【SusHi Tech Tokyo2025】自動運転や配車アプリ、「社会実装前提の展示」が加速
都市が抱える課題は、年々複雑さを増している。高齢化、インフラの老朽化、脱炭素対応、労働力不足、防災──いずれも単独ではなく、複数が連動する「構造的な難題」だ。
こうした問題に対して、スピードと技術で突破口を開こうとしているのがスタートアップである。現場に即した実装力と、既存制度をしなやかに乗り越える発想力が、その武器だ。
SusHi Tech Tokyo 2025は、国内外から社会課題解決型のスタートアップが集結し、展示と対話を通じて、政策と事業の接点を可視化することを目的としたイベントである。
本稿では、イベント後半(5月9日)に焦点を当て、社会実装を目指すスタートアップが直面している現実、投資家による評価軸、そして都市というフィールドにおける制度・資本・技術の摩擦構造を整理していく(初日の速報記事では、展示会場と大学発スタートアップを中心に現地レポートを掲載した)。
今回の会場では、各分野の技術が単なる研究成果や未来ビジョンとしてではなく、都市や地域の課題への具体的な応用という文脈で展示されていた。注目すべきは、その多くがすでに自治体や企業と連携し、実証実験、あるいは具体的な導入計画に踏み込み始めている点である。
たとえば、車両本体と共に自社開発する自動運転ソフトウェア「Autoware」を展示していたTIER IVは、今年、長野県塩尻市との協業により、自動運転レベル4の公道運行許可を取得。2025年1月には、市内の駅と市役所を結ぶ区間での実証運行を予定しているという。担当者によれば、同様の協議や実験は全国各地の自治体とも進行中で、「自治体側からのアプローチも以前より明確に増えている」と語る。
TIER IVの強みは、オープンソースソフトウェアであることだ。これにより、各地域の交通事業者や行政機関が独自に運用設計を組み立てられる柔軟性を持ち、地域ごとに異なるインフラ環境や住民ニーズへの適応性を高めることができる。地域特有のモビリティ課題に応じて実装設計を変えられるという点で、スタートアップの特性を活かした社会実装の一形態といえる。
その上で、現場で話を聞いた担当者は「市民の理解が最大の課題」とし、地域における情報発信や、道路清掃を含む安全運行の体制づくりにも積極的に取り組んでいると強調していた。データ収集・分析を軸に、技術と住民のあいだをつなぐ「見せ方と伝え方」こそが、今後の鍵を握るとみられる。
日本ムーブが開発したのは、障害者や高齢者など、介助が必要な人のための移動手段を支援する介護タクシー配車アプリ「ムーブ」だ。現在、介護タクシーの登録台数は全国で約5万台、事業者数は1万社を超えるが、ユーザー推定2500万人に対して大きく供給が不足している。単純計算でも、1台あたり500人をカバーしている計算になり、地域によっては利用希望者が車両を呼べない状況が常態化している。
こうした中で、日本ムーブの取り組みは、既存の「電話予約」などアナログな運用が残る介護移動の現場に、アプリという入口を持ち込むことで利便性と透明性を高めようとするものだ。5月末までは実証実験フェーズだが、今後は本格的な事業化を予定しており、移動手段の再設計に向けた提案となっている。
これまで、介護タクシー業界は、既存事業者と自治体との関係性が強く、新規参入も少ないという構造的な問題があった。話をしてくれた同社代表取締役社長の厚地陵佑さんも介護タクシードライバー経験を持ち「ユーザー本位で使いやすく、参入のハードルを下げる仕組みが必要」と語る。高齢化が進む中、台数拡大を推進する政策を実現するのは、こうしたスタートアップの活躍だと感じさせてくれた。
もうひとつ、興味深いスタートアップ企業を紹介しておこう。もみ殻や紙製品を分解したサンプルを展示していた株式会社weadの事業は、「ゴミから新しい商品やサービスをつくる」というものだ。
同社代表取締役の井川桃花さんは「私たちは“ゴミを減らす”会社ではなく、“ゴミは資源”と考えている」と語る。きっかけは、前職で扱っていたコーヒーかすが多用途に再利用できる素材だと気づいた経験からだという。現在は、事業所や地域ごとに最適化された分解プロセスの設計・提案を行い、廃棄物を再活用できる循環型ソリューションの構築を進めている。
その対象は幅広い。たとえば、商業ビル内に分解装置を設置し、排出された紙ごみをその場で資源化・再利用することで、廃棄コストの削減と環境負荷の軽減を同時に実現するモデルも構想されている。エコロジーの視点だけでなく、企業や自治体にとっての「運用コストの見直し」としての導入価値がある点も特徴だ。
今後は、福島県に新たな実証拠点を開設し、これまで分解が困難だったプラスチックやゴムといった素材の再資源化にも挑戦していくという。都市が抱える「見えない廃棄物」の問題に、分解と再設計で切り込むweadの取り組みは、サーキュラーエコノミーの文脈においても注目される存在となるだろう。
SusHi Tech Tokyo 2025は、単なる技術紹介にとどまらず、制度や公共予算との接続を視野に入れた「社会実装前提の展示」が数多く見られた。脱炭素、都市農業、防災、交通支援といった分野では、実証や協定を経て導入をめざす動きが本格化している。
スタートアップにとっては政策への入口を開く場であり、自治体にとっては制度外の解決策と出会う場でもある。これは、制度設計の前段階における対話の場として機能していた。
日本は今、スタートアップ支援と制度改革の両輪で模索を続ける「過渡期」にある。だからこそ、こうした展示会での小さな試みが、次年度の政策や都市の設計思想にじわりと影響を与えていく可能性がある。実装に至る道筋を、スタートアップ自身がつくり出す時代が始まっている。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)