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吉田潮「だからテレビはやめられない」(7月27日)

池井戸ドラマ両方必見?万人受け『半沢直樹』、会社員の痛々しさが切実な『七つの会議』

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『七つの会議』公式サイト(NHK HP)より
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

 ネジドラマ……もとい、小説家・池井戸潤原作の企業ドラマが話題になっている。視聴率絶好調の『半沢直樹』(TBS系)が万人にウケる、老若男女問わず飲みやすいキャラメルラテだとすれば、『七つの会議』(NHK)は良質の豆から挽いたブラックコーヒーだ。企業に勤めるビジネスパーソンであれば、後者のほうにぐぐっと惹かれているのではないだろうか。

 中堅電機メーカーの内部で起きた不正隠蔽(いんぺい)を描くサスペンスタッチのドラマで、主役は東山紀之(少年隊のヒガシね)。営業部の課長だが結果を出せず、部長からは「その顔で枕営業でもしてこい」的なことを言われちゃう始末。そんなヒガシが、営業部と製造部で結託して隠蔽している不正に気づき、サラリーマン(社隷)として生きるか否かで煩悶する物語。

 まず、戦略的な映像がNHKならでは。「地道なのにスタイリッシュ」とは実はものすごく難しいところで、民放局にはなかなかできない。どうしても万人ウケを狙って微妙にダサくなるのが宿命だから。画面上でY字路をつくり出し、左右から人物を歩かせて、社隷人生の岐路を表現したり、緊張感や緊迫感を表すスローカメラの映像を差し込んだり、と随所にハイセンスな映像が見られる。かと思えば、ネジ工場で働く人の指先や、その指の真っ黒な汚れが白い書類にくっきり付くシーンをアップで映し出したり(ホワイトカラーとブルーカラーの如実な格差)。あざといけれど嫌みがない。渋さが上回るのだ。

 渋いのはそれだけじゃない。役者陣である。隠蔽を隠してきた営業部長に石橋凌、万年係長だが不正に一番早く気づいたのが吉田鋼太郎。声量がある、恰幅のよい、芝居にメリハリのある俳優たちがピンと張りつめた空気感を醸し出している。主役の迫力不足を強烈な脇でガッツリ固めていく算段ね。個人的には山崎樹範の“コンプレックス塊感”、甲本雅裕の“下請け業者虐げられ感”、豊原功補の“やさぐれ感”がツボ。適材適所に思わず唸った。

 で、最大の魅力はセリフに込められた「しょっぱい現実」だと思う。まず、サラリーマンなら誰もが感じたことのある「会議への疑問」が皮肉られている。

「会社って不思議ですね。結局、人が信じるのは噂のほうなんですね。朝から晩まで会議、会議って、あれだけわかり合おうとしているのに」
「もっともらしい顔して会議なんかしたって、そこで話すタテマエにいったい何がある?」

 タイトルにあるように、「会議」がこのドラマのカギでもある。無駄な会議、無意味な会議が腐るほどあるのに、組織は「会議という名の儀式」ですべてが決まる。小さな町工場でも会議をするし、会社組織でのすべては会議にかけられ、「会議で決まった」の一声で事が進む。利益追求もコストカットも賞賛も罵声も善も悪も会議次第。日々その矛盾に舌打ちしているサラリーマンは、セリフひとつひとつに共感を覚えるはず。
 
 さらに、組織における人材の軽さも繰り返し表現されている。皮肉だけど、たぶん現実。

「自分のことネジみたいだと思ってました。私でなくてもいくらでも代わりがいる」
「組織は擦り切れた部品のように、たやすく人を取り換える」

 報復人事ともいえる左遷や解雇は、ある意味「人殺し」という表現にも慄いた(会社的に抹殺という意味で)。会社員が抱える不安と恐怖にうまく焦点を絞りこんだドラマだと思う。

 エンタメ性なら『半沢直樹』だが、痛々しいリアリティを堪能するなら『七つの会議』だ。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。