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日本のスタートアップが世界に取り残される…IVSが提案する“世界で勝つための戦略”

2025.06.11 2025.06.12 07:41 ユニコーンアイ
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Whiplus Wangさん

●この記事のポイント
・日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」が、今年も京都で開催される。京都市内全体がIVS会場のようになり、祭的な雰囲気もつくられる。
・IVSは日本のスタートアップが海外の急速な進化についていけていないのではないか、との懸念を持っており、IVSに海外スタートアップを招待する一方で、日本スタートアップ向けに海外ツアーも企画するなど、グローバル化を促進する。

目次

 世界は急速なスピードで変化し、進化を続けている。しかし、日本はその流れに乗り遅れ、取り残されてしまうのではないか――。日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)」は、強い危機感を抱いている。

 2007年から開催されているIVSは、国内外の経営者や投資家、起業家が集まり、ビジネス機会、提携、資本提携を促進することを目的とする。参加者が適切な人々に出会えるプラットフォームへと進化しており、資金調達やビジネスパートナーシップ、人材獲得といった具体的な成果をもたらすよう設計されており、スタートアップがビジョンを共有し、潜在的な投資家やパートナーとつながる機会を提供している。

 IVSが日本のスタートアップの発展に大きく寄与しているのは疑いようもないが、そのIVSが危機感を抱く要因はどこにあるのか。IVS Globalの運営責任者を務めるのは、Whiplus Wangさん。日中英のトリリンガルであり、交換留学などで8つの大学に在籍経験を持つ国際派エンジニアだ。Whiplusさんに、IVSに参画した経緯や、IVS2025への意気込みなどを聞いた。

IVS Global責任者のWhiplusさんに聞く

――日本では約8年前から活動しているそうですが、具体的に活動内容を教えてください。

Whiplusさん 上海在学中は、スタートアップ系のイベントに継続的に関わっており、1000人規模のイベントを年間4本ほど開催していました。来日後は、ヨーロッパ最大規模のフィンランドのイベント「Slush」の日本版で、3年間MCを務めました。

――本業はITエンジニアだと伺っています。

Whiplusさん はい、専攻は情報工学で、グローバルHRイベントや組織改善システムの開発に携わっていました。プライベートでイベント活動をする傍らSaaSのフロントエンドエンジニアとして働いていましたが、その後独立し、旅行プラン可視化アプリ「Journey Note」を開発・リリースしました。

 その後、東急プラザ渋谷で日本初のNFT個展を開催し、大きな話題を呼びました。約3か月間で7000人の来場者があり、これをきっかけに2022年4月からIVSにジョインすることになりました。ジョインしてからは「IVS Crypto」という日本最大級のブロックチェーンのカンファレンスを立ち上げ、そこで運営責任者をやらせていただきました。今年は「IVS Crypto」から領域を拡大し、「IVS Global」というブランドにアップグレードして、引き続き責任者を務めています。

――鉄道で旅行するのが趣味だということですが。

Whiplusさん ずっと鉄道が好きで、実は日本に来た理由の1つでもあります。大学3年のときに全米を列車だけで一周したり、日本では3年前、スターバックスが1カ月限定で「ご当地フラペチーノ」キャンペーンを行っていましたが、その際、各地のフラペチーノを飲むために47都道府県すべてを回りました。

 最近はIVSの活動と並行して、陸路での世界一周にチャレンジしています。中央アジアのウズベキスタンやタジキスタンまでは船と列車で行きましたので、今のところまだ4分の1程度の進捗ですね。

IVSの進化と日本が抱える課題

 2007年から開催されているIVSは、国内外の経営者や投資家、起業家が集まり、ビジネス機会、提携、資本提携を促進することを目的とする、日本最大級のスタートアップカンファレンスだ。

 当初は招待制のイベントだったが、近年では一般公開もされ、規模を拡大している。今年は、最先端のスタートアップ300社が出展する「IVS Startup Market」という新しい企画も実施されるなど、常に進化を続けている。

 Whiplusさんは、IVSの運営に深く関わるなかで、日本の現状に強い危機感を抱くようになったという。

――実際にIVSに携わってみて、どんな感想を持ちましたか。

Whiplusさん 2021年のIVSはまだ400人規模のイベントでしたが、2022年に「IVS Crypto」などで積極的に海外の参加者を入れるようになり、マッチングのところの基盤を作りながら5倍ぐらいのスピードで成長してきました。チーム全員で話し合い、戦略を策定、実行、そして軌道修正を重ねてきました。もともと経営者や決裁者のみを招待するイベントでしたが、一般公開されたスタートアップのプラットフォームへと変貌し、誰もが知るイベントにまで成長しました。そのインパクトや規模の拡大は素直に楽しんでいます。

 他のカンファレンスとの最大の違いは、本当に事業に役立つパートナーを見つけられる点です。圧倒的にネットワーキングの質が高く、他のカンファレンスと比較してもその機会が格段に多い。IVSはその点に徹底的にこだわっています。

 起業家はもちろん、日本のVCは基本的に全員集まります。大企業の新規事業担当者や投資部門担当者も、ほとんど揃っているといえるでしょう。

 そして、コミュニケーションの方法は多様性があって、普通のセッションやブースもありますが、コミュニケーションバーなどもイベント会場にあって自由に人と話せる。セッションが終わったら同じ課題を持っている人と話せるのは良かった点ですね。

――参加する前のイメージと違ったことはありますか。

Whiplusさん 参画する前のことはあまり知らなかったのですが、ちょっと格式高いイベントという噂を耳にしたことはありました。でも、実際に中に入ってみると、運営チームは全員若くて、皆フラットで話しやすいです。そのため、どんな新しい発想も柔軟に受け入れ、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるチームです。風通しが良いチームなので、参加する前のイメージよりもすごく良かったかなと思います。

「IVS 2025」にかける想い

――「IVS 2025」のポイントは?

Whiplusさん 今年は最先端のスタートアップ300社以上が出展する「IVS Startup Market」という新しい企画を実施します。各領域・各大陸から、海外スタートアップ100社以上を含む世界中の最先端のスタートアップのみが出展するため、どのような業界・分野においても、最も進んだ企業や人物と直接話すことができます。スタートアップの経営者には人脈や資金調達、海外進出などいろいろなリソースが不足していて何をすればいいのか悩んでいる人も多い。人材採用や行政との連携、市場拡大など、今年のIVSではそれら全てを網羅的に支援できる体制が整っています。

 IVS本体のイベントだけでなく、昨年もそうでしたが、京都市の中央周辺ではサイドイベントをたくさん行っています。1日に100くらいのイベントを同時に開催しているので、京都市内の至る所でIVSバッジをつけた人々がIVS関連イベントに参加しており、街全体がIVS会場となります。それらの会場でも、さまざまな人と仲良くできるというのは、IVSに参加する醍醐味ですね。お祭り的な雰囲気も作ります。

――今後さらに多くの海外企業がIVSに参加することがイベント成功のカギになりそうです。

Whiplusさん 私自身がバックパッカーだったので、多くの国を飛び回って最も感じたのは、しっかりと経済が発展している成長度合いの高い都市・地域は、必ずグローバルの度合いが高いところです。「なぜ日本の成長が鈍化したか?」と聞かれたならば、「国際化が停滞し、グローバルな視点を取り入れきれていなかったから」と答えると思います。

 ニューヨークもロンドンも上海も、グローバル都市では外国人比率や外国人の活躍度合いが日本よりはるかに高い。どの都市でもグローバルマーケットやグローバル人材を取り入れながら成長しています。

 だから、私はすごく危機感を感じています。世界は急速に進化しているのに、日本はその流れに取り残されているのではないかと。今回のテーマはそうした思いから決めました。そして、「Reshape Japan with Global Mindset」というキャッチコピーを作りました。グローバルマインドで日本を再構築するという意味です。海外の最先端の企業やVC、あと海外の政府などがみんな集まって日本の企業家や投資家と交流する場を設定します。

 実はIVSでツアーもやっています。去年、インドで開催することもあったのですが、今年はアフリカ、来年は中国でもIVSツアーをやる予定です。IVSで会った方々とさらに現地に飛び込んで体感して、グローバル進出の第一歩を実現するという狙いです。こうした取り組みを通じて、全方位的に日本のスタートアップ強化とグローバル化を推進していきたいと考えています。

日本の強みと課題

――日本のスタートアップは、どの業界や分野で特に強みを発揮できそうですか。

Whiplusさん 個人的には2つあると思っていて、1つはコンテンツ産業。世界のどこに行っても、やはり日本アニメのグッズなどを販売している場所があります。日本文化に関するもの、例えば伝統工芸品なども高く売っていますね。ポケモンもスーパーマリオも世界中の人々の共通言語になっていますし、ソフトパワーは日本にとって最強の武器だと思います。それをいかに伸ばして拡大してマネタイズしていくかというのが、日本にとって大きなチャンスです。

 2つ目は製造業です。単に先進的な製造技術にとどまらず、細部にまでこだわった高品質な製品を通じて、人々の暮らしそのものを豊かにするライフスタイルの提案ができる点が特徴です。

 今年のIVSのオープニングセッションは、メモアプリ「Notion」の創業者と京都市長の対談コンテンツなのですが、IVS Globalチームで企画しました。実はNotionは京都で創意されたものです。アメリカのソフトウェアでありながら非常にシンプルで、まさに「侘び寂び」を感じさせるデザインです。シンプルでありながらも多機能で、あらゆるニーズに対応できます。創業者の2人は2年間、京都で最初のコードを書き始め、プロダクトの基礎を京都で作り上げました。その後、アメリカに持ち帰って事業を展開し、今では数億人のユーザーを獲得するに至ったそうです。

 コンテンツという表層のところと哲学というコアのところを外国人も理解して、しっかりプロダクトになるという1つの事例です。こういうモノづくりは日本のチャンスです。

――Whiplusさんは日本人の気づかないところに気づいていると感じます。

Whiplusさん 私は海外にも長く滞在しますが、日本に戻るたび安心感があるんです。空港も住む家もクオリティが高い。細かいところにこだわりがあり、ライフスタイルの質が素晴らしいです。世界には多くの富裕層がいますが、生活のクオリティに対する意識や価値観は、日本のそれとは異なる部分が多いと感じます。それは「侘び寂び」といった、生活に対する考え方の違いに起因するのかもしれません。

 整理整頓や断捨離といった考え方があれば、人間としての幸福度がさらに向上するのではないかと考えています。このような日本のライフスタイルを世界に広めていきたいですね。これから多くのスタートアップもそういう日本の生活の美学を世界中に展開してほしいです。

IVSの挑戦

 Whiplusさんの言葉からは、日本の現状に対する強い危機感と、それを打破しようとする熱意がひしひしと伝わってくる。日本の強みと課題を冷静に見つめ、グローバルな視点から具体的な戦略を示すその姿は、まさに「Reshape Japan with Global Mindset」を体現するものだ。IVS 2025、そしてこれからのIVSの展開は、日本のスタートアップが世界で飛躍するための大きな推進力となるだろう。日本の未来は、今、この場所から力強く動き出そうとしている。

(構成=横山渉/ジャーナリスト)

IVS2025開催概要
正式名称:IVS2025
日程
 ・メインイベント:2025年7月2日(水)〜4日(金)
 ・IVS Youth:2025年7月5日(土)
場所:京都市勧業館「みやこめっせ」、ロームシアター京都 他
主催:IVS KYOTO実行委員会 (Headline Japan / 京都府 / 京都市)
公式サイト:https://www.ivs.events/
公式SNS:https://x.com/IVS_Official

横山渉/ジャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。