測すらままならない状況で、大方の予想とは異なるケースも多い。

 これほどの懸念材料があるにもかかわらず、議連は秋に開かれる見込みの臨時国会へ法案提出を目指している。

 なぜ急ぐのか?

 その背景にあるのは、言うまでもなく社会保障費抑制だ。野田政権が提示した社会保障と税の一体改革では、高騰する社会保障費を抑える目的で、医療・福祉サービスを削減して「病気になったら自己責任」という方向性を示している。尊厳死法もその流れと考えるのが自然だ。

 自分の死を考える個人の切実な思いを、医療費削減のダシにしていいのか?

 法案に隠された本当の目的を見極めなくてはならない。
(文=永山りお)

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