元外資系部長、ユニクロ元マネージャーであり、現在『とくダネ!』(フジテレビ系)コメンテーターとしてもお馴染みの田中雅子氏。長年現場のマネジメントにたずさわり、数々の全社プロジェクトを成功させ、企業成長を支えてきた田中氏が、ビジネスパーソンが自らをリーダーに成長するためにやるべきことを指南する。
5月、自著『仕事の基本』(学研パブリッシング)が発売され、多くの方から反響をいただきました。私の会社のオフィシャルWEBサイトにも多数の投稿が寄せられ、その中には、無記名でただの誹謗中傷としか思えないようなものもありました。それを読んだ当社の社員が、「ひどい! 田中さん、どう思いますか?」と言って私に見せてくれました。
その社員が大騒ぎしている姿が印象的だったので、その時どのように返事したか忘れてしまいましたが、匿名で書いてくるのは、正々堂々としておらず、賛成できません。きっちりとした反対意見があれば、名前も書いて、「田中さんの意見は違うと思う。だから、私はこう思う」となっていれば、「そうか。そんな意見もあるんだな」と受け止めることができるのです。
最近、コンサルタントとしてさまざまな企業を訪問して感じることは、文句やグチのみを「言いっぱ」でいう人がとても多いということです。でも、リーダーを目指すのであるならば、文句やグチから新しい提案に結びつけることが大切です。そうしないと、文句やグチを言い合っているだけでは、状況は何も変わりません。
しかも、実は文句やグチの裏側には、業務を改善するヒントが隠れていることが多いのです。そうした言葉の裏には、「だから、こうすればいいのに」という改善の種が転がっている。それを見つけることができるかどうか、またそのような提案ができるかどうかが、リーダーの役割なのです。
「なんとかしろよ」は、”オヤジマネジメント”
部下に「この書類をA部署のBさんに持っていってもらえますか?」とお願いすると、次のようなグチを言われたことがあります。
「私は、自分の部署以外の人はよくわからないんです。だから書類持っていけないのです」
このような時に、「A部署に行って、名前を呼べばいいだろ!」とか「名前と顔ぐらい覚えろよ!」などと言い、年配の男性上司が一蹴してしまう「オヤジマネジメント」が幅を利かせた時代もありました。その部下には、そうしたうっぷんが溜まっていたせいもあるようなのですが、とにかく「私はわからないんです」の一点張りでした。
そこで、顔と内線番号がみえる、社内ポータルサイト上の内線検索システムを、なるべくコストをかけないように構築することにしました。完成してみると、どの社員の顔もわかるので、書類などを持っていく際もスムーズだと好評でした。また、業務もスピードアップしましたし、コミュニケーションロスも減りました。
しかもその写真は、全員スマイルにしました。日本人は写真に映る時に、運転免許証のようにしかめ面になってしまうことが多いのですが、みんな笑って「待っていま~す」という感じの写真にしました。部下のグチを「オヤジマネジメント」で一蹴するのではなく、文句やグチの裏側にあるものをすくい上げて、業務改善に結びつけたのです。
「こうしてもらえませんか」というネガポジ思考
以前、管理職として入社したばかりの私は、このような文句やグチに遭遇することがありました。当時の部下からは、
「なんで田中さんが私の上なんですか? 僕のほうが昔からいるから、業務がわかっているのに……。わかっていない人は口を出さないでください」
と、面と向かって言われたこともありました。これには堪えましたね……。
でも、その文句やグチはどこからきているのか? 何が本質的な不満なのか? を探っていくと、彼が会社に何年もいるのに、事務処理ばっかりやらされるのに辟易して評価も上がっていないことがわかりました。そこで、アナログ的な事務処理をシステム化するプロジェクトのプロジェクトリーダーに任命しました。業務の細部まで理解しているので、システム化もスムーズにできました。
システム化もほぼ目途が付いたある日、彼が私に謝ってきました。
「田中さん、生意気言ってすみませんでした。こんなに人をまとめていくのが大変だとは、思いませんでした」
彼の場合、私が文句やグチの裏側にあるものを想定して、リーダーという”場”を提供したのですが、最初から彼から「こうしてもらえませんか」という具体的提案を受けていたら、もっとスムーズにそして早くプロジェクトリーダーになれるチャンスを得ることができたと思います。ちなみに彼は、現在別の企業でCFOとして活躍しています。
このように、ただ単に文句やグチを言うだけではなく、上司に対して「こうしてもらえませんか」「こうしたほうがもっと良くなると思います」という提案をすることができれば、自分の力で自分が活躍できる”場”をつくるチャンスを広げることができるのです。
そのためには、文句やグチを「ネガティブな”言いっぱ”のストレス発散」「相手への攻撃」で終わらせるのではなく、「ネガディブをまずポジティブに変換して」そして、「ポジティブな提案」を付加していくだけでよいのです。
そう、”ちょっとだけポジティブ”に考えるだけで、全然違った良い結果につながる可能性が広がります。