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世界初の定常核融合炉実現へ、経産省が支援…Helical Fusion、J-Startup第5次選定企業に

2025.04.01 2025.04.03 18:40 ディープテック・アカデミア
世界初の定常核融合炉実現へ、経産省が支援…Helical Fusion、J-Startup第5次選定企業にの画像1
UnsplashのFrédéric Paulussenが撮影した写真

 地球温暖化やエネルギー資源の枯渇といった課題が深刻化する現代において、新たなエネルギー源の開発は人類にとって喫緊の課題となっている。その中で、次世代のエネルギー源として注目されているのが「核融合」だ。核融合エネルギーの実現を目指すスタートアップ企業「Helical Fusion」が、経済産業省が運営するスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の第5次選定企業に選出された。

 そもそも核融合とは、軽い原子核同士が合体してより重い原子核になる際に、莫大なエネルギーが放出される現象。太陽をはじめとする恒星が輝くエネルギー源であり、地球上でも再現できれば、ほぼ無尽蔵でクリーンなエネルギーを得られる可能性があるため、何十年も前から研究され、夢のエネルギー源といわれてきた。

 核融合の主な燃料となるのは、水素の同位体である重水素と三重水素。これらは海水やリチウムから比較的容易に採取できるため、資源の偏在や枯渇の心配が少ないと考えられています。また、核融合反応では二酸化炭素などの温室効果ガスを排出せず、使用済み核燃料のような高レベル放射性廃棄物も発生しない。

核融合エネルギーのメリット

 核融合エネルギーには、以下のようなメリットがある。

豊富な燃料資源:重水素や三重水素は、地球上に豊富に存在するため、燃料資源の枯渇の心配が少ない。
クリーンなエネルギー:核融合反応では、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないため、地球温暖化対策に貢献できる。
高い安全性:核分裂反応と異なり、核暴走の危険性がなく、原理的に安全性が高い。
高効率な発電:核融合反応で得られるエネルギーは非常に大きく、高効率な発電が可能。
放射性廃棄物の低減:使用済み核燃料のような高レベル放射性廃棄物の発生量が少ない。

核融合炉の実現に向けた課題

 一方で、核融合エネルギーの実現には、いくつかの技術的な課題がある。最も大きな課題は、核融合反応を持続的に起こすための高温・高密度のプラズマ状態を維持すること。プラズマとは、原子核と電子が分離した状態の気体であり、核融合反応を起こすには1億度以上の超高温にする必要がある。

 また、プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を生成する技術や、核融合反応で発生する中性子から炉を保護する材料の開発も重要な課題だ。これらの課題を克服するために、世界中で様々な研究開発が進められている。

Helical Fusionの挑戦

 株式会社Helical Fusionは、「人類は核融合で進化する」をビジョンに掲げ、日本生まれの「ヘリカル方式」で世界初の定常核融合炉を2034年に実現することを目指しているスタートアップ企業。

 ヘリカル方式とは、ドーナツ状の真空容器にねじれたコイルを巻き付け、複雑な磁場を生成することでプラズマを閉じ込める方式。トカマク方式と並ぶ核融合炉の主要な方式の一つであり、プラズマの安定性が高いという特徴がある。

 Helical Fusionは、国立研究所のスピンアウトベンチャーとして、日本で数十年かけて培われた核融合研究の成果を引き継ぎ、日本の技術力をフル活用してヘリカル方式核融合炉の実現を目指している。

 Helical Fusionは、自社の強みを以下の3点としている。

世界でも稀有な炉全体の開発・設計技術:ヘリカル方式核融合炉の設計・開発には、高度な技術力と経験が必要ですが、Helical Fusionは世界でも稀有な炉全体の開発・設計技術を有しています。
要素技術の開発力:核融合炉の実現には、超伝導コイルやプラズマ加熱装置など、様々な要素技術の開発が不可欠ですが、Helical Fusionはこれらの要素技術の開発力も高く評価されています。
強力なチーム:物理と炉工学の分野における世界トップの研究者と、事業開発に強みを持つメンバーが融合したチームで、メンテナンスまで見通した商用炉をいち早く実用化することを目指している。

 そのHelical Fusionが3月、経済産業省が運営するスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の第5次選定企業に選出された。J-Startupは、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供するスタートアップを創出するために、経済産業省・日本貿易振興機構(JETRO)・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局となり、2018年6月に立ち上げられたプログラム。

 Helical Fusionは、J-Startup選定企業として、政府機関と民間の「J-Startup Supporters」による集中支援を受けることができ、核融合エネルギー実用化への取り組みを加速させることが期待される。

核融合エネルギーの未来

 核融合エネルギーは、地球温暖化対策やエネルギー資源の枯渇といった課題を解決する切り札として、大きな期待が寄せられている。Helical Fusionをはじめとする世界中の研究機関や企業が、核融合エネルギーの実用化に向けて研究開発を進めており、2050年頃には実用化される可能性もある。

 核融合エネルギーが実現すれば、人類はほぼ無尽蔵でクリーンなエネルギーを手に入れることができ、持続可能な社会の実現に大きく貢献すると期待できる。

 核融合エネルギーは、人類の未来を拓く可能性を秘めた革新的なエネルギー源。Helical Fusionは、日本が誇る技術力を結集し、世界に先駆けて核融合エネルギーの実用化を目指しています。彼らの挑戦は、私たちの未来を大きく変えるかもしれない。今後の動向に注目していきたい。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

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