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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

アベノミクス、潜在成長率低下という「不都合な真実」 政府前提GDPを大きく下回る

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図表:潜在成長率の推移(内閣府<2014>「潜在成長率について」及び内閣府「今週の指標」等から筆者作成)
 小さい記事だが先般(8月31日)、以下の報道があった。


「内閣府は31日、日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示す『需給ギャップ』が2015年4~6月期はマイナス1.7%だったとの試算値を公表した。年換算すると名目ベースで9兆円程度の需要不足となる。減少幅は1~3月期(マイナス1.2%)から拡大し、マイナスは5四半期連続。試算は8月17日発表の15年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値を反映した。実質成長率の伸びが前期比年率でマイナス1.6%と、潜在成長率(0.5%増)を下回り、ギャップが広がった。需給ギャップは実際のGDPと、民間の設備や労働力を平均的に使って生み出せる潜在GDPとの差を示し、需要が供給を下回るとマイナスになる」(8月31日付日本経済新聞記事『需給ギャップ、4~6月期はマイナス1.7%に拡大 内閣府試算』より)

 この記事は、8月31日に内閣府が「今週の指標 No.1126」において、潜在成長率等の試算値を公表したことを受けたものである。記事では、需給ギャップ(=実際のGDP-潜在GDP)の値をクローズアップしているが、潜在成長率の値も重要である。

 というのは、マクロ経済に関心をもつ者以外はあまり知らないと思われるが、冒頭の図表は、内閣府が推計した潜在成長率の推移である。この図表をみると、1980年代の潜在成長率は4.4%、90年代は1.6%であったが、13年以降も潜在成長率は緩やかに低下し、15年1-3月期では0.6%と推計されていたが、15年4-6月期は0.5%に下方改定されたのである。

 他方、内閣府が7月22日、経済財政諮問会議において示した「中長期の経済財政に関する試算」では、2つのケースを提示している。ひとつは、楽観的な高成長を前提とする「経済再生ケース」で、実質GDP成長率を2%程度に設定している。もう一つは、慎重な成長率を前提とする「ベースラインケース」で、実質GDP成長率を1%程度に設定するものである。前者は論外としても、内閣府は図表の通り、直近の潜在成長率(0.5%)は後者(1%程度)の半分しかないと試算しているのである。

 しかも図表からは、アベノミクス始動後も成長率のトレンドである「潜在成長率」は低下傾向にあることが読み取れる。これは、財政再建よりも経済成長を優先してきたアベノミクスにとって「不都合な現実」ともいえる。政府・与党は現在、「骨太方針2015」や「中長期試算」に従い、18年度の基礎的財政収支の赤字幅を対GDPで1%程度まで縮小、20年度までに黒字化することを目指しているが、トレンド成長率の低下傾向も前提に財政・社会保障改革を進める必要があろう。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)