経産省(「ウィキペディア」より)
エルピーダの生死を左右したのは国の意向
2月27日、エルピーダが会社更生法適用を申請する直前まで、エルピーダと銀行団はギリギリの攻防を続けていた。結局、話し合いが物別れに終わったのは、政府系の日本政策投資銀行(政投銀)が、最後まで支援継続に首を縦に振らなかったからだ。金融筋は「エルピーダには強力なメーンバンクが存在しない。生き死には国の意向次第だった」と語る。
2009年の経営危機では経産省が動き、産業活力再生特別措置法(産活法)を適用し、政投銀が融資に踏み切ったことで、民間銀行も顔色をうかがいつつ、エルピーダへの協調融資に踏み切った経緯がある。当時、すでに政府内には「なぜDRAMを支援するのか」という議論はあった。
というのも、DRAMはパソコンの記憶媒体に使われる汎用品。そのため、市場の需給で価格が乱高下を繰り返すため、付加価値も低く、予測がつきにくいからだ。前回はインサイダー疑惑で逮捕された経産省の元幹部とエルピーダの坂本幸雄社長が周囲を説き伏せたが、今回は同事件の影響も暗い影を落とし、結果的には政府・経産省内の支援反対派による「完全な再建計画がなければ支援はしない」との考えが押し切ったかたちだ。
次の焦点は、ルネサスエレクトロニクス・富士通・パナソニックの事業統合
国がエルピーダに見切りをつけたことで、戦々恐々としている企業は決して少なくない。エルピーダ再建と並び、現在、半導体業界の焦点は、ルネサスエレクトロニクス、富士通、パナソニックの事業統合だ。デジタル家電の「心臓部」・システムLSI事業を統合し、新会社を設立する計画がそれで、この枠組みの成立のために不可欠なのが、官民出資の投資ファンド・産業革新機構の後押しだからだ。
システムLSIは複数の機能をワンチップに統合した製品。ただ、現状を見る限り、ここ数年は過剰品質に陥り、開発費や設備投資を回収できず、赤字体質が続く。各社はこの不採算事業の工場を官民ファンドに買い取ってもらい、設計に専念し固定費負担を減らす考えで一致した。しかし、交渉に乗り出したところでエルピーダ破綻が直撃した。09年、国はエルピーダに公的資金を注入したことについて、世論から批判を受けており、システムLSI再編に表立って金をつぎ込むのが難しくなった格好だ。
経産省筋からは「半導体産業はもはや自助努力で頑張ってもらうしかないという意見が、ますます省内でも強まっている」と語る。再編が遅れれば、国内に約20工場を抱え、リストラが遅れるルネサスなどが第2のエルピーダになる可能性も出てこよう。一時期は日本の産業界をリードしてきた「日の丸」半導体は、どこへ行こうとしているのか――日の丸が消え、「白旗」半導体になる危機が訪れようとしている。
(文=経済ジャーナリスト/江田晃一)