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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

ペプシはコカ・コーラになぜ勝てないのか…誕生から100年超、コロナ禍前より4割増

文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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小売店の棚に並ぶペプシコーラ
小売店の店頭でも存在感が高まっている

 晴れた日には気温も上がり、ドリンクを美味しく感じる季節になった。全国の小売店や自動販売機で気軽に買える「清涼飲料水」は、市場全体ではコロナ前(2019年)に比べて約4%縮小した。主な理由は、長引いた外出自粛や通勤減の影響で、自動販売機とオフィス街のコンビニ需要が減ったからだ。最近は回復基調にあるが、戻り切れていない。

 だが、なかには好調なブランドがある。ペプシコーラで知られる「ペプシ」だ。近年は販売拡大を続け、2021年度は前年比120%強、2022年度の販売数量は「1740万ケース」(前年比107%)。ブランド全体では「2019年比で4割増」と、大きく伸びた。

「ペプシ」は米国で誕生して1世紀を超える100年ブランドで、日本で発売されてからも70年近くたつ。だが、ご存じのように「コカ・コーラ」の牙城を崩せない。

 現在、どんな取り組みをしているのか。ブランドの責任者に取材しながら、「コーラ飲料」に対する消費者意識を考えた。

起爆剤となった「ペプシBIG〈生〉」

「2021年からの業績拡大に貢献したのは、同じ年に発売した『ペプシBIG〈生〉』です」

 サントリー食品インターナショナルで、ブランドマネージャーを務める上田大輔さん(SBFジャパン ブランド開発事業部 課長)は、こう説明する。最近では小売店頭での存在感も増し、販売の棚も広がっている。日本オリジナルという同商品を、なぜ開発したのか。

「コーラ好きが求める“うまさ”を追求するためです。『ペプシBIG〈生〉』はペプシコーラをベースとして、香料の基原料の一部に生コーラスパイスを使用。非加熱製法で処理し、口に入れた瞬間にガツンとくる“飲み応え”と、のどを通った後の“後ギレ”も特徴です」(上田さん)

 容器パッケージにも「ペプシ史上最高レベルの爽快感!」の文字が誇らしげに躍る。

「消費者調査をしながら、社内で『コーラに求めるもの』を徹底議論して進めました。『ぐびっと飲んで、くぅー、うめえ』の存在、『1日の終わりに飲む』などの意見が出て、関係者も賛同。『おつかれドリンク』というキーワードも掲げました」(同)

「1日の終わりに楽しむ」という視点で、コーラはビールに似た飲まれ方だという。

「実は、それまでブランドの業績は厳しかったのですが、2020年に底を打ちました。コロナ禍となり、外出自粛の日々が続くなかで、コーラでの気分転換を考えていったのです」(同)

「ペプシコーラ」の容量490ミリリットルに対して、「ペプシBIG〈生〉」は同600ミリリットルにした。これもコーラ好きに支持されたようだ。

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「ペプシ」の商品ラインナップ(写真提供:サントリー食品インターナショナル)

コロナ禍でも「コーラ飲料」が健闘した理由

「消費者の好みが多様化した現代でも、コーラ飲料全体では年間約1億ケース。この数字は20年前からほとんど変わっておらず、コーラ好きな方は多いのです」(同)

 ここ数年も、コーラ飲料市場は横ばいか微増だという。冒頭で記した清涼飲料全体は4%減となったことを考えると興味深い。

「コロナ禍でリモートワーク中心となり、在宅で働く人が増えたなか、炭酸を飲んでリフレッシュをされる方が多かったと思います。コーラはそれに見合った商品でもありました」

 筆者は外出自粛当時、「気が滅入る日々の気分展開」も取材してきた。なかには「ふりかけのかわいいキャラクターパッケージに癒された」「毎日通勤時代は後回しにしていた、部屋の乱雑さが気になり、100円ショップで収納箱を買って整理した」という声もあった。

 食品も本連載で紹介したが、「朝にお目ざめアイスを食べる」(一時、アイス市場は朝の売り上げが高まった)のような、“通勤して職場で執務”ではできないような行動があった。

 ちなみに、炭酸水などの無糖炭酸、エナジードリンクなどを含めた「炭酸飲料」市場は約3億5000万ケースあるという(サントリー推計)。炭酸水も取材してきたが、「強炭酸」を打ち出すメーカーが多く、消費者も「のどに少し痛いぐらいの刺激が好き」という人もいた。

「コーラの刺激」は、「炭酸水の刺激」とどう違うのか?

「成分が違いますが、消費者の方からは『全体のバランスがいい』と言われます。コーラ飲料の持つ味わい、甘みもあって炭酸も強いという独自性を評価されているようです」(同)

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「ペプシ」のブランドマネージャーを務める上田大輔さん(写真提供:サントリー食品インターナショナル)

なぜ、「コカ・コーラ」に勝てないのか?

 ここで、多くのビジネスパーソンが思うであろう質問を投げてみた。

 ペプシコーラは、「なぜコカ・コーラに勝てないのか?」

「ボリューム差(販売数量の違い)や原体験もあり、消費者の方が『コーラ』と聞いて最初に想定するのが『コカ・コーラ』なのです」(同)

 過去に「サントリー烏龍茶」のブランドマネージャーも務めた上田さんは、こう続ける。

「これまでさまざまな清涼飲料と向き合ってきましたが、カテゴリー名=ブランド名なのは、コーラとウーロン茶の2つしかありません。

 特にコーラ飲料には、原体験の楽しさがあります。たとえば、映画館で映画を鑑賞した時、友人と一緒に行ったハンバーガー店での飲食、夏の海辺で飲んだ経験など、ハレの日の楽しい思い出と結びついているのです」(同)

 そこで登場する機会が圧倒的に多いのが、“コークレッド”と呼ばれる赤を配したコカ・コーラだ。米国文化の象徴でもある、あのロゴと黒×赤も印象に残りやすいのだろう。ちなみに、国内の「コカ・コーラ」ブランドの販売数量は年間約8000万ケースで、ペプシコーラの4倍以上ある。

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「コカ・コーラ」は自販機市場にも強く、全国各地でおなじみの自販機を見かける

「コカ・コーラ」の牙城に挑み続けた「ペプシ」 

 サントリーが、米国ペプシコ社から日本での「ペプシブランド商品のマスターフランチャイズ権」(国内マーケティングおよび製造販売総代理権)を取得したのが1997年。翌98年から展開を始め、今年でブランド展開25周年だ。この間のターニングポイントは何か。

「大きく2つあります。2006年に『ペプシNEX』(当時)を発売し、ゼロコーラ(カロリー・糖質がゼロのコーラ)市場を切り拓いたこと。そして2012年に『ペプシスペシャル』を発売し、“脂肪の吸収を抑える”トクホ(特定保健用食品)を取得したことです。いずれも“コーラなのにゼロ”、“コーラなのにトクホ”と従来のイメージを変える商品となりました」(同)

 サントリーが展開する以前から、マーケティングの世界では「比較広告」で知られるブランドだった。特に有名なのが、1975年に米国で始まった「ペプシチャレンジ」で、ペプシコーラとコカ・コーラを飲み比べる目隠しテスト(試飲者にはブランド名がわからない)では「ペプシコーラのほうがおいしい」と答えた人が多かった。

 ちなみに、コカ・コーラ社が対抗した比較広告では「コカ・コーラのほうが好まれている」という結果を前面に出した。その後も「ペプシチャレンジ」は行われたが、日本では米国のような比較広告が浸透しておらず、少し形を変えたキャンペーンとして実施された。

 両ブランドの誕生と「ペプシチャレンジ」までを抜粋したのが以下の表だ。日本で本格普及したのは戦後の高度経済成長期で、食の洋風化も追い風となってコーラが浸透した。

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現在の「ペプシ」のロゴ。北米では今年秋に、2024年からはグローバルで新しいデザインに変わる予定だ

消費者意識を見据えて「ペプシ」がめざす道

 最近は通勤電車も混雑し、繁華街や観光地の人出も増えた。まだ油断はできないが、大小のイベントも以前のように開催されて、世の中の雰囲気はコロナ前に戻ってきた。

 清涼飲料にとっては追い風だが、「ペプシ」は何をめざしていくのか。

「消費者の方に興味を持っていただき、ブランドを思い出していただくことです。その取り組みも進めています」(同)

 同社はゴールデンウィーク明けの5月9日から北海道エリアで「ペプシ ゼロ ザンギ専用コーラ」(北海道限定)を発売する。「ザンギ」は北海道名物の鶏の唐揚げで、一般的な唐揚げに比べて味が濃いのが特徴。昨年6月に発売した「ペプシ からあげ専用」、同年12月の「ペプシ フライドチキン専用」に続く第3弾だ。肉とコーラは相性も良い。

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唐揚げに合うコーラとして訴求した(写真提供:サントリー食品インターナショナル)

 マーケティングの現場では「消費者(生活者)との“出合いの場”を増やす」という言い方もされる。たとえば、小売店の唐揚げ売り場や唐揚げ弁当専門店にコーラを置いてもらうことができれば、「揚げたチキン×コーラ」を印象づけるきっかけとなる。

 男性が飲むイメージが強いコーラだが、女性の割合も一定数ある。「肌感覚では男性6~7割:女性3~4割」という声も聞く。今後、コーラを好む女性も増えていきそうだ。

 これから最盛期の夏に向かう。コーラ飲料が訴求する次の一手は何になるのか。

(文=高井 尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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本格的な行楽シーズンも始まる。今年は人出が増えそうだ(写真はイメージ)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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