防衛テックの最前線:スカイゲートテクノロジズが描く日本の安全保障と未来社会

●この記事のポイント
・スカイゲートテクノロジズは、防衛とテクノロジーを組み合わせた「防衛テック」を専門とし、物理とデジタルを横断する視点で、ソフトウェアを活用して次世代の防衛インフラの構築を目指す。主要な防衛ソリューションは「Skyagate JADC2 Alayasiki(アラヤシキ)」で、陸・海・空・宇宙・サイバーといった各領域の情報を一元的に分析・共有し、リスクの検出と対処法をソフトウェアで導き出すシステム。
・さらに、防衛分野への投資を社会全体に波及させることを目指し、「DEFENSE TECH DAY」を主催して、企業や大学との共創も促進。同社は、軍事兵器ではなく、災害救助やインフラ監視などにも応用可能な「波及性ある技術」の開発に注力しており、持続可能な社会の実現を目指している。
ミサイルは数分で国境を越える。サイバー攻撃は目に見えない戦場を作り出す──。日本の防衛にいま求められているのは、物理とデジタルをつなぐ“領域横断型”の視点だ。こうした時代背景のなか、防衛省出身の起業家が立ち上げたスカイゲートテクノロジズは、ソフトウェアを武器に次世代の防衛インフラに挑んでいる。
同社を率いる粟津昂規氏は、慶應義塾大学理工学部でソフトウェア開発に取り組んだ後、自衛官として防衛省に入省。衛星通信やサイバーセキュリティの任務に従事したのち、クラウド会計ソフト企業freeeでセキュリティマネージャーを務め、2020年にスカイゲートを創業した。「国家とスタートアップ、物理とサイバー、有事と平時──。異なる領域をつなぐことが、私たちの使命です」と語る粟津氏に、防衛テックの可能性と、日本社会が進むべき未来について聞いた。
目次
- 異色のキャリアが導く“領域横断”の視点
- クラウドから防衛へ:民間技術の応用力
- リスクを乗り越える“ハイブリッドな組織”とは
- 社会波及性を重視したエコシステムづくり
- 宇宙・国際連携・そして“持続可能な日本”へ
異色のキャリアが導く“領域横断”の視点
粟津氏のキャリアは、防衛テック領域において他に類を見ない強みをもたらしている。自衛官時代には、災害対応や日米共同訓練にも従事しつつ、サイバーセキュリティ部隊の立ち上げにも関与。「安全保障や行政制度、技術と社会構造の接続といった“仕組みの裏側”に触れたことが、今の事業に直結しています」と粟津氏は振り返る。
その経験を基に開発を進めるのが、スカイゲートテクノロジズが開発する防衛ソリューション「Skyagate JADC2 Alayasiki(アラヤシキ)」だ。アラヤシキは、物理・サイバーの両面からリスクを検出し、どのように対処すべきかをソフトウェアで導き出す仕組みである。たとえば、陸・海・空・宇宙・サイバーといった各自衛隊の「領域」を横断し、それぞれの情報を一元的に分析・共有できるように設計されている。
「防衛分野では、各組織が個別のシステムを持ち、情報連携がうまくいかないことが多い。アラヤシキでは、それらをつなげて“共通の視界”をつくることを目指しています」(粟津氏/以下同)
この「領域横断」は、官民を問わず解決が困難なテーマだ。だが同社は、防衛省との連携のもと、技術とオペレーションの両面から地道な実装を進めている。
クラウドから防衛へ:民間技術の応用力
アラヤシキの根幹にあるのは、「データの統合と、そこから得られるインサイトの継続的な改善」だ。大量のログやセンサーデータをリアルタイムで処理し、脅威の兆候を抽出、即時対応につなげる仕組みは、クラウドセキュリティの技術と多くの共通点を持つ。
「私たちは防衛領域と民間領域の両方にプロダクトを展開していますが、根本の考え方は変わりません。クラウド上の異常検知も、災害時の被害予測も、必要なのは“変化する状況への即応”です」
従来、防衛産業は先端技術の導入に慎重な分野だった。しかし近年はドローンやAIといった民生技術のスピード感が勝り、防衛側が民間から技術を取り入れる動きが加速している。
「かつては軍事技術が民間に転用されていましたが、いまは逆。民間で育ったテクノロジーをいかに素早く防衛に生かすかが鍵になります。海外でも同様で、私たちだけが慎重でいるわけにはいかない」
リスクを乗り越える“ハイブリッドな組織”とは
有事と平時のリスクは性質こそ異なるが、組織としての対応には共通点がある──。粟津氏はこの視点を、事業の中核に据えている。
「有事は“命のリスク”、平時は“経済のリスク”。でも、どちらも“備え”がなければ対応できない。リスクの種類に関係なく、同じ方法論で対処できる組織を作るべきです」
例えば、コロナ禍ではリモートワーク環境の有無が企業の適応力を左右した。これも「平時に整備していたか否か」の差である。防衛分野でも、突発的な事態に対する備えと柔軟性が問われており、技術的・組織的な“ハイブリッド”が鍵になるという。
社会波及性を重視したエコシステムづくり
スカイゲートテクノロジズが主導する「DEFENSE TECH DAY」は、国内の防衛課題をオープンにし、スタートアップや大学、他企業との共創を促すイベントだ。そこには「防衛投資を社会全体に波及させたい」という強い意図がある。
「米国では、軍の投資が社会インフラに転用される仕組みがあります。クラウド技術や衛星通信の進化も、その一環です。防衛領域の技術やサービスが、より社会の安全を支えるものとなっていく。そんな想像力をもっと働かせて良いと思います」
同社は、防衛専用品(いわゆる軍事兵器)の開発は行っていない。その代わり、災害救助やインフラ監視、セキュリティ分野にも応用可能な「波及性ある技術」の開発に注力している。実際、民間クラウド領域で培った技術は、防衛向け製品にも活用されており、「オープンイノベーションの好循環」を生み出している。
宇宙・国際連携・そして“持続可能な日本”へ
防衛と並んで注力しているのが、宇宙領域との連携だ。現在はパートナー企業との共同研究を進めており、詳細は明かせないものの、防衛省以外の財源(SBIRや宇宙基金など)からの支援も得ているという。
「宇宙もまた、領域横断の一部。いまは国家戦略としても優先順位が高く、連携の必要性が増しています」
安全保障環境が複雑化する中で、粟津氏は「日本の脅威はミスによるカタストロフィー」だと警鐘を鳴らす。つまり、悪意ある攻撃だけでなく、「うっかり」が即座に悲劇に繋がる時代。だからこそ、隣国との関係性や欧米諸国との連携を通じて、状況を正確に把握し、即時に対応できる仕組みが不可欠だという。
最後に、粟津氏はスカイゲートテクノロジズが目指す未来についてこう語った。
「防衛テックで実現したいのは、“明日のことを安心して話せる社会”です。有事が起きないことが一番ですが、それに備えることで、私たちは初めて自由に生きられる。そのためにテクノロジーは進化し続ける必要があるし、私たちの挑戦も終わりません」
防衛×スタートアップ、サイバー×物理、有事×平時──。あらゆる分断を乗り越え、未来の安心を築くために。スカイゲートテクノロジズの挑戦は、日本社会の“持続可能性”を問い直す実験でもある。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)


