提供:サントリーHD

●この記事のポイント
・サントリーHDは、グリーン水素の製造から輸送・販売までを手掛ける事業を2027年に開始
・県内の再エネ電力と、『天然水の森』で涵養した地下水から、『サントリーグリーン水素』として製造
・グリーン水素の地産地消モデルを構築することにビジネスチャンス

 大手飲料メーカー・サントリーホールディングス(HD)は、グリーン水素の製造から輸送・販売までを一気通貫で手掛ける事業を2027年に開始する。全工程を手掛けるのは国内企業としては初となる見通し。グリーン水素とは、再生可能エネルギー由来の電力による水の電気分解でつくる水素で、製造工程において二酸化炭素(CO2)を排出しないため、脱炭素につながる。サントリーHDは現在、政府のグリーンイノベーション基金事業として、山梨県の自社工場・蒸溜所に隣接する土地で民間企業10社によるグリーン水素製造設備「やまなしモデルP2Gシステム」を建設中であり、ここでグリーン水素を製造する。グリーン水素は、25年秋から工場の燃料や熱殺菌用の蒸気製造に利用する予定。加えて、外部事業者への輸送・販売も行う予定だという。なぜ飲料メーカーであるサントリーHDは、まだ市場が拡大しているとはいえないグリーン水素に注力するのか。また、どのようなロードマップを描いているのか。同社に取材した。

山梨県には水素の“材料”が豊富に揃っている

 企業にとって脱炭素への取り組みはまったなしの状況だ。東証プライム上場企業は2027年3月期から、有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示する必要があり、GHG(温室効果ガス)排出量の開示などが求められる。そうしたなか、サントリーHDが、グリーン水素事業に注力する理由は何か。同社は次のように説明する。

「コーポレートメッセージ『水と生きる SUNTORY』を掲げるサントリーグループとして、『水から生まれ、水に還る』水素の製造から物流・販売までバリューチェーン全体を担います。グリーン水素ならではの価値の創造と訴求によって、世の中への普及を図り、水素社会の実現に向けて貢献したいと考えました。当社としてP2G(Power to Gas、余剰電力を気体燃料に変換して利用・貯蔵する手法)のプロジェクトに関わる中で、得られた水素事業のノウハウや、P2Gの施設自体の活用を考えるようになりました。

 当社での水素の利用想定量に対しP2Gは水素製造の余力があり、加えて山梨県には水素の“材料”(未利用の再エネと水資源)が豊富に揃っています。また、水素は沿岸部に供給拠点が多く、内陸部にはないという点において今回のP2Gのモデルは独自性があり、国の水素基本戦略はじめ、2050年に向けて水素への需要が確実に高まることが想定される中、グリーン水素の地産地消モデルを構築することにビジネスチャンスがあると考えました。加えて、山梨県の隣、大規模消費地である東京都も水素活用に積極的であり、補助金をもとに外販していく構想です」

高効率で水素を生成できる「PEM型」を採用

 グリーン水素の製造は、具体的にどのような技術によって実現するのか。

「一般的には、再生可能エネルギーを活用して水を電気分解することで製造されます(再エネ由来で新たな化石燃料を使わないため、製造工程でもCO2が発生しない)。今回、山梨県はじめ技術開発参画企業10社で取り組むP2Gシステムにおいては、主に県内の再エネ電力と、『天然水の森』で涵養した地下水から、『サントリーグリーン水素』として製造します。液体水ではなく膜に浸透した水分子を分解することで、高効率で水素を生成できる『PEM型』を採用します」

 グリーン水素の販売先としては、どのような顧客を想定しているのか。

「これから検討していきますが、山梨県内産業での地産地消や、小口需要家等これまで水素の利用対象となっていなかった産業や個人等の観点で新たな需要を開拓していきたいと考えています。水素活用に積極的な東京都への供給も検討中です」

 事業の立ちあげ、継続にあたっては、どのような点が課題・カギになってくるのか。

「柔軟なサプライチェーンの構築や、販売にあたりいかに価値を感じていただけるかという需要喚起を課題として考えています。安全確保も大前提となるので、関連法規・届出を遵守のうえ体制・設備含めて今後の事業化において議論していきます」

 販売初年度の売上、販売量などの計画については次のように説明する。

「今回ビジョンとして発表しましたが、今年の秋にまずはP2Gを無事稼働させ、実際の水素製造量を長期的に評価の上、販売開始時の市場価格動向なども見ながら供給していきます。そのため、2027年時点での具体的な売り上げや供給量を現段階で答えるのは、時期尚早と考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)