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「カネボウ」ブランドは消えるのか?花王による“遅過ぎた”事業統合の舞台裏

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「カネボウ化粧品 HP」上の「お詫びと自主回収についてのお知らせ」
 花王は子会社・カネボウ化粧品の生産・研究・販売部門を、花王に統合させる方針を打ち出した。カネボウの社員1万3000人の大半は、花王に移ることになる。肌がまだらに白くなる「白斑(はくはん)」問題が明らかになってから4カ月。事業統合に踏み切った。


 化粧品はブランドイメージが重要であり、一度失墜した「カネボウ」ブランドの信用の回復は容易ではないと判断した。「カネボウ」ブランドは当面縮小して残すが、近い将来、ブランドの戦略立案を担うマーケティング会社として名前が残るだけとなる。

 カネボウの小田原研究所(神奈川)は2014年7月、花王の研究所に改組される。花王のソフィーナなどの化粧品部門の研究員も小田原研究所に移り、グループ全体の化粧品の研究開発拠点となる。

 カネボウ美白化粧品での白斑被害者数は、10月20日時点で1万5567人に達した。症状が「完治、またはほぼ回復」していない人は1万2268人。患部が3カ所以上に及ぶなど、比較的症状が重い人が4316人。このうち976人は顔や手など広範囲に白斑が見られるなど特に重症だ。また、9月末時点で相談電話窓口と店頭で問い合わせをした人の数は27万2806人に上った。

 カネボウの化粧品販売やブランドへの影響は深刻だ。同社の夏坂真澄社長は白斑被害を明らかにして以降、「店頭での売り上げは2割ほど落ちた」と説明。買い控えによる営業利益への影響を60億円減と見ていたが、減益幅はさらに拡大するだろう。

 7月30日に発表した花王の13年12月期通期の連結売上高予想1兆3000億円(100億円減)と、営業利益予想1160億円(60億円減)という数字は据え置かれた。しかし、カネボウの美白化粧品問題が響き、連結純利益は従来予想を30億円下回り640億円になる見通し。白斑問題による回収関連費用は113億円に膨らんだ。

 カネボウは7月に対象商品の回収を決めた。回収する個数を当初は45万個と見ていたが、9月末現在で65万個に達した。自主回収に伴う特別損失は85億円。当初より29億円増加する。慰謝料は算定できる段階ではないとして、13年12月決算には含まれていない。

 親会社である花王の日用品事業は好調だが、カネボウの新商品の投入や大掛かりなCMはできそうにない。「カネボウ」ブランドでの化粧品の販売は縮小されるだろう。業界内では、半世紀以上続いた化粧品の名門「カネボウ」は花王に吸収され、消えてしまうだろうとの見方が強い。

●花王の“遠慮”

 花王は06年1月、産業再生機構からカネボウを4100億円で買収したが、当時化粧品業界内では、「企業文化が違いすぎる。水と油の関係。うまく融合するのか」と冷ややかに見られていた。

 花王は1887(明治20)年創業の老舗で、旧社名は花王石鹸。洗剤や石鹸、シャンプー、リンスなどのトイレタリー用品では国内トップ。24年間、経常増益を続けており、研究開発志向が強い堅実な会社と高く評価されてきた。

 一方、カネボウの企業文化は花王とはまったく異質だ。同社の企業体質を如実に表すエピソードが残されている。花王への売却交渉の過程でカネボウ側は「労働組合が反対している」との理由で、一度交渉を打ち切り、産業再生機構の幹部を仰天させた。結局、同機構が伝家の宝刀を抜いてカネボウを解体、化粧品事業を花王に売却した。

 花王が化粧品に進出したのは1980年代。新参組だ。世界の有名ブランドがひしめく化粧品市場で後発の花王は、大方の予想通り苦戦。化粧品事業の業績低迷が続いた。そんな最中に降って湧いたのがカネボウの身売り話だ。経営破綻して産業再生機構の下で再建に取り組んでいるカネボウが化粧品事業を分離して売却すると聞いて、花王は飛びついた。

 一般的に経営統合が行われると、商品ラインアップの整理と強化、経営プラットホームの共通化などにより余分なコストをそぎ落とし、集中と選択で統合の成果を1~2年以内に出すことが目指される。

 しかし、花王はそうしなかった。花王は高収益を誇る優良企業だが、化粧品事業はBクラス。カネボウ化粧品のブランド力のほうがはるかに格上だった。花王は「事業は統合してもカネボウのブランドは残す」と表明した。カネボウを立てながら花王ブランドも強化する戦略を立てた。統合なしでシナジー効果を狙う方法をとった。

 買収して7年たつにもかかわらず、花王は最近まで公式の場でカネボウに「グループ入りしてもらった」という言い方をしてきた。花王の化粧品部門トップだった夏坂真澄氏をカネボウの社長に送り込んだのは、12年になってからだ。それまでカネボウには花王のガバナンスは利かなかった。花王は、これまで腫れ物を扱うようにカネボウを経営してきた。今回の事件は、いまだに一体化にはほど遠いところで起きた。重い腰を上げて、花王はカネボウの統合にやっと踏み切ったのである。

●試される花王の本気度

 1990年代初頭には若者の間で日焼けブームがあったが、化粧品メーカーが紫外線のもたらす肌への悪影響を喧伝したこともあり美白ブームが到来した。美白商品は低迷する国内化粧品市場の中で数少ない有望分野である。価格は1万円以上を超す商品が多く、高い収益が見込める。美白化粧品の市場規模は2000億円と大きくはないが、アジアで美白人気が高まり、市場の拡大が期待されている。

 それだけに競争は激しい。資生堂がトップを走り、カネボウ、花王、ポーラ、コーセーなどの国内大手が競う。富士フイルム、サンスター、ロート製薬などの異業種や海外勢も参入。そんな「美白ブーム」の落とし穴が、今回のカネボウ白斑被害だった。

 この事件を受け、花王は一気にカネボウと部門統合する方針を打ち出したが、販売会社やカネボウの中国工場をどうするかなど、未定の部分が多い。とりあえず花王はマーケティング会社として「カネボウ」の名前を残すことにしたが、「カネボウ」を完全に捨て去る決断が、早期にできるか? 花王の本気度が試されている。
(文=編集部)