総事業費約700億円、ジャングリア沖縄の全貌…なぜ国内外居住者で二重価格

沖縄北部の大型テーマパーク『JUNGLIA OKINAWA(ジャングリア沖縄)』が7月25日にオープンする。運営会社のジャパンエンターテイメント(沖縄県名護市)による記者会見(1月・都内)には石破茂首相も参加し交通の円滑化などのバックアップを約束し、エールを送った。沖縄県今帰仁村に作られるジャングリア沖縄のコンセプトは「Power Vacance!!(パワーバカンス)」。旅行ならではの興奮と特別な贅沢感、沖縄ならではの解放感を凝縮したコンセプトだ。
総事業費約700億円、パーク総面積約60ha(ヘクタール、敷地総面積は約120ha、東京ドーム約26個分)。アトラクション数は22、飲食施設15、物販施設10となっている(1月28日時点)。22のアトラクションのなかでも、最大の目玉となりそうなのが、最先端のアニマトロニクス技術を使ってリアリティとスリルを追求した「ダイナソー サファリ」。 12人乗りの大型オフロード車が、20頭もの恐竜がいる生息地へ向かう。ブラキオサウルスやステゴサウルス、トリケラトプスといった恐竜に接近し、ジャングルの奥深くへ進む体験ができるものだ。
早速、メディアにとっては仕掛け人、ジャパンエンターテイメントの筆頭株主である刀の代表取締役CEOであるマーケター・森岡毅氏への注目が集まっている。森岡氏は数学理論に基づいた正確な需要予測を強みに、ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)、ハウステンボスなどをV字回復に導いており、今回のジャングリア沖縄の企画開発を担当している。森岡氏のUSJ時代である2010年の着想から約15年にわたって進められてきたプロジェクトであり、
「沖縄は片道4時間以内にアジアの主要都市の多くが含まれ、商圏は20億人に及び、アジアの観光客、富裕層を取り込んでいく戦略をとる」
「オリエンタルランドさんの経営規模に匹敵するパークを作ることも計算上は可能である」
「アジア最大の美ら海水族館と並んで沖縄北部の大きな目的地になるためには、沖縄最大の売上規模で貢献できる施設に早くなりたい」
「経済のマルチプライヤー(相乗効果を生み出す役割)、変化の起点になる、地域経済を発展させるための需要を作るというのが私の使命」
などとメディアに語っている(「ディズニーを超えられるか?森岡毅の“ジャングリア戦略”【豊島晋作のテレ東経済ニュースアカデミー】」)
国内外居住者で二重価格を設定
なかでも、国内外居住者で二重価格を設定することが話題になっている。1Dayチケットは、国内在住者の大人料金が6930円、子供料金が4950円、一般料金の大人料金は8800円、子供料金が5940円。スパチケットは、国内在住者の大人料金が2640円、子供料金が1540円、一般料金の大人料金は3080円、子供料金が1870円だ。
国内在住者向けの料金と一般料金という2つの価格を設定することについて
「体験価値の評価は、主観的な判断ではなく、徹底的な市場調査に基づいて決定すべきだと考えました」
「各国の価格に対する感応度を調査した結果、同じコンセプトでも受け止め方は大きく異なることが判明した」
「まずグローバルでの展開を見据えた標準価格を決め、そのうえで国内市場の購買力も分析し、それぞれの地域特性に合わせた価格設定が最適な選択だという結論に至った」
とジャパンエンターテイメントの加藤健史代表取締役CEOはメディアに説明している(「“USJ流”は通用しないし、やらない――ジャングリア沖縄、運営会社の挑戦」)。
今回は広報部に価格戦略について話をきいた。
「二重価格制については海外での観光施設では見られることですが、さまざまな議論を呼ぶ可能性は認識していました。市場調査、需要予測を行ったうえで、弊社が提供する体験価値に基づいて価格設定を試みました。世界的に見ると、たとえば、米国カリフォルニアのディズニーランドは、為替変動もありますが1万9000円前後。香港ディズニーランドは1万6000円前後であります。国内的には、多くの方が思っている価格よりも高い価格設定かもしれませんが、記者会見後、国際的にはリゾートとしては割安という声をいただくこともあります。我々も海外のお客様に満足いただけるように、言語対応プラスアルファで、体験価値をしっかり作りこんでいきます。国内在住者に対しては日本、沖縄の持つ観光の価値、ジャングリアの体験価値を認知していただく。積極的に体験し、発信もしていただきたいという考えもあってより利用しやすい、体験しやすい価格に設定させていただきました」
第3フェーズとしての海外展開を視野に
たしかに、USJの1日券(入場とアトラクション(一部有料アトラクションを除く)が利用できる)である1デイ・スタジオ・パス(大人)は8600~10900円であり、一方で、ディズニーリゾートの1デーパスポート(入園日とパークが指定されたチケット)は大人7900~10900円となっている。
「もともとゴルフ場だったところをテーマパークに生まれ変わらせる跡地の活用はジャングリア沖縄だけではなく、海外へ展開できるビジネスのチャンスを視野に入れています。まずは今回のパークを成功させる(第1フェーズ)、ゴルフ場跡地全体の敷地面積は120haで、今回はそのうちの60haを活用しており、次は残りの半分を活用する(第2フェーズ)。第3フェーズとしての海外展開を視野に入れている。そこからも逆算して価格設定をしています。体験価値に応じての価格設定です。今後投資をどんどんしていきます。現在活用する60haの土地にもフューチャーエリアといわれる新しく建設できるエリアを設けています。残りの60haもパーク自体を活用するという案もあり、体験価値に応じて価格が変動する可能性はあります」(同)
USJやディズニーリゾートが導入している価格変動制(ダイナミックプライシング)や年間パスポートについての設定はどうか。
「いわゆるダイナミックプライシングについては、現時点では検討はしていません。私たちのテーマパークは都市型のテーマパークではなく、沖縄旅行という文脈で来ていただくテーマパークであることから、共通の価格設定のほうが消費者・ゲストの方にとってもよいのではないかと考えるためです。また、沖縄に来られる方の頻度を調べると沖縄旅行はだいたい3年周期。このため、年間パスはいまのところご用意する予定はありません。ただし、USJのエクスプレス・パスのような体験価値をスムーズに進めるような特別なチケットの販売は検討しています」(同)
年間300~400万人の来場者があるアジアトップクラスの沖縄美ら海水族館(入場料2180円)は車で15分ほどしか離れておらず、今後は相乗効果が期待できる。美ら海水族館とジャングリア沖縄を満喫し北部に一泊することで、沖縄全体の滞在日数や消費単価を上げていく試みにより、沖縄北部は美ら海水族館に行くだけの「素通り観光」を払拭できるか――。価格体系だけではなく、全国の観光関係者も注目のプロジェクトなのである。
(文=松井克明/ジャーナリスト)