(ダイヤモンド社/8月25日号)
引き金になったのは、大手半導体メーカーであるルネサスエレクトロニクスの大リストラと、エルピーダメモリの破綻だ。これまでも業界では、国内企業から海外への人材流出は日常茶飯事だったが、日の丸半導体が終焉(えん)を迎えそうな今、優秀な人材が日本に見切りをつけるのはどうやら避けられそうもなく、加速していく様相も見せ始めている。
米国・フリースケールがエンジニアを3倍増に
「フリースケールが大量に募集しているらしいと、社内でも話題ですよ」
ルネサス社員はこう話す。フリースケールとは、自動車や家電などの制御に使うマイコンで、世界2位の米国フリースケール・セミコンダクタのことだ。実際、ホームページを見れば、自動車用マイコンの営業技術者を中心に、複数の職種で採用をしている。同社に近い関係者によると、実数こそ明らかにされていないが、「秋までに自動車用半導体の技術者を年初の3倍に増やす」と、急拡大する計画を掲げているらしい。当然、大リストラで経営の先行きに不安を感じたルネサス社員が、人材市場に流れ込むことを見据えての一手ともいえよう。
フリースケールは、2010年4月にルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが合併して現在のルネサスが誕生するまでは、マイコン市場シェアでは10年以上にわたり世界首位だった。その当時から課題だったのが、ルネサスのお膝元である日本での事業拡大。ルネサスの日本における自動車向けマイコンのシェアは、9割近いともいわれる。ルネサスが弱り目の今、人材を補強し、切り崩しに躍起というわけだ。
ルネサスにエルピーダ……日本は人材の宝庫(?)
外資が人材を引き抜く企業として目をつけるのは、実はルネサスばかりではない。2月末に破たんしたエルピーダメモリでも、人材流出の懸念が高まっている。
エルピーダが手がけるDRAMは、主にパソコンの記憶媒体に使われる。エルピーダの破たん後、「DRAMそのものが、技術的に廃れつつある半導体」との論調も少なくなかっただけに、人材引き抜きを意外に思う人がいるかもしれない。「DRAMは汎用品の上、DRAMを発明したインテルによって、規格ががんじがらめにされている。性能向上の手段がないに等しい」(東芝関係者)との声は実際に上がっている。
ただ、DRAMがデジタル機器に不可欠なのは、今も、そして当分先でも変わらない事実だ。現在、半導体ではデバイス単体の性能ではなく、自社の中核技術に周辺の技術を取り込んだシステムでいかに勝負できるかが事業拡大のカギだからだ。「インテルのようなCPU(中央演算処理装置)メーカーであろうと、東芝のようなNAND型フラッシュメモリーメーカーであろうと、機器メーカーに対して主導権を握ろうとすれば、DRAMの技術は必須。実際、米インテルがエルピーダの技術者を一本釣りしようとしていると聞いている」(外資系メーカー幹部)
韓国勢躍進の裏に、流出した日本の技術者たち