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飲料業界の再編勃発か!?

アサヒ、カルピスを買収して『お〜いお茶』打倒に燃える理由

文=永井隆/経済ジャーナリスト
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アサヒ、カルピスを買収して『お〜いお茶』打倒に燃える理由の画像1「カルピスHP」より
 5月8日、アサヒグループホールディングスはカルピスを買収すると正式に発表した。

 アサヒが10月1日に、味の素が所有するカルピスの全株式を約1000億円で取得する見通しだ。国内飲料市場でシェア単独3位のポジションを強固なものにする狙いがあるものの、今後、他社がM&A(企業の買収・合併)に乗り出さないとは考えにくい。国内飲料メーカーの再編がふたたび加速する勢いのなかで、アサヒが市場における存在感をより強固にするためには、カルピスの買収プラスアルファが求められる。

 清涼飲料市場は、11年で約17億ケースの規模。このうち自動販売機での販売が3割、コンビニやスーパーなどの”手売り”が7割となっている。少子高齢化が進み、微減傾向が続いているのが実情だ。需要が伸びない一方、”地サイダー”メーカーなど中小を加えると約200社がマーケットではひしめいている。そのなかで自動販売機での販売を展開する大手はおよそ20社弱。販売シェアは上位5社で8割以上を占めるなど寡占化も進んでいる。

センミツマーケットで苦心する基幹ブランド育成

 ただ、新商品がヒットする確率は「センミツ(千に三つ)」といわれるほど低く、業界関係者は四苦八苦で開発を行っている。そこで大きなポイントとなるのは、基幹ブランドを育てることだ。スーパーマーケットやコンビニの売り場面積は、毎年ほとんど変わらない。自販機の数も設置スペースの争奪戦が激しさを増し、簡単には増えない。そんな中、基幹ブランドは、ニーズに応じて売り場から撤去されない定番商品として、安定的に販売される傾向にある。アサヒは、M&Aによりカルピスという会社を買うとともに、基幹ブランドを育成する時間を手に入れたことになる。

 つまりアサヒは、労せずして日本で最も古い飲料製品ブランドのひとつを手に入れたといえよう。1919(大正8)年に日本初の乳酸菌飲料として発売を開始したカルピスは、すでに90年以上もの歴史を持っている。カルピスを知らない消費者は少ない。もし今後発売される新しい飲料製品に莫大な投資をしたとしても、カルピスほどのブランド力を持つ製品に成長する可能性は、どんなメーカーでもそう簡単なことではない。ほとんどないに等しいと言ってもいいほどだ。売り出された時代背景が異なり、前述したように、年々人気ブランド製品や基幹ブランド製品が出にくくなっているからだ。

 アサヒの清涼飲料子会社、アサヒ飲料は10年ほど前には深刻な経営危機に陥っていた。それを『三ツ矢サイダー』、缶コーヒー『ワンダ』、『十六茶』の3ブランドにリソースを集中して売ってきた。この結果、経営危機を脱し、07年にはカルピスの自販機事業と統合した経緯がある。10年のアサヒ飲料の販売量は1億5900万ケースでシェア9.2%。これが11年は1億7280万ケースとなりシェア9.9%、キリンビバレッジを抜いて4位に浮上した。

 一方、カルピスの年間販売量は4500万ケース前後で推移していて、シェアは3%弱。アサヒとカルピスは、「自販機販売分でダブっているのが1000万ケースある」(アサヒ)ため、これを差し引いて合算するとおよそ2億1780万ケース。シェアは12%台にまで達し、伊藤園の11%を抜き、1位のコカ・コーラグループ(約28%)、2位のサントリー(約22%)に次ぐ3位に浮上する計算だ。

 アサヒの泉谷直木社長はカルピスの買収について「各カテゴリーでナンバーワンか、ストロング2のブランドを持たなければ生き残れない。乳酸菌でトップのカルピスブランドは非常に魅力的だった」と話す。

狙いは業界単独3位で市場支配力アップか

 今回アサヒがカルピス買収に踏み切ったのは、「単独3位のポジションを早く確立したかったからでは」との見方がもっぱらだ。特に、「ペットボトル茶のNo.1ブランドである『お〜いお茶』を持つ伊藤園が好調を維持しているため、何としても抜き去りたかったはず」(ライバル社幹部)とみられる。短期間に5位から3位へと浮上すれば、流通に対する影響力を強められる。いわばマーケットを支配する立場に立てるというわけだ。

 大手スーパーとコンビニを中心とする流通の現場は、この売り上げシェアに非常に敏感だといわれる。当然、売れている製品ブランド、旬の商品に対して優先的な販売スペースを確保するようにもなる。売り上げが伸びていくほど、この傾向は強まる。ブランドのバリエーションも広がり、結果的にはマーケットのなかで支配的なポジションに立つことになるわけである。

 清涼飲料を含む食品事業は、国際化が遅れている代表業種だ。ただ、日本国内では人口が増えないため国内市場の伸びは期待できない。特に、今年から団塊世代が65歳に達して、サラリーマンをリタイア。給与所得者から年金受給者へと変わっていくのに伴い、消費が漸減するのは確実だ。

 業界の上位にいることは、生き残りの必須条件。今回のM&Aは、企業数が多い食品・飲料業界全体の再編、合従連衡が加速していく引き金になる公算は大きい。実際、10年にまとまる寸前で破たんしたキリンホールディングスとサントリーホールディングスの統合も、その狙いは圧倒的な国内の首位企業となり海外に打って出る計画にあった。

今後も増えそうな傘下入れ手法の合併・統合

 今回、アサヒはカルピスをアサヒグループホールディングスの傘下に入れ、アサヒ飲料と合併させない方針だ。02年に当時のアサヒビールは旭化成酒類部門と協和発酵酒類部門を買収したが、このときは買収したアサヒの制度に合わせて人事統合を行った。が、昨年7月に持ち株会社制に移行。今回のようなお互いの会社を存続させる方式がやりやすくなった。

 この手法のほうが、買収される企業の社員に与える変化は比較的少ない。社名や給与体系が、突然変わるわけではないからだ。特にカルピスの場合は、牛乳をあつかうという専門性が要求される工場を持つ。変えてはならない部分もあるだけに、アサヒには慎重さも要求される。

 伝統企業が多い飲料・食品業界のなかで、今回のように会社を残して、まずは融和を優先させるM&Aが増えていく可能性は高いといえるだろう。アサヒ+カルピスがその試金石となるかどうか。そのためにも「1+1=2』ではなく、合計が3や4に上るといったプラスアルファ分まで効果が出せるかどうかが、カギを握りそうだ。
(文=永井隆/経済ジャーナリスト)

永井隆/ジャーナリスト

永井隆/ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒。東京タイムズ記者を経て、92年にフリージャーナリストとして独立。「サントリー対キリン」(日本経済新聞出版社)など著書多数。

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