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インドの二輪市場で躍進続けるOla Electric…急成長の光と影

2025.04.02 2025.04.18 18:02 グローバル

インドの二輪市場で躍進続けるOla Electric…急成長の光と影の画像1

 2022年6月からインド・バンガロールに移住し、web3.0、メタバース領域のスタートアップの経営戦略、ファイナンス支援に従事している川本寛之氏が、インドのスタートアップ業界をウォッチし、独自の視点で解説する。

 インドの電動二輪車市場において、Ola Electricは破竹の勢いで成長を遂げている。EV革命の波に乗り、巨額の投資と大規模な生産体制を武器に市場を席巻する一方で、販売・アフターサービスの課題も次第に明らかになってきた。本記事では、Ola Electricの成功の裏側に潜む課題、そして今後の展望について掘り下げる。

1. Ola Electricとは?

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 Ola Electricは、インドの配車サービス大手OlaのEV部門として2017年に設立された電動二輪車メーカーである。特に2020年以降、政府のEV普及政策の追い風を受け、事業を急拡大した。

 同社は2020年12月、タミル・ナードゥ州政府と覚書を交わし、約3億2700万ドル(約340億円)を投じて世界最大規模のスクーター製造施設「Futurefactory」を建設すると発表。この工場は年間200万台の生産能力を持ち、1万人以上の雇用を創出するとされている。

 さらに、Ola Electricは2024年に走行距離500kmを誇る電気自動車(EV)の開発を進めており、電動二輪車市場の次なるステップとして四輪EV市場への参入を狙っている。

2. インド政府のEV政策と支援

 インド政府は、深刻化する大気汚染やエネルギー安全保障の観点から、EV普及に向けた強力な政策を推進している。特に、以下の政策がOla Electricを含むEVメーカーの成長を後押ししている。

FAME(Faster Adoption and Manufacturing of Electric Vehicles)プログラム:2015年に開始された政府のEV補助金制度で、現在は「FAME-II」として継続中。電動二輪車に対して最大1万5000ルピー(約3万円)/kWhの補助金が提供され、消費者の購入負担を軽減する。

生産連動インセンティブ(PLI)スキーム:2021年に発表され、EVおよびバッテリー製造業者に対する補助金を提供。Ola Electricのような新興企業も恩恵を受けている。

州レベルの優遇政策:マハーラーシュトラ州、タミル・ナードゥ州などは独自のEV補助金や税制優遇措置を実施。

 これらの政策により、EV市場は急速に拡大し、Ola Electricの成長にとって大きな追い風となっている。

3. Ola Electricのファイナンスラウンドと投資家

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 Ola Electricは設立以来、複数のファイナンスラウンドを通じて巨額の資金を調達してきた。特にソフトバンクをはじめとするグローバル投資家が積極的に支援している。

2019年7月:ソフトバンク・ビジョン・ファンドを中心に約2億5000万ドル(約270億円)を調達。
2021年9月:Falcon Edge、Temasek、Tiger Globalなどの投資家から2億ドル(約220億円)を調達。
2022年1月:Alpha Wave Globalやその他の投資家から2億ドルを追加調達。
2023年3月:ソフトバンクとシンガポールの政府系ファンドGICが主導するシリーズDラウンドで約3億ドル(約400億円)を調達。

 これらの資金を活用し、Ola Electricは製造能力の強化、バッテリー技術の開発、そして四輪EV市場への進出に向けた研究開発を進めている。

4. Ola Electricの製品ラインナップと特徴

 Ola Electricは、インド市場の幅広いニーズに対応するため、複数のモデルを展開している。

S1 Pro+:最上位モデルのS1 Pro+は、5.3kWhのバッテリーを搭載し、最大航続距離は320kmに達する。最高速度は141km/h、0-40km/h加速は2.1秒と、EVスクーターの中でもトップクラスの性能を誇る。直感的なタッチパネル式の操作画面を備え、内蔵スピーカーからはカスタマイズ可能なエンジンサウンドが流れる。価格は15万4999ルピー(27万499円)からである。

S1 Airシリーズ:S1 Zシリーズは、エントリーモデルとして位置づけられ、1.5kWhのデュアルバッテリーを搭載。最大航続距離は146km、最高速度は90km/hで、価格は10万7499ルピー(約18万円)からとである。

S1 Xシリーズ:S1 Xシリーズは、2kWh、3kWh、4kWhのバッテリーオプションがあり、最大航続距離は190km、最高速度は123km/h。価格帯は7万9999ルピー(約14万円)から11万1999ルピー(約19.5万円)まで展開されている。

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S1 Zシリーズ:商用利用向けのGigシリーズは、1.5kWhのバッテリーを搭載し、最大航続距離は112km、最高速度は25km/h。価格は5万9999ルピー(約10万円)と、ラストマイル配送を担う事業者向けに設計されている。

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5. 実際の購入体験 〜販売店の杜撰な対応〜

 筆者が実際にOla Electricのスクーターを購入した際の体験を紹介したい。

 まず驚いたのは、販売店の対応の悪さだった。筆者が訪れた店舗ではスタッフの対応が非常に不十分であり、当初「納車まで約1週間」と案内されていたにもかかわらず、実際には1カ月以上かかることとなった。

 以下は、販売店の担当スタッフとのやり取りの一部である。筆者からの問い合わせに対して返信は全くなく、一方的に無視されることが多かった。補足すると、このやり取りの前にすでに3週間以上も何の説明もないまま待たされていた。さらに、突然「明日届けるので待機してください」と一方的に連絡があったものの、当日になっても車両は届かず、結局納車はさらに延期されるという状況だった。

 このようなやり取りが1週間以上続いた末、最終的に納車されたのは、なんとナンバープレートが付いていないため公道を走行できない車両だった。

 私だけスタッフの運が悪かったのかと思い、さらにGoogleマップのレビューを確認すると、多くの販売店で同様の苦情が寄せられていた。「地球上で最悪の場所」とまで書かれている。配達の遅延、説明不足、故障時の対応の遅れなど、顧客の不満が溜まっている様子が見て取れる。

6. 購入後の実態 〜充電インフラの問題〜

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 EVの普及に欠かせない充電インフラの状況も、Ola Electricの課題の一つである。筆者が購入後に充電スポットを利用しようとしたところ、Googleマップ上で「利用可能」と表示されている充電ステーションが、実際には故障しているケースが多々あった。

 また、販売店併設の充電スポットも、多くがメンテナンス不足のため使用できない状態である。これは、Ola Electricが急速に販売を伸ばす一方で、インフラ整備が追いついていない現実を浮き彫りにしている。

 Googleマップでも、このように充電できないというクレームが散見される。

7. 付随する課題の数々

 このような状況もあり、Olaの純損失は25年度第3四半期に前年比50%増の564億インドルピー(約984億円)に急増し、一方で営業収益は当該四半期中に前年比19%減の1045億インドルピー(約1824億円)に減少した。一方、同社の株価は過去3カ月間で41%以上も下落している。

 この悪循環の大きな原因は、マディヤ・プラデーシュ州やマハラシュトラ州を含む複数の州の運輸局が当社のショールームを強制捜査したことにある。この強制捜査により、当局は両州で50台のスクーターを押収したが、その一方で同社のショールーム3400カ所のうち95%以上が必要な営業許可証なしに営業していたとの報告もあった。 

 さらに、重工業省と道路運輸省は、2月に報告された販売数と実際の車両登録数に食い違いがあったとして、EVメーカーを調査していた。

 同社は先月2万5000台のスクーターを販売したと主張しているが、Vahanポータルでは同期間における新規登録は8600台しか表示されていない。同社はこの差はベンダー、登録代理店との交渉が続いているためだとしている。 

 さらに、OETのベンダーの1社であるロスメルタ・デジタル・サービス社が、未払い金を理由に​​同社に対して破産申し立てを行った。

 インドには「ジュガード」という言葉がある。これは「目の前のリソースを最大限に活用し、柔軟に問題を解決する」インド流のイノベーション手法を指す。

 Ola Electricの急速な事業展開は、まさにこのジュガードの典型例である。完璧なオペレーション体制を構築してから進める日本の大手企業とは異なり、まず市場に製品を投入し、問題が生じたらその都度対処するスタイルをとっている。

 直近は、インドのスタートアップエコシステムで教育テック等を中心に市場の過度な期待から、資金供与が実施され、過剰なマーケティング、販売が行われていた。ただこのような状況は長くは続かず、最終的に大量にレイオフ、事業の下方修正を余儀なくされている。

 Olaは配車アプリを踏まえた収益基盤がある為、同様の末路とはなりづらい一方、持続的な成長を遂げるためには、バリューチェーン全体の精度を上げ、顧客体験を向上、維持させる必要がある。

8. 今後の展望

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 VAHANポータルが発表したデータによると、BAJAJは26.76%の市場シェアを報告し、続いてTVSとOlaがそれぞれ23.3%と17.9%の市場シェアを記録した。しかし、前年度の市場シェアレポートでは、Olaが30%でトップとなり、TVSとBAJAJはそれぞれ21%と20%を記録しており、Olaが今年は大きく販売実績に遅れを取っていることが伺える。
この状況を打破する上で、特に、これらが今後の成長の鍵となるだろう。

1.販売店の教育と対応サービスの向上

2.充電インフラの拡充とメンテナンス体制の強化

3.品質管理の徹底とリコール対応の迅速化

 Ola Electricは、間違いなくインドEV市場の中心にいる。しかし、真のリーダーとなるためには、製品のクオリティ向上だけでなく、サービス全体の改善が急務である。ほぼ間違いなく、成長スピードを下げるつもりはないであろう。その中で、今後、どのような形でバリューチェーンの全体精度を上げて顧客体験を向上させていくのか、一購入者として、引き続き注目したい。

(文=川本寛之/native. 株式会社Founder兼CEO)

川本寛之/native. 株式会社Founder兼CEO

川本寛之/native. 株式会社Founder兼CEO

D2Cベンチャーでマーケティングを経験後、2015年にインドに移住。HRメガベンチャーでインド事業責任者として、現地子会社創業、経営、グローバル採用支援を経験。2018年、インドのデカコーン企業OYOの日本法人創業メンバーとして、事業開発、人事、PMチーム等の立上げ、新拠点グロースを担当。その後、独立系VCグローバルブレインにて、インドスタートアップ投資、大手事業会社のCVCファンドの立ち上げ、運営、投資先企業のバリューアップに従事。2022年6月にインド(バンガロール)に移住。2023年8月に「native.」を創業。2024年に真剣交際アプリを展開後、現在は現地に1.5億人存在するアニメ好きに向けたメディアコマースプロダクト「Ōta」を開発中。

Twitter:@https://x.com/hiro14ta

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