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異例ずくめ!雪国まいたけ、米ファンド完全支配劇の真相 なぜ銀行はアウトすれすれの行動

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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異例ずくめ!雪国まいたけ、米ファンド完全支配劇の真相 なぜ銀行はアウトすれすれの行動の画像1雪国まいたけ「乾燥まいたけ」
 米大手投資ファンド、ベインキャピタルによる、雪国まいたけのTOB(株式公開買い付け)が4月6日に終了した。これでベインは議決権総数の78%を握る断トツの筆頭株主になる。ベインはこれから臨時株主総会を開催し、今回TOBに応募しなかった株主から、その保有株式を強制的に買い取るための決議をとる。それが済めば雪国まいたけ株式は整理ポストに移され、1カ月後に上場廃止になる。上場廃止から間もなく強制買い取り手続きも完了し、ベインによる100%支配が実現する。

 会社法の規定では、発行済み株式総数の3分の2以上を取得した大株主は、残る3分の2未満の株式を保有する株主(=少数株主)から、本人の意思とはまったく無関係に保有株式を強制的に買い取ることができてしまう。そのためには、株主総会で特別決議をとる必要があり、必要な議決権割合は3分の2以上。よって、単独で発行済みは3分の2を獲得すれば、その株主単独で他株主から保有株を奪い取る議案を通せてしまうのだ。今回ベインは3分の2を上回る78%の議決権を確保したので、同ファンドによる完全支配はもはや既定路線だ。

 買収者がTOBで3分の2以上の議決権を確保し、少数株主を追い出して上場を廃止する手法をスクイーズ・アウトという。今回はファンドが買収者だが、ファンドへの出資者の中に一人でも買収される会社の役員がいると、MBO(マネジメント・バイアウト:経営陣による買収)になる。

 日本でスクイーズ・アウトが名実共に解禁になったのは2007年だが、解禁前の05年頃から、既存の法律の枠組みを使いながら苦肉の策でスクイーズ・アウトは実施されてきた。この10年間で実施事例は280社を超える。その意味ではもはやスクイーズ・アウトで上場会社が上場廃止になること自体は珍しくない話だが、今回の雪国まいたけのケースは、金融機関や法律家、証券関係者などプロの注目を集めている。

 プロの注目ポイントは2点。一つ目は雪国まいたけの取引銀行のアクションがかなり大胆だったこと。二つ目は、この類いのTOBとしては応募率が記録的に低かったことだ。雪国まいたけにはもともと大平(おおだいら)喜信氏という創業オーナーがいる。今回のTOBにおけるキーマンでもあり、今回は大平氏への取材に基づき、プロの注目ポイントの謎解きを試みる。

銀行の担保実行はインサイダーか

 まずは一つ目の取引銀行の件だ。雪国まいたけは13年秋に、不適切な会計処理があったとして過年度の決算修正を行っている。その際に大平氏本人も取締役を退いているが、筆頭株主であることに違いはなく、このTOBが始まる直前までは資産管理会社である大平商事名義も含め、総議決権の58%を握る筆頭株主だった。

 しかし、大平商事や大平氏個人の借入金約38億円の担保として、保有株の大半(議決権総数の51%)を第四銀行など6つの銀行に提供しており、しかも14年初めから返済が滞っていた。このため、6行はTOB開始直前に担保権を実行して所有権を得て、そのままベインのTOBに応募してしまった。この行為がインサイダーに当たるのではないか、いや、曲がりなりにも銀行がインサイダーに該当するようなことをやるわけがない、といった具合に、密かに話題になったのだ。

 結論からいえばインサイダーではないものの、かなり手荒い。ベインはTOB公表前に大平氏から担保として株券を預かっている銀行に対し、「担保権を実行してTOBに応募してくれ」と依頼し、銀行側も了承。担保権を実行するまでは株券は銀行のものではないので、応募予約契約を結んだ。

 TOBの際、買収者が事前に大株主に応募を依頼して応募契約を結ぶというのはよくあることで違法ではない。だが、このケースでは、ベインが銀行に応募を依頼した時点ではまだ銀行は担保権を実行していないので、大平氏から株を取得していないことになる。金融商品取引法167条1項は、非公開のTOB情報を得て株を買う行為を禁じている。それによりのちに利益を得なくても、売却しようが保有し続けようが買った時点でアウトなので、担保権実行で株券を取得する場合もアウトなのではないかという疑問が湧く。

 実際にこれはアウトなのだが、「除外規定というものが同じ167条の5項に定められており、買収者に依頼されて株を買う応援買いはインサイダーには当たらないと書かれている。つまり、買収者に依頼されてTOBに応募するためにTOB実施公表前に市場で株を買い、応募することはセーフ。今回の6行による担保権実行も応援買いの一種という解釈になる」(インサイダー取引規制に詳しい弁護士)。「買収者に依頼されている」ことがポイントで、勝手に応援買いして応募すればアウトだ。

同業者も驚く、銀行の大胆な行動

 大平氏は6行からの担保権実行について事前に何も知らされておらず、TOB公表当日の朝、6行中5行は早朝に大平氏の自宅郵便受けに実行通知を投函(消印がないので郵便は使っていない)し、第四銀行は「朝8時に自宅に行員が届けに来た」という。無論、不意打ちの担保権実行が法に触れるわけではないし、借りたお金を返せないほうが悪いといえばそれまでである。

 しかし、大平商事が借りている37億円の大半は、雪国まいたけがまだ上場する前の時代に、雪国まいたけに出資するために借りた元本とその金利分。つまり、借りたお金は雪国まいたけの事業に使われている。また、「ずいぶん前に第四銀行の融資先が倒産し、担保にとっていた不動産を買ってくれと頼まれ、雪国まいたけで買うわけにはいかなかったので大平商事で買うことにし、その時に借りた分も含まれている」(大平氏)という。

 しかも、TOB公表前の雪国まいたけの株価は200円前後だったので、同社株の担保価値と滞っていた借金はほぼ同額。担保割れは起こしていなかった。

「社長在任中の12年3月期、13年3月期に、ブナシメジの自社菌開発に失敗し、2期連続で多額の赤字を出したため、自己資本がかなり減ってしまった(注:11年3月期末時点で14.9%だった自己資本比率が13年3月期末時点で2.2%に低下)。そのタイミングで、数年前に外部から招いた役員の陰謀で会社を追われてしまった。会社が無配にもなったので借金の返済が滞るようになったため、私が保有しているを売って返済することを考えたが、会社を辞めて1年たたないとインサイダー取引規制違反を問われるので売れない。晴れて保有株を売れる立場になった昨年11月以降、何度もスポンサー候補を銀行に紹介したが、担保解除に応じてくれなかった」(大平氏)

 実は、大平氏が交渉したスポンサー候補の中にベインも入っており、その際にも今回同様、ベインが100%支配するスクイーズ・アウトの案が提案された。だが、「上場廃止後にあらためて私も3分の1程度出資したいと言ったら、それはダメだということで折り合わなかった」(同)。ゆえに大平氏が銀行にベインをスポンサーとして紹介することもなかったが、その後ベインは独自に銀行にアプローチしたのだろう。

 以上の経過は、「銀行の、それも地銀の平均的な行動様式からするとかなり思い切った行動」(関東圏の地銀OB)だという。

「銀行としては、大平氏がTOBに応募する方向で話をつけてほしいという要望をベインに出すのが通常です。その上で会社側、つまり雪国まいたけの経営陣も賛同した上でのTOB実施なら、銀行は諸手を挙げて賛成する。だが、大平氏に黙って、しかも担保権実行という荒っぽいアクションを自ら起こすという貧乏くじを引いたとなると、良くも悪くもコトを荒立てることを嫌う銀行の行動としては、かなり違和感がある」(同)

銀行の背中を押したものは

 一体何が銀行の背中を押したのか。「実は会社の資金繰りが苦しく、ベインによるTOBが失敗すると民事再生手続きの申し立てをせざるを得ない」と会社側が銀行に説明したのだとすれば、銀行の判断は合理的に見える。だが、それならベインは何もせず事態を静観していたほうが、雪国まいたけの株を安く買えるので得策といえる。

 大平氏は「臨時株主総会を阻止したい経営陣の思惑と、第四銀行の思惑が一致した」とみている。大平氏は過去一貫して、「10年に公募で招いた大手自動車メーカー出身のA氏が、2期連続赤字に乗じて自分を追い落として社長になるために企てた陰謀が、13年の不正会計問題だ」と主張してきた。

 A氏は取引銀行各行や東京証券取引所、SESC(証券取引等監視委員会)、監査法人やメディアなどに告発文を送付している。メインバンクの第四銀行はA氏の言い分を鵜呑みにし、大平氏から一度も事情聴取をしていない。大平氏はSESCの立ち入り調査を受けた上に、株価操縦疑惑までかけられた。

 結局、修正の対象となった原因は、新工場建設用に取得しながら、後に計画が変更になった土地に関する費用処理の方法や、固定資産減損のタイミング、単年度処理すべきだった広告宣伝費を複数期間で分割処理した問題などで、大平氏が会社資産を私的に流用したということではない。利益の修正額も、修正対象となった5期間全体で1億3600万円にとどまった。

 だが、社長を辞めないと上場維持ができない状況に陥り、やむなく経営から退いた。ところが後任の経営陣が品質維持には不可欠の農薬検査の頻度を下げたり、一部の役員が法外な額の役員報酬を要求したり、法人クレジットカードで私的遊興費を賄ったりということが大平氏の耳に入ってきたので、会社側へ試算表を見せろと言っても見せない。そこで、取締役の入れ替えのための臨時株主総会開催をもくろんだが、現経営陣を支持している銀行はこうした会社の実態を知らないため、臨時株主総会を阻止したいと考えたのだろう。以上が大平氏の主張と分析だ。

 大平氏はSESCから株価操縦疑惑までかけられた人物であるだけに、同氏に対する金融庁や東証の評価は推して知るべしだ。

 大平氏に言い分はあるにせよ、雪国まいたけは社外調査委員会から創業オーナーの影響力が強すぎることが問題視された企業である。経営を退いても大株主であり続ける限り、影響力の根本的な排除は難しいので、株を売却させるところまでやって初めて、コーポレートガバナンスの正常化という観点で合格点をもらえるのは間違いない。大平氏が役員の入れ替えを求めて臨時株主総会開催をもくろめば、銀行やその後ろに控える当局が、大平氏が復権を狙っていると考えて警戒感を強めるのは、ごく自然だろう。

実は際どかったベインの3分の2獲得

 そしてもう一つの注目ポイントは、78%という記録的な低水準の応募率だ。280以上もある過去のスクイーズ・アウトの事例のうち、9割以上の応募を確保できなかった事例はそのうちの2割もない。まして8割以下となると、その事例は十数件しかない。

 一般に応募率が低くなる要因としては、会社側が賛同しない(つまり敵対的買収)、TOB価格が低すぎる、会社側は賛同しているが大株主の一部が賛同していない、などが挙げられる。昨年5月にTOBが実施されたローランドのケースでは、経営陣が賛同する一方で同社創業者・梯郁太郎氏が反対したため、応募率は82.92%にとどまっている。今回も担保権実行という強硬手段を行使された大平氏から、なんらかのかたちで巻き返しがあるのではないかという期待が、TOB開始当初には存在していたのは事実だ。

 ベインが銀行による担保権実行を前提にTOBを実施すると公表したのは、2月23日の取引が始まる前の午前7時。この時点でTOB価格は245円だと公表しているにもかかわらず、この発表を受け、取引が始まると、株価は245円を超えて一気に287円まで上昇した。

 会社法は大株主が少数株主から保有株を強制取得することを認める一方、少数株主には強制取得される単価に不満があれば、裁判所にその価格を決めてもらえる「買い取り価格決定の申し立て」をする権利を認めている。本来、できるだけ多くの株式を買い付けるため、買い付け株数に上限を設けないスクイーズ・アウト目的のTOBの場合、実施公表後、市場価格はTOB価格に張り付く。応募者全員がその値段で買ってもらえることが確定しているからだ。にもかかわらずTOB価格を超える株価がつくということは、この買い取り価格決定の申し立てで、TOB価格以上の価格決定が出ると考える投資家が相当数いるということを意味する。

 加えて、TOB開始から約1カ月後の3月20日、ハワイ籍のファンド・プロスペクトが大量保有報告書を提出し、9.67%を取得したことを明らかにした。TOB終了後の買い取り価格決定の申し立て狙いの投資家の買いに加え、プロスペクトが10%近くを押さえたことが、応募率が8割にも満たなかった原因だろう。

 TOB期間中の3月半ばあたりから大平氏はメディアのインタビューに応え始め、ギブアップ宣言を出している。これでTOB終了後に大平氏が対抗手段を取る可能性が消えたことが世間に知れ渡った。実際、辛うじて手元に残った6%程度の株式も、結局TOBに応募してしまった。大平氏の闘争に相乗りをもくろんでいた投資家としてはアテが外れたわけだから、TOBへの応募に切り替える人もいただろう。大平氏が応募せず、なおかつTOB期間中にギブアップ宣言を出すこともなかったら、ベインが3分の2を確保できたかどうかは疑問だ。

第二幕はあり得るのか

 TOBでの買い付け価格が市場価格より約2割高い245円だったので、銀行が担保権実行で得た金額は、大平氏の借入金の元本、利息、それに遅延損害金まですべて回収しても、まだ8億円くらい余剰が出るという。当然、その余剰分は大平氏の元へ戻ってくる。

「これで大平商事の分も含め、私個人の借金はすべて完済できたので、大平商事所有の不動産につけられている担保もすべて解除される。ここにいくら課税されるか正確にはわからないが、ある程度の額は手元に残る」

 もともと持ち株をファンドに売却しようと考えた昨年秋の時点で、「もう雪国まいたけに未練はなく、海外展開の仕事に専念したいと考えていた」という。にもかかわらず取締役の入れ替えをもくろんだのは、「後に残る社員が気の毒。辞めたから知らん顔では無責任だと思った」からだという。大平氏の関心は、海外でまいたけ栽培を試みる農業家の支援へすでに移っている。

 ちなみにプロスペクトの株取得の目的について、代表のカーティス・フリーズ氏は「買い取り価格決定の申し立てが目的なのではなく、ベインと共に出資をしたいと考えており、TOB終了後にベインとの交渉を開始したい」としている。大平氏は戦線を離脱してしまったが、プロスペクトを軸にした第二幕はあり得る。それもまた金融業界関係者の関心を呼んでいるのである。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

伊藤歩/金融ジャーナリスト

伊藤歩/金融ジャーナリスト

ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計。主な著書は『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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