全預金は5億円? つなぎ融資をどうするのか
「エルピーダがりそな銀行に持つ口座残高が、5月末時点で5億円を切ったらしい」
6月に入り、都銀関係者の間で、エルピーダの預金残高急減に関する噂が飛び交っている。同社は2月末の破たん前に主要行から計250億円を引き出し、それまで取引のなかったりそなに突如移し替えるという奇策に出た。つまり、この5億円というのは、ほぼ同社の全預金といっても過言ではないかもしれないのだ。
同社が東京地裁に提出した会社更生法適用の申請書類では、2月末の現預金残高は343億円。当時の資金繰り計画では、4月以降、原材料費や人件費を月ベースで40~120億円減らし、8月末には22億円にまで下げる見通しだった。
りそなの口座以外にも、ある程度の現金を持っている様子だが、現時点ではりそながメーンバンクであるのは間違いない。アナリストは「りそなの口座がそこまで減っているとは予想外。マイクロンが支援に手を挙げているとはいえ、つなぎ融資がすぐにでも必要では」と語る。
前述のようにエルピーダは、融資返済が滞ることで銀行口座を差し押さえられるような事態を恐れ、主要取引行から不意打ちで預金を下ろし、りそなに現金を移した。都銀幹部は「従来の取引行は、裏切られた感触しか持たなかっただろう。りそながDIPファイナンス(つなぎ融資)する可能性がある」という。
今やDRAMは「おにぎり1個より安い」
問題は、なぜそこまで手元資金が急減したかだ。背景にあるのはDRAM(データ記憶装置・半導体メモリの一種)の構造的不況だ。DRAMは、主要用途であるパソコンの販売が低迷。容量1ギガビット(ギガは10億)品の価格は0.7ドル程度で、採算ラインといわれる1ドルを大きく割り込む。かつてはテクノロジー産業の象徴であったDRAMだが、今や「おにぎり1個よりも安い」というコモディティー化(汎用化)が止まらない。売れば売るほど赤字を垂れ流す事業を続けている状態なのだ。そのため、マイクロンが後ろ盾になっても、「今回の支援は延命に過ぎないのでは」との指摘も少なくない。
特に、マイクロンは広島、秋田工場を維持するだけでなく、人員も削減しない方針を提示している。債務を9割方カットした上で、現在の会社を丸ごと引き受ける計画案を示しているもようだ。一方、DRAM産業は構造的不況下にある。
市況に加え、特に気がかりなのが技術的な行き詰まりだ。半導体はチップ上の回路線幅を細くして、単位当たりの容量を高める「微細化」技術がカギ。特にDRAMは、開発した米インテルが仕様をガチガチに固めているため、微細化以外の工夫が難しいうえ、この微細化が限界に近づいている。需要が伸び悩む中で、技術革新がスローダウンすれば、自ずと収益性は悪化する。