建築用・自動車用ガラスで世界首位級のグローバル企業、日本板硝子が4月18日開いた社長交代の緊急会見でのこと。外国人社長の突然の退任劇は粉飾決算事件を起こしたオリンパスと似ているとの指摘に、藤本勝司取締役会議長兼会長(68)は語気を強めて、こう否定した。会見の場に、渦中の人であるクレイグ・ネイラー前社長兼CEO(最高経営責任者)(63)の姿はなかった。
退任の理由について藤本会長が、ネイラー氏から託されたというコメントを代読した。「ほかの取締役メンバーとの間で戦略の方向性や進め方で考え方の不一致があった。ただし、具体的に(不一致の)中身に立ち入ることはしない」というものだった。
「他の取締役」が最高実力者の藤本氏を指すのは明らかだ。会見の場で、「不一致(の内容)とは何か」と詰め寄られた藤本氏は「高付加価値商品や新興国への注力といった基本方針は一致していたが、その展開の優先順位や組織運営で不一致があった。具体的な内容は機密事項もあり、差し控えたい」と逃げた。
あくまで「ネイラー氏から4月上旬に辞任したいとの申し出があったもの。解任ではありません」と強調。結局、ネイラー氏の退任の理由はわからずじまいだった。
交代の会見は突然だったが、トップ交代に驚きはなかった。ネイラー社長の退任は既定路線と見られていたからだ。実際、ネイラー社長が辞任を申し出て副社長の吉川恵治氏(61)の社長昇格が決定するまで、実に手回しがよかった。
今年2月1日、代表執行役の異動があった。執行役の吉川氏が代表執行役副社長兼CPMO(最高プロジェクトマネジメント責任者)に選任された。これにより代表執行役は、ネイラー社長兼CEO(当時)と2人になった。
CPMOとは、早い話、リストラの責任者のこと。全世界の従業員の1割にあたる約3500人を削減、英国で建築用ガラスを生産しているガラス窯1基を停止する。リーマン・ショック後の10年3月期にも当時の従業員の17%にあたる約6700人を削減しており、大規模なリストラは、今回で2度目だ。
リストラの具体策の策定と、その実施の最高責任者に、ネイラー氏ではなく、新たに代表執行役に就いた吉川氏が選出されたわけだ。ネイラー氏は藤本氏に権限を剥奪され、事実上のお役御免を言い渡されたも同然だった。この時点で吉川氏の次期社長昇格は、既定路線になったといっていい。