輸送力34%不足の壁を乗り越える…ドローンとAIで物流現場に革命

2025.05.22 2025.05.22 00:13 ディープテック・アカデミア

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●この記事のポイント
・大型の資金調達で成長を加速する物流テック。自動運転や省人化、ドローン配送などの領域でスタートアップの技術が脚光を浴びている
・2024年問題で輸送力が2030年度には34%不足するとの試算があるが、DX化により輸送力の増強や、配送業者の効率化によって解決を図ろうとする動きもある
・かつて「3K」といわれた物流業界に革命を起こそうとするスタートアップを紹介する

目次

2028年の世界市場は14兆円規模に達するとの観測も

 世界の物流市場はコロナ禍やウクライナ戦争の影響を受けながらも、電子商取引(EC)の拡大やグローバルなサプライチェーンの強化を背景に伸び続けています。2028年には18年の約2.5倍に相当する14兆円に達するという予測もあります。

 世界の資金調達においても、物流関連テックは年間で1000億円を超えており、調達額・取引件数ともに多く、注目度が高い領域です。その中で投資額、件数ともに最も多いのがサプライチェーン技術です。件数ベースでみると、SaaSやAI関連を活用したスタートアップへの投資も拡大しています。

 直近3年間の資金調達状況を見ると、アメリカ、タイ、インド、中国など、出資先は複数の国に分散しており、物流テックの需要と期待はグローバル全体に広がっているのが特徴です。全般的に、レイトステージの企業がここにきて大型の資金調達を実現し成長を加速させています。

 その一つが米国のZipline(ジップライン)です。ドローン宅配便の設計・製造を行っており、大手スーパーの米ウォルマートなども顧客の1社で、米国や日本の福江島(長崎県五島市)などで配送センターを運営しています。アフリカのルワンダ、ガーナでは血液やワクチンなど医療関係の物流でも力を発揮しています。

 ドイツのCargoBeamer(カーゴビーマー)は、トラック輸送の一部を鉄道に切り替えるモーダルシフト事業を展開しています。独自技術によって、あらゆるタイプのセミトレーラーを道路から鉄道まで簡単に移動し、長距離輸送することが可能です。鉄道への切り替え作業は自動化されており、輸送会社の待ち時間はなく、わずか20分で同時に積み下ろしすることができます。

 海外でも人手不足は課題となっており、今後の注目技術は「自動運転」です。ここ数年は優秀な技術者が立ち上げたスタートアップが着実な実績を残しています。Gatik(ガティック)は、北米の中距離輸送領域で自動運転物流サービスを提供。高度なAI技術を取り入れた小型・中型の自動運転トラックを使用して、主に物流倉庫や小売店間の物流サービスを展開しています。日本の大手トラックメーカーなども出資しています。

国内では2030年度に輸送力が34%不足するという見方も

 日本では改正物流法が2024年に施行され、時間外労働が960時間に制限されました。残業規制のなかった時は毎日512キロ走ることができていたトラックが、規制後は1日425キロしか走れなくなり20%近く減少します。何も対策を講じなければ30年度には輸送力が34%不足するという指摘がありますが、人の採用は難しくコストも増大しているのが現状です。

 こうした動きを踏まえ、物流施設の自動化・機械化の推進、効率化・省人化やドローンを用いた配送などにおいてスタートアップが開発した技術の活用が進んできています。

 物流2024年問題を乗り越えるため、荷主側でも連携が進んでいます。キーワードは、積載率の向上やドライバーの待機時間の削減、共同運行、オフピーク輸送です。大手物流会社は複数の企業とともに、各社ごとに手配していた関東~関西間のトラック輸送を共同運行へ切り替えて効率的な配送を実現し、ドライバー一人当たりの運転時間は約38%削減できる見通しです。

次世代型施設の整備で3K職場というイメージから脱皮

 また、「3K職場」というイメージからの脱皮を図り、人材の獲得に力を入れるため、最新鋭の設備・ソリューションを備えた次世代型物流施設を整備する動きも相次いでいます。単なる物流拠点ではなく、地域住民・入居企業の交流の場としても活用されています。

 大企業がスタートアップの優れた技術を取り入れるケースも増えています。名古屋大発スタートアップのオプティマインドは酒類販売大手と連携し、6月から新たな配送システムを導入します。より消費者に近いラストワンマイル領域で配送業務の効率化を推進することは、物流業界全体の課題を解決するのに有効な事例だと言えるでしょう。

 また、大手物流会社が進めるドローン活用のプロジェクトでは、山間地域の生活利便性向上を目指すため、日本気象協会や大手ドラッグストアも加わりました。

 今回は、さまざまな領域の中から物流テック2社を紹介します。

陸上輸送とドローンとを組み合わせ全国10地域以上でサービスを提供

 ドローン開発を手掛けるエアロネクスト(東京都渋谷区)は、トラック配送にドローン配送を組み合わせて地域物流の非効率を解決するスマート物流を提供しており、地域物流のラストワンマイル配送として注目されています。すでに過疎地域や離島など全国10地域以上で定常的に配送サービスを提供しているほか、海外でも事業を展開。モンゴルでは輸血センターと病院間のドローンによる血液輸送を行っています。災害時にはインフラとしても活用でき、2024年1月の能登半島地震では、輪島市内で医療物資のドローン配送を行いました。同9月に能登半島で発生した豪雨災害では、輪島市の孤立した集会所へ約2.5キロ離れた漁港から、パンやアルファ米、飲料などを片道25分かけて輸送しています。

 同社のサービスは物流改革という観点から特定過疎地の交通問題や、物流弱者対策の改善につながり。地域活性化に大きく貢献する可能性があります。

電波が届かない屋内でもフォークリフトなどの位置をリアルタイムに把握

 Guide Robotics(ガイドロボティクス、東京都千代田区)は、米スタンフォード大学から独立した世界有数の技術系研究機関であるSRI Internationalからスピンオフしたスタートアップ企業です。提供しているのは全地球測位システム(GPS)などの電波が届かない屋内でも現在地情報を取得できる屋内位置測位システム。カメラから得られた映像データから、自分の位置や姿勢と周辺の物体の位置情報を三次元で把握する「Visual SLAM」技術をベースにしており、フォークリフトや自律移動型ロボットなどの位置・動線をリアルタイムに把握、可視化・デジタル化することで工場や倉庫内の作業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を支援します。

 ECの伸びを背景に大手不動産会社は物流施設の開発に力を入れています。物流関連市場は特に人手不足が深刻化しておりDXの普及を急ぐ必要があるだけに、Guide Roboticsの技術が果たす役割は大きいといえるでしょう。

2026年から法改正

 2026年から改正物流法が義務化され、貨物取引の上位に位置する約3000社の特定事業者は物流効率化に対する取り組みや、その結果の定期報告を行う必要があります。国が示す判断基準に違反して勧告を受けた場合、違反した事業者は実名を公表されます。こうした事態を回避するにはDX化の推進が不可欠となるだけに、物流テック関連サービスに対するニーズは一段と高まりそうです。

(文=小池 俊光/デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 ビジネスプロデュース事業部)

小池 俊光/デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 ビジネスプロデュース事業部

小池 俊光/デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 ビジネスプロデュース事業部

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて、事業再生、M&A、不動産/ホテル事業に関するアドバイザリー業務に従事。不動産テック企業にて、東証上場2社(IT企業と不動産企業)の合弁企業取締役として、事業の立ち上げとスケールを推進。投資ファンドにて、不動産会社への投資、および取締役として事業スケール、DX化、子会社M&Aにかかる事業戦略立案、経営企画部長/事業部長の立場でけん引などを経て、現職。