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吉野家、1720円「鰻重」は厳しい戦いと予想の理由 160円「つゆだけ丼」に商機?

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吉野家の店舗(「Wikipedia」より/Corpse Reviver)
 大手牛丼チェーン吉野家は、夏の定番商品「鰻(うな)丼」を今夏は「鰻重」にリニューアルし、6月1日から販売すると発表した。「鰻の枚数を増やしてほしい」というファンの声に応え、3枚をのせた「三枚盛」を新たに投入。三枚盛は単品で1650円、みそ汁と漬物を付けたセットで1720円と、吉野家の歴代商品で最も高い価格に設定する。

 東京は5月に真夏日が何日もあるなど暑い日が続き、これから本格的な夏を迎える。そんな中、スタミナ補充にぴったりなのが鰻だ。そこで、吉野家が攻めの姿勢を見せた。では、この鰻重はヒット商品になるだろうか。

 結論からいえば、筆者は厳しいと考える。吉野家が1720円の鰻重を出しても、顧客が吉野家に求める提供価値から外れており、ヒット商品にはならないと思われるからだ。

 では、顧客が吉野家に求めている提供価値とは何か。それは「うまい、やすい、はやい」だ。鰻重は吉野家の提供価値である「やすい」から外れている。だから鰻重は、吉野家の顧客が求めているものではない。

 1720円を支払う際には、千円札2枚を渡すことが多いだろうが、2000円前後の価格帯でライバルと比較すると、東京・麻布「野田岩」では鰻丼を2200円、鰻重を2900円から食べることができる。浅草「初小川」では鰻重(中)がやはり2900円。ちなみに(小)だと1365円だ。銀座「竹葉亭」では鰻お丼(A)が2400円だ。いずれも吉野家の鰻重より高い。

 吉野家の鰻重は三枚盛なので量は多いが、それでも苦しい戦いを強いられると考える。なぜなら、消費者は鰻の「量」の対価として千円札を2~3枚を支払っているわけではないからだ。

顧客は料理以外の部分にも対価を支払っている


 料亭の建物の雰囲気、テーブルや椅子から感じる歴史、接客の落ち着き、そして料理。それらをひっくるめて、消費者は対価を支払っているのである。野田岩の創業は江戸初期、寛永12年。店の引き戸を開けると、和服姿の女将さんが迎えてくれる。仲居さんも和服姿だ。初小川の店内には数多の千社札がみられ、その歴史を垣間見ることができる。竹葉亭は銀座のど真ん中に位置しながら、和風の中庭を眺めると喧騒からかけ離れ、落ち着いた気分になれる。

 これらの提供価値に対しても、顧客は千円札を支払っているのである。もちろん、上記の価格は各店の最低価格であり、ちゃんと料理を楽しもうと思えば、その数倍の価格となる。

 一方、吉野家の既存店で同レベルの金額を支払っても、着物姿の女将さんや仲居さんがいるわけではない。落ち着いた和風の中庭があるわけではなく、隣の席では牛丼つゆだくを注文した人が牛丼をかきこんでいる。座敷でふかふかの座布団に座るわけではなく、いつものカウンターで食べることになる。鰻の量が三枚盛であること以外で、ライバルと比較したときに優位性がない。