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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.23」

ペプシ、出来の良いCMが売上減退を招くキケン?対照的なフェラーリの販売戦略

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ペプシネックス
(「サントリーホールディングスHP」より)
 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。

 最近気になるCMがある。サントリーの「ペプシネックス」「ペプシスペシャル」のCMなのだが、肉食恐竜のティラノサウルス2頭の声をお笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志と浜田雅功が、草食恐竜のトリケラトプスの声を俳優・武田鉄矢が演じている。舞台は白亜紀末期と思われ、恐竜たちは忍び寄る滅亡の危機の直前にいるのだが、ユーモラスなムード。非常に完成度の高いCGを施した、凝った出来で見ていて楽しい。

 CMの内容はというと、松本演じる一頭の恐竜が、滅亡の気配を感じるなかで、肉食だけではだめで、「(野菜ならぬ木々の枝葉を)食べなきゃ滅びるぞ」と、浜田演じるもう一頭を諭したり、草食恐竜である武田鉄矢演じるトリケラトプスに諭されるといったものだ。つまり、肉ばっかり食べていると太る、太ると絶滅するよ、というメッセージを恐竜のクリエイティブで表現している。

 ペプシは脂肪の吸収を抑制する難消化性デキストリンという成分をコーラに配合し、特定保健用食品(すなわちトクホ)の認定を受けた。脂肪の吸収を抑え、肥満化を防止する効果を与えられたコーラを、このCMを使って大々的に売り出しているのである。

●ペプシ売上後退を招く?

 しかし、僕の感覚では、このCMの存在自体が、近いうちのペプシコーラの売上後退を招いたと言われるようになると思えてならない(まったく売れなくなるということはないので、あえて滅亡の気配とは言わない)。

 なぜかというと、ペプシコーラは若者の支持で成長してきたブランドだからだ。それに対して、トクホというのは中高年向けのメッセージだ。コーラをがぶ飲みする中心消費者層は10〜20代の若者だろう。肥満という言葉から縁遠い彼らにとって、トクホ飲料というメッセージは意味のない情報である。

 トクホコーラという商品パッケージは、甘さを抑えたライトコーラや砂糖ゼロのコーラより質が悪い気がする。若者(特に女性)にとって美容にかかわることは受け入れやすいが、健康というメッセージはあまり効果がない。そもそもたいていの若者は、病気と無縁だからだ。

 トクホというキーワードには、「美容のための痩せよう」ではなく「健康のために(これ以上)太らないようにしよう」というメッセージが強く残る。若者は健康のために痩せたいのではなく、美容のために痩せたい。可愛く格好よくいたいから痩せたいのであって、太って健康を害するのが怖いという気分は中年以降のものである。

 ペプシの恐竜CMは出来が非常にいいだけに、広告効果は高く、瞬間的には優秀なクリエイティブチームの思惑通りに、トクホコーラの認知や売上は上がるかもしれない。しかし、徐々に売上は減退すると僕は思う。おじさんが嬉々として飲んでいるペットボトルを見た若いOLや学生が、それを真似て飲むとは考えづらい。むしろ、ペプシそのもののユーザー層の平均年齢が上がることで、徐々に若い層が敬遠して飲まなくなるリスクのほうがはるかに高い。

●中国向け輸出を控えるフェラーリ

 イタリアの高級スーパーカーブランドであるフェラーリは、最近中国で売上が絶好調であるが、フェラーリの会長はあえて中国向けの輸出を控えるように指令を出したという。なぜかというと、フェラーリのような高級車は、希少価値があるからこそ皆が欲しがるからで、しょっちゅう目に触れるようにありふれた存在になったら、大衆の憧憬の念が薄れる。目先の売上よりも希少価値を重要視することで、長期的なブランディングを優先したわけだ。

 ペプシがトクホコーラの大宣伝で行っていることは、フェラーリの感覚とは真逆である。もちろんコーラは大衆の飲み物であり、高級車のように客を選ぶというポジショニングにはない。ペプシからすれば、コカ・コーラから客を奪えればいいのかもしれないが、元々ペプシは、コカ・コーラが全世代に受け入れられてきたパイオニアブランドであることを逆手にとって、若者にフォーカスすることで成長してきたブランドだ。若者に受け入れてもらうためには、オトナからの支持を拒否しなければならない。そうでなければブランドは強くなれない。