2年前の出向社員を正社員として雇わされる?
「何か起きるなという感じはありますね」――ルネサスと取引のある商社社員はこう漏らす。同社はルネサスの前身の一社である旧NEC系列企業。今はルネサスとは資本関係はないが、取り扱う製品は依然としてルネサス製品が多いという。ルネサス誕生後の2010年には、ルネサスの人員整理の一環で約30人の出向社員を引き受けているが、いま社内で噂になっているのが、この30人の処遇についてだ。
この商社の幹部は、「出向からなし崩しで転籍になり、当社が雇用を引き受けさせられるのでは……資本関係がないとはいえ、ルネサスの製品が主力だけに、こちらからは(雇用引き受けを拒否するなど)あまり強気なことは言えない」と語る。
資本関係のない商社が、なぜ取引先の人員を引き受けるのか? その解は10年4月の旧NECエレクトロニクスと旧ルネサステクノロジの合併による現ルネサス誕生にある。旧2社は電子機器を制御する「マイコン」が中核事業であることなど、事業構成が似ていたが、営業のスタイルはまったく異なっていた。旧NECエレは代理店を通しての販売が多かったが、旧ルネサスは直販比率が高かった。旧ルネサスは拠点網が広く、代理店を活用する必要性が少なかったためだが、統合後、縮小する国内市場の収益性を少しでも高めるために、本体の販売管理費(販管費)を減らす必要に迫られた。結果、同年秋までに旧ルネサス商圏の一部を、主にNEC系列の大手商社に譲渡した。
当然、譲渡されたこの商社は売上が拡大する。「正直、黙っていても売上が伸びるので、統合の効果は大きかった」(旧NEC系列)との声すらある。その時、商圏譲渡の裏でひっそりと決まったのが、本体社員の商社への出向だ。ルネサス元営業担当社員は、「商圏が本体から消滅すれば、そこの営業マンは仕事がなくなる。出向は当然だ。長期的には転籍させて固定費を下げる狙いがあったのでは?」と背景を説明する。
転籍できたほうがラッキー
こうした経緯もあり、1商社あたり20~40人の規模で複数の商社に計200人が出向。すでに本体に戻った社員も若干いるものの、9割方はいまだに出向状態という。ある出向社員のひとりは、「戻れるのではと一縷(る)の望みをかけていたが、今となっては本体があの状態。転籍できたほうが良いかもしれない」と漏らす。
ただ、引き受ける商社側としてはたまらない。国内半導体商社の売上高は、最大規模でも2000億円前後。加えて出向を引き受けている各社は、ルネサスとの取引が多い。そのルネサス自体が事業構成を大きく見直しており、取扱高が今後縮小の道をたどるのは必至だ。いくら商圏を譲渡されたとはいえ、その商圏自体がジリ貧になる可能性が高い今、余計な人員を抱えこむなど、とんでもない話なわけだ。