一方で、最近ではスーパーや回転寿司でも「ミンククジラ」の文字を目にすることは多い。IWCは、日本に対して年850頭までのミンククジラの捕獲を「調査捕鯨」として認めており、ここで捕獲された鯨肉が市場を介して小売店に並ぶからだ。馬刺しを思わせる赤身のもっちりとした触感を「たまらない!」と喜ぶ寿司ファンは多い。
そんなわけで、回転寿司でミンククジラを目にしても驚かない昨今だが、店によってはミンクではなく、「ナガスクジラ入りました!」などという張り紙を目にすることもある。先日も、あるチェーン系の回転寿司店で、ナガスクジラのベーコンが2貫220円で売られていた。
「ミンクが調査捕鯨で獲れるのは知っているけど、ナガスはなんでOKなの?」
お店の若い店員さんにそう聞いてみたが、「うーん、深く考えてませんでしたけど、いいと思ってました。仕入れはノータッチなんで……」と、もごもごとした返事。
次にその回転寿司チェーンの本部に電話をして聞いたところ、「わかる者がいないので詳しいことはわからないが」との前置きのもと、「たしか、ナガスもOKだと聞いてますよ。仕入れルートは企業秘密なんで言えないんですよ、すいません」とアバウトな回答が返ってきた。
そこで、監督官庁である水産庁の資源管理部国際課に電話で聞いてみると、次のように回答してくれた。
「誤解されている方も多いのですが、南極海での調査捕鯨が許されているのはミンクだけではないんです。ご承知の通り、ミンクは年間850頭が上限ですが、ミンク以外にも、ニタリクジラやイワシクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラも捕獲しておりまして、ナガスに関しては、計画上は上限50頭までは獲れることになっています。ただ、実際にはナガスはそんなに獲れなくて、年間でもせいぜい1頭か2頭。ですので、店頭に並ぶ量で圧倒的に多いのはアイスランドからの輸入です。年間1000トンくらいは輸入しているんですよ。ご覧になったナガスがどういうものかはわかりませんが、一般の回転寿司店にあること自体は不思議なことではないんです」
なるほど、聞いてみると意外にもあっけない答えだが、それにしても850頭という捕獲数は、「調査」という目的から考えて、少なくとも素人目には多すぎる印象を受けるわけだが、これについての妥当性はどうなのだろうか。併せて聞いてみた。
「その質問もよく頂くのですが、調査捕鯨における捕獲頭数というのは、統計学的な計算に基づいて決められた数字なんです。天然生物資源の動向を把握するための科学データには、統計学的に一定以上の確実性が必要となります。何十万頭もいるクジラに関する科学データについて、必要最低限の確実性を得るためには、一定数のサンプルがどうしても必要となります。逆に言えば、この確実性を得られないのでは調査の意味がないということです」
例えれば、日本人の平均身長を算出する場合に、5人や10人の身長を測るだけでは、サンプルが少なすぎて確実性のある調査結果が得られないというのと同じ理屈だ。
クジラやイルカ保護の問題については国際的に議論が紛糾しているのが現状だ。ただ、少なくとも日本国内の寿司屋でミンク以外のクジラを目にしても、安心して味をご堪能頂き、あわせて日本の食の歴史と文化に思いを馳せてほしいものだ。
(文=編集部)