破綻寸前企業を外資が買収、その時、社内はどうなるのか?
特集する「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/9月1日号)
ゴールドマン・サックス、ベイン&カンパニーなどの複数の外資系金融機関やコンサルティング会社を経て、ライブドア時代にはあのニッポン放送買収を担当し、ライブドア証券副社長に就任。現在は、経営共創基盤(IGPI)でパートナー/マネージングディレクターとして企業の事業開発、危機管理、M&Aアドバイザリーに従事するのが、塩野誠氏である。そんな塩野氏が、ビジネスのインフォーメーション(情報)をインサイト(洞察)に変えるプロの視点を提供する。
あんな大企業がリストラとは!
連日のように日本の電機業界の大規模な赤字やリストラ(人員削減)のニュースが流れています。電機業界は数年前までは高品質なテレビや携帯電話の生産を行い、日本産業界の花形とされていました。就職活動では学生が憧れ、社員はそこで働くことに誇りを持っていたのです。そんな日本を代表するような一流企業がリストラを発表し、破綻を回避するために外資系メーカーの出資を仰ぐ状況となっています。世の中からは「あんな大企業が、こんなふうになるなんて」と驚きの声が聞こえてきます。
筆者はM&A(企業買収)のアドバイザーとして仕事をしており、資金繰りが悪化した、お金がないと潰れてしまう企業の資金調達にかかわることもあります。
今回は企業が資金繰りに苦しむ中、他社が買収をもくろむといった状況で、社内では何が起こるのかについてお話ししたいと思います。
ハゲタカは、やっぱり悪い人なのか?
ちょっと前のテレビドラマですと、日本の実直な会社が業績不振に陥り、そこに外資のハゲタカ(定義は謎)が買収を仕掛けて、買収されたら会社も社員もバラバラにされてしまう、といった話がテンプレート化されていました。
今回は特定企業のケースではなく、一般的には「社内はこんな感じになります」という解説をします。
先ほどのハゲタカ話ですが、結論から言うと会社は資金繰りが悪化していて、誰のお金でも欲しい状況なので、ハゲタカだろうがハゲてないタカだろうが、お金を出してくれる人は大歓迎です。M&Aにおいて、「無理やり買われる」ということはゼロと言ってよいくらいありません。理由は簡単で、無理やり買っても会社が言うことを聞かない、そもそも大金を出して会社を丸ごと買う必要はほとんどなく、欲しい事業だけを買えばよいからです。無理して赤字事業も一緒に買収することは、買い手にとって合理的ではないのです。
企業が資金繰りに窮するということは、事業が利益を生んでおらず、赤字を計上し、それが積もり積もって借金が増えてしまっている状態だと考えられます。数千億円の赤字を出している企業もありますが、こうした巨額の赤字は、今までためた利益剰余金を食いつぶしてしまい、借金(有利子負債)が残っていきます。企業の破綻というのは、企業の資産をすべて売却して現金化しても借金を返せない状況(債務超過)を指します。
資金繰りが悪化すれば、企業は銀行管理下に
こんな状況で焦るのは、お金を貸している銀行です。特に大企業は、通常、複数の銀行から融資を受けており、その銀行団の取りまとめをメインバンクが行っています。企業の資金繰りが悪化すると、銀行は融資の担保を再確認し、現金の減少を止めるために、企業の保有する土地や株式といった資産を査定し、売却の準備を進めます。資金繰りが日に日に悪化していく中、資産売却してもお金が足りない場合は、事業の切り売りを検討します。
こうした検討はメインバンクが主導し、コンサルティング会社によって行われます。企業がいつ死ぬかわからない状況になると、銀行員が社内に常駐し、膨大な資料を要求するようになり、社内(主に経営企画部)はこの対応に追われます。メインバンクはその企業が生き延びるための再生計画を、他の銀行に説明する必要があり、その資料作成に大わらわとなります。
社内はリストラと事業売却の噂で疑心暗鬼に
こうなってくると、従業員は「自分の事業部が売られるのか?」と疑心暗鬼になり、さまざまな情報が錯綜します。社内が乱れ始めると社内派閥の抗争も激化しますが、ここで経営陣が毅然とした態度でメインバンクや銀行団と交渉し、冷静に再生計画をつくれるかが、運命の分かれ道となります。銀行の仕事は融資の保全であり、企業にとって将来必要な事業や資産まで売却してしまう可能性もあるので、経営陣の交渉力が将来を左右します。
経営陣は不要な資産を売却してお金をつくる一方で、外部からお金を調達してこなければなりません。一つは「銀行に支えてもらう」ことであり、コスト削減を行い業績改善することを約束し追加融資をお願いします。この条件が社員のリストラであり、経営陣は銀行からの支援のために、ギリギリのところで銀行団にリストラの約束をし、労働組合の説得を行います。ここでも従業員の間では、「どこから切られるのか?」といった話が飛び交うので、情報管理の徹底とデマを払拭する経営陣からの明確なメッセージが必要となります。
他社からの株式出資が最後の命綱
リストラや給与カット、そして資産売却をしてもまだお金が足りない場合は、返さなくてもよいお金、つまり借金(融資や社債)ではなく、株式での資金調達が必要となります。つまり買収ファンドや他の事業会社から出資を受けるということです。
これは第三者割当増資となりますが、資金の出し手は株式を保有することになるので、株式持分比率に応じて株主の権利を持ち、役員を派遣し、経営にも口を出せます。出資者の株式持分比率が過半数を超える場合は子会社となります。買い手側の立場からすると、黒字事業も赤字事業も丸ごと入った会社として買収するよりは、安く欲しい事業だけを買えるように会社の破綻を待つこともできます。そのため、会社が嫌がる中、無理やり買われるということはなく、むしろ今すぐお金が必要な会社が出資をお願いするほうが普通です。
また、国内企業が買えないので、外資が買いに来るのです。この状況ではお金が必要な企業のM&Aアドバイザーが、いかに有利な条件でお金を引っ張ってくるかが腕の見せどころとなり、この条件に企業の将来がかかってきます。
こうした修羅場な局面において経営陣は責任を押し付け合ったり、社内派閥の論理で動いたりせず、少しでも多くの従業員の雇用と生活を守るために、どんな手を使ってでも再生計画をまとめなければなりません。
経営陣にとってもすべてが初めての経験になりますが、浮足立つ社内を冷静にまとめ、生き残るためにやりきるしか道はありません。そのための経営陣ですから。