ユニコーンジャーナル > グローバルニュース > AWSのシェア低下の理由

クラウド王者・AWSのシェア低下の理由…猛追するマイクロソフト・Azureが逆転?

2025.06.11 2025.06.11 18:04 グローバル
AWS
AWS

●この記事のポイント
・世界クラウド市場1位のAWS、シェアが低下し30%を割り込んだ
・ChatGPTの技術やCopilotを持つマイクロソフトのAzureのシェアが拡大
・市場シェアの変化が生じている理由は何なのか、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか

 世界のクラウドサービス市場で不動のシェアトップに君臨してきた米Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス:AWS)だが、昨年頃からじわじわとシェアが低下し始め、米調査会社シナジー・リサーチ・グループの調査・発表によれば、今年1~3月のシェアが30%を割り込んだという。一方でシェアを拡大させているのが、「Microsoft Azure」を展開するマイクロソフトだ。OpenAIのChatGPTの技術を導入し、また独自のAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」を提供しているマイクロソフトが、クラウドサービスにも生成AIを積極的に導入する動きをみせていることが要因ともいわれている。こうした市場シェアの変化が生じている理由は何なのか。また、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

Azureのシェアが増えている背景

 世界のクラウド市場では、1位のAWS、2位のマイクロソフト、3位の「Google Cloud」を展開するグーグルが3強となっており、ここ数年は各社の市場シェアはそれぞれ概ね30%台、20%台、10%台で推移してきた。下位2社の追い上げは勢いづいており、グーグルは今月、クラウドサービスを運営するデータセンター内の機器で使用するとみられるAI向け半導体・TPU(Tensor Processing Unit)の第7世代「Ironwood」を発表。性能向上に加えて大幅な電力効率の向上がなされ、24年に発表された第6世代TPU「Trillium 」と比較して2倍の消費電力あたりのパフォーマンスを発揮するとして注目された。

 AWSのシェア低下の理由は何なのか。クラウドエンジニアのI氏はいう。

「現場で働いているエンジニア目線でいうと、クラウド業界の先駆者的なポジションにAWSがいて、今までずっと市場をリードしてきたこともあり、AWSを扱えるエンジニアの数が多く、現在でも増え続けています。そしてAWSエンジニアも比較や勉強のために他のクラウドサービスを調べたり使ってみたりするので、そうなると必然的に2番手のAzureが使われやすくなります。AWSとAzureの大きな違いは、バックグラウンドとして多くの企業がマイクロソフトの製品をすでに導入しているという点です。つまりAzureは企業の既存システムとの相性が良いのに加え、既存のマイクロソフト関連の契約があるとAzureのライセンス料を比較的低価格に抑えることができるという点が、徐々にAzureのシェアが増えている背景としてはあるのかなと思います」

 AWSとAzureの違いは、どのような部分にあるのか。

「マイクロソフトの製品を使ってシステムを構築している企業の場合、アクティブディレクトリやユーザー作成などの面でAzureとの連携がしやすいというのは、Azureの一つのメリットです。一方、AWSを使う上での最大のメリットは、やはりナレッジが非常に豊富にあるという点です。これまでクラウド業界をリードしてきたがゆえにAWSエンジニアの数も世界で多いので、あらゆる検証済の技術が存在しており、新しく何かをやろうとした際にハードルが低いです。とはいえ、現状ではAWSでできることの大半はAzureでもできるので、技術的にものすごく大きな差というのは、あまりない気がします」(I氏)

Azure一強という状況は生まれにくい?

 生成AI関連の技術・サービスの差が市場シェアの変化に影響を及ぼしている可能性はあるのか。

「AzureだとChatGPTやCopilot、マイクロソフト製品と容易に連携させて業務効率化を図るといったことも、やりやすいですし、新規でクラウドを導入しようとなった際に『これから積極的にAIを活用していきたいから、やっぱりAzureを選んだほうがいいよね』と期待感が先行するかたちでAzureが選ばれやすくなるという面はあるかもしれません」(I氏)

 では、近いうちにAzureとAWSのシェアが逆転する可能性はあるのか。

「Azureを使えるエンジニアも増えてきているので、じわじわとAzureの利用は拡大していくとは思いますが、AWSのエンジニアが多い企業ではAWSが選ばれやすいでしょうし、Azureがものすごい機能をリリースするなど、よほどインパクトが大きい出来事がない限りは、すぐに逆転するということは考えにくいです。Azureに明確な強みというのが出てこなければ、なかなかAzure一強という状況は生まれにくいのかなと感じます。

 エンジニア目線でいうと、やはりAWSは非常に操作性に優れていて使いやすく、UI的な部分でのバグが少ないというのは強みなので、クラウドのエンジニアを目指すならとりあえずAWSの道に行くという人が今も大多数です。AWSが優れているのは操作性だけでなく、ナレッジが豊富にあるためクラウドエンジニアを目指す人が成長しやすいというメリットもあります。

 大企業ですと、社内システムで業務効率化するために社外秘のデータをインターネット通信しない環境で検索して、情報をすぐに引っ張ってこれるようにしたりと、AIを使って業務効率化を図るということに着手しているところも増えていますが、多くの中小企業はまだそこまで進んでいないと思います。これから多くの企業でAIの活用が本格化してくれば、クラウド市場も変わってくるかもしれません」(I氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)