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日本発スタートアップが描く商用EV革命!東南アジア市場を席巻する「脱炭素と経済性」両立の秘策とは?

2025.07.23 2025.07.23 17:06 グローバル
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代表取締役社長CEOの白木秀司氏と代表取締役副社長CTOのデニス・イリッチ氏

●この記事のポイント
・日本発のスタートアップが、東南アジアで商用EV革命を起こそうとしている。eMotion Fleetは、商用EVの導入から運用までをワンストップで支援する。EVの運行状況や充電状況をリアルタイムで可視化・管理できる独自システムを提供。
・さらに、月額制でEV車両や充電器、ソフトウェアまで一括提供。経済性と脱炭素を同時に叶える仕組みを実現。「アジアNo.1」のEVフリートソリューションプロバイダーを目指す。

 世界の電気自動車(EV)市場は急拡大を続けている。2024年の世界の全新車販売台数に占めるEV比率は22%に達し、販売台数は前年比25%増の1750万台を記録した。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年に世界で販売される新車の40%がEVになると予測している。

 特に注目すべきはバスやトラックなどの商用EV市場だ。商用EVの2023年の世界販売台数は約105万台で、2035年には956万台に達するという予測もある。さらに、日本政府は2030年までに小型商用車の電動化20~30%、2040年までにゼロエミッション車100%を目標に掲げている。しかし現状、日本のEV普及率はおよそ2%と、世界の平均を大きく下回っている。

 この格差を商機と捉えるのが、2023年9月に創業したeMotion Fleet株式会社だ。代表取締役社長CEOの白木秀司氏と代表取締役副社長CTOのデニス・イリッチ氏は、前職での国内最大規模の商用EV導入支援の経験を生かし、商用EVフリート(EVの車両群)導入のワンストップサービスを提供するべく同社を共同創業した。

 2025年6月末には、シリーズAラウンドとして2.5億円の資金調達を発表。インキュベイトファンドが主導し、四国電力、九州オープンイノベーションファンド、首都圏ホールディングスが参画した今回の調達は、同社が目指す「アジアNo.1のEVフリートソリューションプロバイダー」への布石だ。白木氏とデニス氏の2人に、話を聞いた。

目次

商用EVフリート管理の全工程をワンストップで提供

 2人の出会いは前職にさかのぼる。世界的な物流大手DHLの傘下にあったストリートスクーターという車両メーカーの日本法人で、ドイツ製の商用EV500台をヤマト運輸に納入するという国内最大級のEV導入プロジェクトを手掛けた。しかし、「電気自動車は車両の入れ替えだけではなく、システム全体に対するアプローチが必要」という課題に直面。充電インフラから運用管理まで含めた、包括的なソリューションの必要性を痛感した。

 転機となったのは2023年。ドイツの国際輸送物流会社DHLが車両製造部門を売却したあと、新たな親会社となったB-ONが清算手続きに入ったことだった。この出来事が独立の決断を後押しし、2人はeMotion Fleetを創業。ハードメーカーからソリューションプロバイダーへ転身した。

 eMotion Fleetが提供するのは、商用EVの計画・導入・運用をワンストップで支援するソリューションだ。計画段階では企業全体のEV導入戦略設計から各拠点の実行計画策定、電動化シミュレーションまでを手掛ける。導入段階ではプロジェクト管理、車両納車・充電設備設置調整、運用講習を実施。そして運用段階では、同社独自の「EV運行・エネルギー管理システム(FMS/EMS)」による一元管理を提供する。

 FMS/EMSの最大の特徴は、マルチベンダー対応である点だ。EV・内燃車両を問わず、あらゆるメーカー・車種を単一プラットフォームで管理できる。車両の運行状況、充電率、燃費・電費、バッテリー健康状態、CO2排出量をリアルタイムで監視し、充電制御によるピーク電力抑制も実現する。

「お客様のEV導入のステージに応じたソリューションを提案できるのが我々の強みです」と白木氏は説明する。

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代表取締役社長CEOの白木秀司氏

「最初は充電の可視化。EVは夜間に充電するのが一般的ですが、次の日に使おうと思ったら充電できていなかったということがよくあります。プラグの接続不良や充電器の故障をリアルタイムで確認できるシステムで解決します。

 台数が5台、10台と増えると、今度は電力料金の問題が出てきます。EVを同時に充電すると電力消費量が急激に上がり、企業の電力料金が跳ね上がってしまう。そこで夜間に分散して充電することで電力のピークを抑え、コストを削減するソフトウェアを提供しています」(白木氏)

 さらに同社は、月額制のアセットマネジメントサービスも提供。車両・充電器・ソフト・サービスをすべて包括的に提供することで、顧客の初期投資を抑制し、経済性とCO2削減の両立を実現する仕組みを整えている。

大企業から中小企業へ、段階的な市場攻略

 現在のeMotion Fleetの主要顧客は大企業が中心だ。特に東証プライム上場企業は、そのほとんどが2030年までのCO2削減目標を掲げており、残り5年という期限を前に危機感を持つ企業が多いという。大企業ではコンサルティングサービスから始まり、一つの営業所で実証後、他拠点に展開されていくケースが多いという。

 一方、同社が将来的に展開を目指す主な対象は中小企業だと白木氏は説明する。

「物流、バスやタクシーの運行会社など、物と人を運ぶ事業者の95%以上は100台未満の車両を保有する中小事業者です。脱炭素化の波は必ず来ますが、CO2削減という理想論だけでは響きません。EVのほうが維持費を含めて安くなるという経済性をセットで示す必要があります」(白木氏)

 ただし、中小事業者は全国に分散しており、一社一社への直接営業は効率が悪い。そこで同社は販売パートナー戦略を展開。2025年4月には常陽銀行のアクセラレーションプログラムに採択されるなど、北関東3県の取引先への脱炭素化提案を進めているほか、リース会社や電力会社とも連携。地域密着型のネットワークを活用することで、人員を増やすことなく効率的な案件獲得を実現している。

 この戦略を後押ししているのが、大企業の脱炭素化要請による波及効果だ。大手運送会社では委託先の脱炭素化も求められる「Scope3」への対応が必要となり、そうした企業からの紹介による案件が増加している。元請けや荷主からのいわゆる「グリーン物流」への要請も相まって、対応しなければ“選ばれない時代”への危機感を持つ中小事業者が増えている。

「社内にEVの専門知識を持つ人材がいない」。そうした中小事業者にとって、導入から運用まで包括的に支援するワンストップサービスへのニーズが高まっているのが現状だ。

「2万台超の商用EV導入実績」という国内に例のない強み

 eMotion Fleetの最大の強みは、 創業者2人が前職時代を含めて、累計2万3000台以上のEV導入・運用実績を持つことだ。日本のEV普及率がおよそ2%という現状では、これほどの規模で商用EV導入を経験した人材は極めて少ない。

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代表取締役副社長CTOのデニス・イリッチ氏

「まだ日本は黎明期なので、EVを少しずつ導入している事例はありますが、数万台という規模で運用されている事例はほぼありません。私たちは導入から運用までの肌感覚があるため、プロダクト開発の際も導入先の現場の目線で、どういう情報をどう見るべきかが経験値からわかっていました」(デニス氏)

 この現場感覚に基づくプロダクト開発により、同社は導入先企業にとって真に必要な機能に特化したソリューションを提供しているという。

 さらにeMotion Fleetは、「商用EVにまつわるプロ集団」として組織を構築。自動車業界出身者やコンサルティング業界、商社出身者など多様なバックグラウンドを持つグローバル人材が加わり、エンジニアチームの会議は英語で行われている。

 こうした専門性が同社の機動力を生み出し、顧客からの信頼獲得に直結している。実際、「(顧客からは)『何を聞いてもその場で即座に答えてもらえる』という評価を得ている」と白木氏は話す。

「日本2%、東南アジア10%」EV普及のギャップに見いだす商機

 日本でのサービス導入を着実に進める一方で、同社が注力し始めたのが海外展開だ。2024年7月にタイ・バンコクで開催されたビジネスカンファレンスにブース出展したところ、現地企業からの引き合いが強かったことから東南アジアへの進出に着手。現在、同社が商談を進めるおよそ300社のうち1割が海外の事業者で、その反応は国内企業とまったく異なる。

「海外での商談はスピードも規模感も全然違います。スタートアップにとって必要なスピードとスケールが、どうしても日本は劣るところがある」(白木氏)

 その理由は市場環境の違いにある。日本のEV普及率はおよそ2%の一方、タイではすでに10%ほどまで増加。「インドネシアやマレーシアのEV普及率も、2024年からガッと上がってきています」と白木は説明する。

「例えばタイでは30・30政策(2030年までに国内で生産される自動車の30%をEVにすることを目指す政策)が掲げられるなど、東南アジアでは政府の脱炭素化に対する指針やEVの導入目標が、日本とは比べものにならないくらい高い目線で取り組まれています。そこに対して産業界もついてきている」(白木氏)

 さらに同氏は、「東南アジアでのEV普及率上昇の背景には、中国製のEVがどんどん流れ込んでいるという実情もあります」と付け加える。

 現在、マレーシアではオンデマンド交通事業者がeMotion Fleetのサービスを導入済みで、タイやインドネシアでも実証に興味を示す事業者が複数現れている。「需要が急速に増えているのに、その商機をみすみす逃したくない」と、同社は東南アジア市場での事業拡大を本格化させる方針だ。

アセットライトで攻める海外展開戦略

 eMotion Fleetの海外展開戦略の核となるのは、アセットライトなアプローチだ。

「ハードウェアを軸にした企業の場合、各国での販売に向けた認証の取得に時間とお金が必要です。しかし我々のようなソフトウェア中心のアセットライトなビジネスモデルなら、複雑なプロセスなしで迅速に事業展開できます」(白木氏)

 また、同社のソリューションがマルチブランドに対応できる点も海外展開において威力を発揮する。東南アジアで普及が進む中国メーカーのEVにも対応可能なため、その普及に合わせてサービスの導入を加速させることができるのだ。

 海外展開において重要な役割を果たしているのが、株主でもある自然電力との連携だ。

「我々は創業からまだ2年弱のスタートアップなので、あっちにもこっちにも人を分散して配置するのが難しい。その点、自然電力はタイ、インドネシア、マレーシアに現地法人があります。各地の現地法人にそれぞれの国の事業者に対するきめ細かな対応をお願いするなど、連携しています」(白木氏)

 海外展開についても日本と同様、ソフトウェアを起点にして段階的に事業を拡大。将来的には各国にeMotion Fleetの現地法人を設立しながら、包括的な“Fleet as a Service”としてのサービス提供を目指す。

シリーズAで2.5億円調達、アジアNo.1への道筋

 今回のシリーズAラウンドで調達した資金をもとに、事業成長を加速させるeMotion Fleet。同社の計画は明瞭だ。

「2029年までに、アジアNo.1のEVフリートソリューションプロバイダーになりたい。具体的には5万台の車両が我々のソリューションの管理下にある状態を目指しています」(白木氏)

 日本、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールを主な対象国として、日本で半分、残りの半分がアジアという売上構成を展望。またサービスの導入先として、物流やバス事業者に加え、空港や港湾も視野に入れる。

 特に国内の空港はカーボンニュートラルの実現に向けて、国土交通省や経済産業省、各地の空港事業者が率先して取り組みを進めている。白木氏は、「空港内で稼働する車両をどんどん電動化していこうという話が進んでいるのが現状。1つの空港で導入事例が生まれれば、横展開もしやすい」と、スケーラブルな市場だと見ている。

 最後に同社が掲げるミッション「脱炭素化と経済性の両立」について、白木氏はその重要性を強調した。

「CO2削減という綺麗な目標を掲げるだけでなく、しっかりと現場の課題を解決しながら経済性を追求し、結果として脱炭素化も実現する。Win-Winの関係を作りながら、会社を成長させていきます」(白木氏)

 対象市場の急拡大、現地での引き合いの強さをもとにした機動的な判断、ソフトウェアが軸のアセットライトな事業展開、そしてそれを可能にするグローバル人材で構成された組織。eMotion Fleetの挑戦は、日本発スタートアップが海外で勝負するための新たなモデルケースとなりそうだ。

(文=加藤智朗/編集者、ライター)

加藤智朗/ライター、編集者

加藤智朗/ライター、編集者

フリーの編集・ライター。経済誌・経済メディアで編集、企画、制作管理、デスク、執筆など。関心領域はスタートアップや海外動向をはじめ、ビジネス全般。執筆媒体:Forbes JAPAN, BRIDGE, WIRED, NewsPicks+d, Biz/Zine, SELECK, Ambitions, DIAMOND SIGNAL, ハフポスト etc.
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