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SMAはなぜ錦鯉M-1優勝を生んだか…ツッコミ渡辺隆の頭脳、バイきんぐ小峠の愛の助言

文=藤原三星
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「こ~んにちは~!」というつかみの挨拶でおなじみ、中年コンビ・錦鯉が優勝を飾った『M-1グランプリ2021』(テレビ朝日系)。自称“第7世代の親世代”である中年コンビの活躍に涙した人も多かったのでは。(画像は同番組公式サイトより)

 昨年12月19日にテレビ朝日系で放送された『M-1グランプリ 2021』において、過去最多6017組の頂点に立ち、第17代目王者に輝いたお笑いコンビの錦鯉。50歳の長谷川まさのり(1971年生まれ)と43歳の渡辺隆(1978年生まれ)という“おじさんコンビ”が優勝をかっさらったとあって、今回のM-1は過去にはないほどの感動を呼んだ。

 ふたりの優勝が決まった瞬間、審査員を務めたサンドウィッチマンの富澤たけしやナイツの塙宣之が流した涙に象徴されているように、長い下積み生活を経験しながら決して夢を諦めなかった“中年の星”による人生逆転劇は、日本全土に感動の嵐を巻き起こしたといっても過言ではないだろう。

 多くのお笑い番組を担当するある放送作家は、次のように語る。

「錦鯉は前回のM-1に彗星のごとく現れ、結果的には4位でしたが、その後は多くの地上波バラエティ番組を一巡するほどのプチブレイクを果たしてはいました。しかし、どうしてもM-1で優勝したかったというふたりは今回、さらにネタに磨きをかけ、見事優勝。この1年間テレビに出演し続けてハードルが非常に上がった状態で決勝まで残るというのは、無名だった昨年よりも難しかったはず。しかし彼らはそんななか王者の座を勝ち取ったわけで、すごいと思いますね。

 現在ではレギュラー冠番組も決まり、急きょ放送決定したという『情熱大陸』(TBS系)も好評でした。50歳での大ブレイクを果たしたボケの長谷川さんは同業者からも愛される存在。全力でバカをやり、ずっと貧乏暮らしで歯が8本もないという彼を、まわりの芸人たちは温かく応援している印象ですね。いま売れている芸人からすれば、『自分がもしかして売れていなかったら、こうなっていたのかも……』という存在に見えるのでしょう。だからこそ富澤さんや塙さんは、涙ながらに錦鯉に投票したのではないでしょうか」

“芸人の墓場”どころか“ダメ芸人再生工場”として注目されるソニー・ミュージックアーティスツ

 そんな錦鯉の優勝には、同じSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)に所属するバイきんぐ・小峠英二やハリウッドザコシショウの存在もあったという。

「ハリウッドザコシショウは、『まさのりはバカなんだから、とにかくバカを押し出せ』とアドバイスし、それが長谷川さんのおバカキャラを生んだ……という逸話は知られた話。今回のM-1でも、12月2日に開催された準決勝の前にバイきんぐのふたりとザコシさんが錦鯉のネタをチェックし、対策を考えたとか。最終決戦で披露したネタのオチについて、『ライフ・イズ・ビューティフルと言ったほうが面白い』とアドバイスしたのは小峠さんだったそうで、この助言がまさに優勝の決め手になるほどの爆笑を得たわけで、さすが小峠さんというところ。

 彼らが所属するSMAは入所のハードルが極めて低く、基本的には誰でも所属できることから、“芸人の墓場”などと面白おかしく揶揄されてきましたが、そんなSMAがついにM-1王者を輩出した。芸人の墓場というより、“ダメ芸人再生工場”ですよ。いま、他事務所で仕事がなくて苦しんでいるような芸人たちは、みんな移籍したがっていますね。

 でもそもそもM-1は、あの島田紳助さんが『芸歴10年で結果が出なかったら、芸人をやめて次の人生を歩んだほうがいい』という考えのもとに創設したという賞レースです(現在は結成15年まで出場可能)。それが今回の錦鯉の優勝で、『コンビを組み直して50歳で優勝した者だっている』という事実に勇気づけられ、むしろ夢を諦められない芸人が続出する可能性も(笑)。今回の錦鯉の優勝は、今後多くのダメ芸人を生んでしまうかもしれません」(前出の放送作家)

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優勝直前の2021年11月17日には自叙伝『くすぶり中年の逆襲』(新潮社)を上梓した錦鯉。テレビ出演に多忙な中、執筆してネタも磨いて…どうかご自愛ください! (画像は同書表紙より)
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『M-1グランプリ2021』(ABCテレビ・テレビ朝日系)優勝直後の記者会見の様子。優勝の瞬間、渡辺に抱きつかれたことなどを語る長谷川。(画像は同番組公式サイトより)

実は“頭脳派”の43歳・渡辺隆、バイきんぐやハリウッドザコシショウのブレーンも

 ボケの長谷川のほうにばかり注目が集まりがちだが、ツッコミの渡辺こそが錦鯉の頭脳。「渡辺さんの非凡な才能が、錦鯉を化けさせた」と語るのは、バラエティ番組を担当するあるキー局のプロデューサーだ。

「ワードを徹底的にそぎ落とし、無駄を省いたツッコミがとにかくすごい。声を張るわけでもなく、シニカルかつわかりやすくツッコむというスタイルは、錦鯉のネタに間口の広さを与えています。バイきんぐやハリウッドザコシショウのライブのブレーンをやったり、事務所の後輩であるアキラ100%の芸名を考案したりしたのも彼。渡辺さんの作家としての才能を買っている同業者も多く、錦鯉どころかSMAの頭脳として、今後も重宝されるのではないかと思いますね。

 すでにキャラが確立した感のある長谷川さんにはバラエティ番組のオファーが殺到していますが、今後、渡辺さんがバラエティの“平場”でのトークでブレイクすれば、錦鯉がもうひとつ上のステージに行くことも可能でしょう。とはいえ錦鯉は今年から漫才協会に加入し、東洋館(「浅草フランス座」として知られる演芸場)で定期的にネタをやっていますから、彼らはあくまでも、漫才師として突き進んでいくつもりなのでしょうね。50歳と43歳から始まるスター街道ですから、ワクワクさせられますよね(笑)」

 知る人ぞ知る“愛され中年芸人”のまま散りゆくことなく、確かな実力でM-1王者の座を勝ち取った錦鯉。夢を諦めなかったふたりの努力が報われた……。こんな劇的なストーリー以上に“ライフ・イズ・ビューティフル”なことはないだろう。

(文=藤原三星)

藤原三星

藤原三星

ドラマ評論家・コメンテーター・脚本家・コピーライターなど、エンタメ業界に潜伏すること15年。独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を中心に量産中。

Twitter:@samsungfujiwara

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