使われている。(「Thinkstock」より)
「ウチも有名になりましたよ。震災でね……」――ルネサス社員は自嘲気味にこう語る。産業界にも大きな爪痕を残した東日本大震災。皮肉なことに、ここで一躍、名前が知れ渡ったのがルネサスかもしれない。同社の那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災したことで、自動車のエンジンなどの頭脳の役割を果たす「マイコン」の生産が停止した。在庫不足が懸念され、自動車各社は生産調整に追われ、基幹産業である自動車産業のボトルネックとなったことで世界中の注目を集めてしまった。
必需品製造なのに、なぜ利益を出せないのか?
普段はメディアの出入りが多くない同社だが、工場の復旧状況を説明するため、複数回開催したマスコミ向け説明会には海外メディアも駆けつけた。生産状況などに加え、質問が集中したのが収益性の問題についてだ。
「自動車各社にとって不可欠な部品の生産なのに、なぜ利益が出ていないのか?」
疑問が生じるのも当然だ。実際、ルネサスの業績は低空飛行が続いている。売上高はジリジリと下がり、2012年3月期は1兆円を大きく下回る8000億円台に落ち込む一方、最終損益は10年度の会社誕生以来、2期連続の赤字が確実となった。営業損益も赤字に転落する見通しだ。手元資金も1年前の約半分に落ち込む。
「あまりにも固定費が重すぎる。それがすべて」と、外資系アナリストは語る。実際、売上高がルネサスとほぼ同等の競合他社・米テキサス・インスツルメンツと比べると、従業員数は1万人もルネサスのほうが多い。売り上げが同程度で工場を持たないファブレスの米クアルコムと比べると、2倍以上に達する。利益を黒字に戻したところで成長の道筋は見えにくいのが現状である。
大手3社の寄り合い所帯が、かえって困難な局面を招いている
膨れ上がった人員と工場の背景には企業の出自がある。日立製作所と三菱電機が03年に統合してルネサステクノロジが誕生。そこに10年には、NECから分離したNECエレクトロニクスが合流した。3社の大株主の思惑の違いもあり、統合後の事業整理は世界標準から大きな後れを取った。工場の売却話も旧ルネサス時代から幾度も浮上したが、ほとんどが破談。日立関係者は「ルネサステクノロジ時代、経営陣が外資系ファンドへの売却を詰めていたが、日立のトップが待ったをかけたこともあった」と話す。現在も複数工場の売却交渉を水面下で進めるが、実際には難航しているとみられる。かつては「外資には売れない」と強硬な姿勢を示していたが、現在は逆に、売りたくても売れないのが現状だ。