5月6日付日経新聞。
従来案は2000億円で米マイクロン・テクノロジーがエルピーダを買収する内容だが、社債権者はこれを「安すぎる」とかみついた格好となった。従来案をひもとくと、2000億円とは見かけ倒しであり、驚くべき安値による「エルピーダ買収劇」が浮かび上がってくる。再建の行く末が定まる10月に向かって、さらに大きなヤマが待っているといえそうだ。
際立つ弁済率の低さ
社債権者グループは、約20の海外投資ファンドなどから構成される。社債保有額は1000億円という。彼らが猛反発しているのは、弁済率の低さだ。エルピーダは約4200億円の負債を抱えるが、その7割は返済されず、「弁済されると言っている3割分も怪しい」(同グループ)という。
エルピーダ側の従来の更生案では、マイクロンが600億円でエルピーダを完全子会社化。加えて、マイクロンがエルピーダにDRAM製造を委託する分として計1400億円を分割で払い、それを弁済に充てる考えだ。
社債権者グループが疑問視するのが、この弁済分の1400億円だ。「支払う保証がまったくない」と主張している。実際、国内では取り上げられていないが、マイクロンが米国の証券取引委員会(SEC)に提出した公開情報の中で、エルピーダが返済するための1400億円をねん出できるかは「保証できない」と明記してある。
マイクロンは600億円でエルピーダを傘下に収める?
7月2日、マイクロンの投資家向けの電話説明会では、財務担当役員が「すべての支払いはエルピーダが生み出す資金から支払われ、この仕組みの一部としてエルピーダから支払われている」と述べた。つまり、エルピーダが返済するため1400億円は、同社が将来生み出す(はずの)キャッシュフローから支払われ、それが不足したときの保証はないということだ。
マイクロンに負債を支払う意思はなく、600億円でエルピーダを傘下に収められるという話だ。市場関係者からは、「枠組みから考えて、完全にエルピーダとマイクロンの出来レースでは?」との指摘が多い。
さらに驚くべきことに、社債権者グループの関係者は、
「ディール成約時に払うとされているのは600億円だが、そのうちの計200億円は支払い手続き上必要なだけ。マイクロンが支払うことで確約しているのは実質380億円にすぎない。それも下方修正事項がついている」
と語る。つまり、2000億円といわれた買収額が実は5分の1以下にすぎず、それもさらに下がる可能性があるというわけだ。
いまだに1400億円超の価値
こうなると、気になるのはエルピーダの資産価値だ。社債権者グループは3000億円超と試算するが、衰退産業といわれるDRAMに3000億円の価値を見いだせるのか疑問視する向きもある。外資系アナリストは、「マイクロンが米SECに提出した公開情報によると、スポンサー契約締結後、管財人が最低700億円の現預金をエルピーダのバランスシート上に確保することになっている」と指摘する。
また、このキャッシュとは別に、エルピーダの台湾子会社・レックスチップの株式65%の持ち分が、720億円程度に相当するという。マイクロンは、すでにレックスチップの24%持ち分を261億円で買収することに合意しているが、この価格を用いることで株式価値を算出すると、前出の金額になる。つまり最大の資産といわれる工場の評価分を除いても、1400億円超の価値がエルピーダには依然としてあるわけだ。
新たな買い手を模索中
社債権者グループは、「複数の投資家をスポンサー候補として交渉している」と明かす。ただ、決して成長産業といえないDRAMメーカーに、新たな買い手が見つかるかは不透明だ。かつてマイクロンと入札で競合した半導体メーカー関係者は、
「社債権者集団は、ソロバンをはじいているだけ。スポンサーに名乗りを上げる企業がこれから出てくるようには思えない」
と厳しい見方をする。「彼らはマイクロンに支払額を上積みさせ、回収額を増やしたいだけ」との冷めた見方は少なくない。社債権者グループと管財人との交渉は現時点においては決裂しており、揺さぶり合いが続く。
前述のようにエルピーダの資産価値は株式や現預金だけで1500億円程度、工場を入れれば安く見積もっても2000億円は下らない。エルピーダの資産が、外資の巧妙な手口によって安値で叩かれてしまうのか。東京地裁は両案を審議し、エルピーダの再建の行方は10月にも決着する見通しだが、どうやらこれからひと山もふた山もありそう。
エルピーダ問題はまだ終わっていない。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)