ソニー、東芝…トレンド無視し高画質を競うTVメーカーの迷走
●家電見本市で人だかりができていたのはトヨタブース!?
9月に開催された国内最大の家電見本市である「シーテック」。出展企業の1社は「家電見本市とは名ばかりでしたよ」と語る。デジタル家電化のコモディティ化で、かつての花形だったテレビの出展は各社大幅に縮小。事実上自社生産から撤退した日立製作所が、初めてテレビの出展を見合わせたことでもそれは明らかだ。
「家電メーカーの出展は、スマートグリッド(次世代送電網)や自動車との連携技術などが中心。実際、ブースに人だかりができていたのは、パナソニックでもなくソニーでもなくトヨタ自動車」。なんとも皮肉な光景を、電機メーカー各社の関係者は目の当たりにしたわけだ。
気を吐いたのはソニーと東芝くらいなもの。フルハイビジョン(HD)の4倍の解像度を持つ「4K」に対応した液晶テレビを出展した。ソニーは11月に発売する84型の4K対応液晶テレビを出展。HDと並べて展示することで、画像の鮮明さを強調していた。
東芝は来春発売予定の84型を3台展示。東芝関係者によると、「『画像がくっきり浮かび上がって実物みたい』と絶賛する人も少なくなかったですよ」と興奮を隠さない。筆者もブースを訪れたが、確かに画像は驚くほどきれいなものだった。
ただ、あえて言えば「ではこれを買うのか?」と問われれば、それは別問題だろう。来場者からも「百数十万円は出せないよね」との声が漏れていた。ソニーの84型は160万円超。たたき売り状態の液晶テレビの価格を考えると、なかなか手が出しにくい代物だ。
●HDの4倍の解像度を持つ84型4K対応は、アダ花か?
業界内でも4Kに対する見方は冷ややかだ。米調査会社のIHSアイサプライの調べでは、2012年の市場規模は世界で約4000台。17年に210万台に達するが、液晶テレビ市場全体に占める比率は17年時点で0.8%にすぎないという。同レポートも「富裕層など一部の購入にとどまる」との見方を示しており、本格普及への道のりは遠いのが実情だろう。
手が出しづらい価格であることはメーカー側も承知の上。それでも販売に踏み切る背景には、既存の液晶テレビでは商売にならない現実があるからだ。国内テレビ市場の地盤沈下は深刻で、2012年の薄型テレビの販売台数は11年の2000万台弱から半分以下の800万台程度に落ち込む見通し。エコポイント制度と地上デジタル放送の二大特需が昨年終わり、完全に「燃料切れ」となった格好だ。当時、二大特需の追い風は凄まじく、国内のテレビ総保有台数1億台の7割程度が買い換えたと見られている。家電量販店関係者は「需要を5年は先食いした。700万前後で推移する傾向がしばらく続く」と悲観的だ。
●ニーズ読み違え
台数が落ち込む中、利幅が大きい高性能モデルで歯止めをかけたい気持ちはわかるが、統計からは完全にニーズを読み違えていることがわかる。電子情報技術産業協会(JEITA)のまとめによると、昨年話題になった3Dテレビの今年9月の販売台数は前年同月比23.9%減の6万5000台。注目を集めるインターネット動画対応テレビは、同67.3%減の19万8000台と低空飛行が続く。地デジ移行後の数値の比較になるだけに、メーカーが自信を持って送り出した製品の「不人気」が浮き彫りになってしまった。
すでに国内は人口減少局面に突入。テレビは専用機でなく、携帯電話やパソコンで視聴する若者層も少なくない。加えて、海外では顕著になってきたが、テレビがゲームやスマートフォン(多機能携帯電話)など各種機器と接続して、映像を映し出す装置としての役割を果たすようになっている。テレビの機能そのものではなく、他機器との連携の利便性や操作性などが、競争力の源泉になっているわけだ。