「矢野会長の独裁ぶりは、かつての関本忠弘会長を髣髴(ほうふつ)させる”天皇”状態になっている。遠藤社長は会長の操り人形でしかない。業績悪化の最高責任者でありながら、彼が辞めないのは、経団連副会長ポストを狙っていたからだ。年明け以降、ずっと動いていた」(NECグループの幹部)
矢野氏は日本経済団体連合会(米倉弘昌会長=住友化学会長)の評議員会副議長の1人。経団連の副会長には、エレクトロニクス業界からはすでに西田厚聰・東芝会長(68)と川村隆・日立製作所会長(72)が就いている。猟官運動も虚しく、予想通り、副会長の椅子に座れなかった。
「どの企業も自社の立て直しに必死で、財界活動などやっている余裕はない。そんな中で、矢野さんは希有な存在だ。それにしても、NECのような業績最悪の代表選手が、財界活動とはねえ……」と、財界関係者は呆れていた。
戦略なきグローバル化に不安が募るNEC
NECの失速の原因は、海外展開の出遅れと既存事業、とりわけ携帯電話事業の不振に尽きる。2012年3月期の連結最終損益は、150億円の黒字から1000億円の赤字に転落の見込み(ソニーやシャープの例を見ても分かるが、もっと赤字幅は拡大するかもしれない)。1万人規模の人員削減を断行するうえに、2期連続の赤字を理由に労働組合に”賃下げ”を提案し、3月27日に組合員の賃金を一律4%カットすることで合意した。期間は4月から年末までの9カ月間だ。09年にも2万人のリストラを実施したばかりだが、収益悪化に歯止めはかからないままだ。
10年に発表した中期経営計画で、「13年同期までに売上高4兆円、営業利益率5%」という目標を掲げたが、「今の実力では(達成)不可能」(遠藤信博社長)と、これを撤回した。
完全子会社でノートパソコンや携帯電話に利用されるコンデンサーで世界シェアの14%を占める電子部品メーカーのNECトーキンを、米電子部品メーカーKEMET(ケメット)に売却するなど、なりふりかまっていられなくなった。
電電ファミリーだったNECは、NTTグループからの受注で収益を上げてきた。今でもNTTは最大の顧客であり、こうしたNTTへの依存体質が、海外進出を阻害した。18年3月期までに海外売上高比率を50%に高める目標を掲げているが、11年末時点で17.2%にとどまる。ライバルの富士通は同31.5%あり、海外の売上高では3倍もの差がついた。
携帯電話事業も同様だ。NECは、NTTドコモ(山田隆持社長)に新製品を買い上げてもらってきた。ドコモが携帯電話で独走していたころ、同社の携帯端末は、国内でトップのシェアを誇った。しかし、スマートフォン(多機能携帯電話)時代に乗り遅れ、米アップルや韓国サムスン電子に国内シェアを奪われた。スマホの普及のスピードを見誤ったため、12年3月期の携帯電話の出荷台数を当初の740万台から500万台に引き下げた。
ここにきて、NECは苦境を打破するため海外展開の強化に乗り出した。米大手通信サービス会社コンバージズから、課金システムなど、通信会社向けのシステム事業を買収。携帯電話では中国市場へ再参入する。一度、撤退した中国に再トライするわけだが、戦略性もなければ、成長シナリオも見えてこない。
「先ず隗より始めよ」という言葉がある。いまのNECに求められるのは、経営トップが自らの責任を明確にして、辞任することだ。トップ人事が伴わなければ、迷走を食い止めるスタートラインがはっきり見えてこない。
(文=編集部)