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スープストック、離乳食の提供で結局、混雑は起きたのか…店舗で意外な現象と結果

文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
スープストック、離乳食の提供で結局、混雑は起きたのか…店舗で意外な現象と結果の画像1
スープストックトーキョーのHPより

 賛否両論の議論を呼んだ、人気のスープ専門店チェーン「スープストックトーキョー」による全店舗での離乳食の無料提供が、今月25日にスタート。開始前にはSNS上で、店内に子連れ客が増えることで騒がしくなるというネガティブな反応も目立ったが、果たしてサービス開始によって店舗で目立った変化は起きているのだろうか。

 全国に約60店舗を展開するスープストックは「食べるスープの専門店」として、「東京ボルシチ」や「オマール海老のビスク」「緑の野菜のミネストローネ」などしっかりとお腹を満たせるスープ類のほか、カレーライスも提供。「女性が一人で入れるファストフード」をコンセプトとして掲げ、木を使い落ち着いた内装もあり、客層は女性の一人客がメインとなっており、メニューが週替わりのため毎週のように通うコアな固定客も獲得している。

 1999年に開店したスープストックは、三菱商事の社内ベンチャー企業・スマイルズが運営していたが、同事業を手掛けていた遠山正道氏がMBOによって全株を取得。現在はスマイルズから分社化されたスープストックトーキョーが運営。ファミリーレストラン「100本のスプーン」や、かき氷専門店「お茶と酒 たすき」、カレー専門店「YELLOW」なども展開している。また、長時間労働が問題視される外食業界において、年間休日休暇120日取得を就業規則に定めていることも知られている。

賛否両論の議論がテレビでも取り上げられる

 そんなスープストックは今月、全店舗で離乳食の無料提供を行うと発表。子どもが料理を目・鼻・口で感じるためにお米はあえてつぶさず食感を残し、にら、しいたけ、アスパラガスなどの「チャレンジ食材」を忍ばせている点が特徴で、スープストックのこだわりが詰まったメニューとなっている。顧客にとって大きなメリットがあるのに加え、社会的な意義も高い取り組みを歓迎する声が多数あがる一方、一部SNS上では

<落ち着けなくなる>

<店が狭いからベビーカーが邪魔>

<子供が騒いでいたら他の店に行くかも>

<新たな客層を得ようとして今までの主な客層を蔑ろにするやり方が嫌>

などと否定的なコメントもみられる事態に。賛否両論の議論がわいているとしてネットニュースやフジテレビ系『イット!』などテレビの報道番組でも紹介されるなどして、世間の関心が寄せられた。もっとも、20日付J-CASTニュース記事は、SNS分析ツール「ソーシャルインサイト」やユーザーローカル社のツール「AIテキストマイニング」を用いてTwitter上での反応を分析した結果として、

「反対意見への反発が相次いだことで、スープストックが実態以上にバッシングを浴びていると受け取った人は少なくなさそうだ」(同記事より)

と結論づけている。

完璧な声明発表

 世間からの大きな反応を受けて運営元のスープストックトーキョーは26日、以下内容の声明を発表した。

<このたびの「離乳食後期の全店無料提供」は、この「Soup for all!」の取り組みのひとつであり、小さなお子様連れという理由で外食店での飲食をためらう方の助けになればと始めたものです>

<私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません>

<世の中の環境の変化が激しい中、社会が抱える課題もさまざまです。それらを私たちがすべて解決できるとは思っていません。でも、小さくてもできることもあるとまじめに思っています。ひとつひとつですが、これからも「Soup for all!」の取り組みを続けていきます。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします>

 この声明について、外食業界関係者はいう。

「通常、企業がネット上で議論を呼ぶような騒動を起こすと、『お騒がせしましたことを、お詫び申し上げます』などと、とりあえず謝罪の姿勢を見せるケースが多いが、今回の声明で運営元は謝罪の言葉を使っておらず、それが取り組みに込められた信念の強さをうかがわせ、非常に好感が持てる。炎上騒動だとして面白おかしく取り上げていた向きに恥ずかしい思いを抱かせるほど真摯な姿勢がうかがえるコメントで、反論の余地をまったく与えない、これ以上ない完璧な対応といえる」

 では、果たして無料提供の開始によって、店舗で混雑や混乱が起きたり、クレームが寄せられたりという変化はみられたのか。運営元のスープストックトーキョーに問い合わせたところ、回答は得られなかった。また、都内の複数の店舗で聞いたところ、

「離乳食(提供開始)の影響は特にありません」

「いつもお昼以後は混雑しておりますので、変わりません」

「混雑をいただいております。Twitterのおかげもありまして」

とのことであった。ちなみに3つ目のコメントの店舗は平日夜8時以降にもかかわらずレジ前に長蛇の列ができており、乳児連れの客はいなかったものの客席も7~8割が埋まっていたので、離乳食の件とは関係なく常に混雑している可能性も考えられる。

「結局、一部の人が『子連れ客が増えて大混雑してしまう』と騒いでいただけで、蓋を開けてみれば杞憂に終わったということ。スープストックは小規模な狭めの店舗が多く、ぱっと思い付きのイメージとして『狭い店内にベビーカーの客が殺到して子どもが泣き叫ぶ』という印象を抱いてしまった人が一定数いたのかもしれない。

 だが、スープストックの店舗の約半数は東京都内で、繁華街やビジネス街、大型商業施設、駅構内の店舗も多く、そこにベビーカーを押すグループ客が無料の離乳食目当てに殺到するという事態は考えにくい。一人客がメインのため客席もカウンター席と2人掛けの席が大半のレイアウトなので、店の雰囲気も考慮すれば、そうしたグループ客が多数入っていくというのも想定しにくい。また、特に都内の店舗は常にレジ前に長い列ができている店舗も珍しくなく、『これ以上、店内に客が増えようがない状態』なので、以前に増して混雑するということは物理的に起きにくいのではないか。

 ネット上の反応をみると『独身の客』対『子連れ客』という対立構図でとらえる見方も少なくないが、当然ながら一人客のなかには子を持つ女性も一定数いるだろうから、偏った印象が勝手に広まってしまったという面もあるだろう」(外食業界関係者)

 幼児が口にする離乳食の提供を行うというのは、飲食店にとってハードルが高いことなのか。また、なぜ今回の取り組みは議論を呼んだのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。

ターゲットのバッティング

 飲食店が離乳食の提供を行うこと自体は、そんなにハードルの高いことではないのですが、今回は「ターゲットのバッティング」が議論を呼んだのだと思います。このターゲットのバッティングは、極端なケースだと「喫煙家vs.非喫煙家」のようなケースで見ることもできます。

 スープストックを利用しているお客さんの層は、「落ち着いていて、ひとりでも入りやすい店」として利用している人が多いのに、そこに小さな子どもを連れたファミリーが入り込んでくるわけですから、ターゲットのバッティングは容易に想像でき、既存の利用者を中心に今回のような反発が発生しているのではないでしょうか。飲食店のなかでも、ある程度の高級店では「お子様はご遠慮ください」「中学生以上からご利用可能」「20歳以上から」のような対応のところも多いですが、これもお店のコンセプトを守るためや、利用者のバッティングを防ぐための対策となっています。スープストックトーキョーは高級店ではありませんが、既存客は今の環境を気に入っているから利用していますので、今の環境が壊される恐れがある要因については排除したい、自分の領域を守りたいというのが本音でしょう。それがSNSに表れているのではないでしょうか。「あれもこれも」はなかなか難しかったりもするのです。

 スープストックトーキョーが離乳食の無料提供を始める狙いは、公式サイトからも読み取れるように、

・社会貢献、企業イメージの向上
・無料商品を動機づけに来店する親からの売上確保
・長い目で見た新しい客層の確保、拡大
・小さな子供の頃から利用してもらい、慣れ親しみ、大人になっても継続的に使ってもらおうという思い
・お持ち帰り用にパックされた離乳食の販売=物販商品ラインナップの充実

などがあると思います。小さな子どもを持つ親にとって、利用できる店は案外限られています。以前に「子供を遊ばせておけるファミリー専門カフェ」の立ち上げにお仕事で関わらせていただきましたが、オープン半年で予約が取れなくなるほどのニーズがありました。また、離乳食に対するニーズもかなりあることでしょう。スープストックもこの客層、ニーズを狙い、マクドナルドやファミレスのような使い方をしてもらうことを狙っていると思います。

 この先、既存客のなかで新しい環境を許容する層が残り、子育てファミリーの新規層がそれに加わる半面、その新しい環境を敬遠した層が減り、結果が出ることでしょう。既存の店舗に、あとから加えたサービスだと、オペレーションや店内空間の広さや造りから何かしらの不都合が生じ、対策も必要になると思います。今回の試みは客観的にはとてもやさしく、社会貢献にもつながりそうに見えますが、最終的には当事者にあたる利用者の主観が行動、数字となって結果を決めることでしょう。

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema

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